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オランダ観察日記 EURO2020 グループC オランダVS.ウクライナ

 運営さんのお力添えもあり、放置気味になっていた時期見た中でズらせていただいたこのnote。サッカーをあまり見ない方にはサッカーを好きになってもらい、サッカーが好きな方にはより楽しめる材料を提供できるようにこれからも頑張っていきたいと思います。みなさんのフォローやいいね(スキ)がこのブログに限らず僕の生活の励みになっているので、これからも何卒宜しくお願い致します!(コメントも気軽にどーぞ❕)

 EURO開幕ということで、やっぱり一発勝負のナショナルマッチにはクラブのリーグ戦とは異なるヒリヒリ感があるなーって感じてます。今大会は第1節の12試合中ビックチームを中心に7試合見た中で、個人的なファーストインプレッションが最も良かったオランダを追っていこうかなと思います。

なぜオランダなのか?

 「今大会の優勝候補を挙げろ」という問題になったときに真っ先に挙げられるのは、「オランダ!」という人はいても恐らく数人です。近年、ネーションズリーグで決勝までいくなど復活を印象づけるオランダですが、選手層で見ると他の強豪に比べ劣る部分がありますし、今大会は近年の躍進を支えたクーマン監督は退任し、ファンダイクは不在です。さらに、大会前にシレッセンやVDBが離脱してしまい苦しい現状がみられます。

 そんな中で迎えた初戦ウクライナ戦。「え?監督デブ―ルなの?」ってなったわたくし。私はデブールのチームをほとんど見たことがありませんが、アヤックスで結果を出し、インテルとパレスのサポーターにトラウマを残した監督ということは知っています。そんなデブールのオランダは結果や内容はともあれ、ロマンのあるサッカーを見せたので惹かれたというだけの理由です。上述したようにオランダは優勝候補ではないですし、多分優勝できないと思います。そんなスカッドのチームが「オランダ式自分たちのサッカー」をやっているというわけです(結局、個人的にポゼッションチームが大好きというのが根底にはありますが…)。そんな「オランダ式自分たちのサッカー」を紹介すべく、今回はウクライナ戦について少しだけ語りたいと思います。

オランダのボール保持VS.ウクライナの非保持

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この試合の主なスタッツ(左:オランダ,右:ウクライナ)を例のごとくSofa Scoreさんより転載させていただいたわけですが、ここからもわかるようにこの試合の主な局面はオランダのボール保持VS.ウクライナのボール非保持という展開で進みました。

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 ウクライナの4-1-4-1のブロックに対して、オランダはボール保持のフェーズになるとワイナルドゥムが右のシャドー、デパイが左のシャドーとなる3-4-3のかたちに。オランダはWBがかなり高い位置をとり、相手のSBをピン留めしながら、相手の3センターに対してダブルボランチ+2シャドーのによる4対3の数的優位を作ることでブロック攻略を狙いました。具体的にいうと、両WBがボールが逆サイドにあってもWGのような立ち位置にいるため、そこから斜めのランで裏を狙ったり、繰り返されるサイドチェンジの的となることで、大きな展開で相手を横に振りながら両脇のCBやダブルボランチから中央への縦パス・斜めパスを打つスペースを突くかたちがベースとなっていたといえます。ブリントやデフライのサイドチェンジの質は高いし、デヨングやデパイは狭いスペースで前を向いて相手を収縮させたりしていて、個々の技術レベルの高さも目立っていたんですけどね。

 デヨングのポジション修正によるチャンス増加

 4-1-4-1に対する位置的優位、中央での数的優位によって主導権を握っていたとはいえ、なかなか相手のブロックを崩しきれないオランダ。そこでこれは恐らく個人判断によるものと思われますが、徐々にデヨングがポジションを高くし、それに付随してティンバーも立ち位置を変えていきました。

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 修正後、上の図のようなかたちになったオランダ。デヨングは相手3センターの「ポケット」の部分に位置して、ビルドアップ隊とライン間で待つ選手の水運びを基本としながら、「そこに立つ」ことで3センターを収縮させることでIH脇のスペースを空けたり、両シャドーが空けたスペースに侵入したりと幅広い動きを見せていました。相手の1トップに対して3-2とビルドアップ隊がダボ付いていた中で、デヨングのタスクがフリーダムになり、オランダのボール保持は活性化されました。

 また、デヨングのポジション修正によって、デローンはアンカーポジションに移動、そこにサポートするかたちでティンバーがデローンと同じ高さに立ってボランチのような振る舞いをしていました。この辺が個々のインテリジェンスの高さに由来するオランダの組織としての強さ物語っていて、ティンバーのポジショニングなんかはテンハーグの下で鍛えられているのかなと思いました。

プレッシング、ネガトラによる試合掌握と副産物

 オランダのポゼッションは62%。ただ、相手陣内に侵入していく上で相手にボールを奪われることはもちろん伴います。だからフットボールには「ボール保持」「ボール非保持」「ポジティブトランジション(守→攻の切り替え時)」「ネガティブトランジション(攻→守の切り替え時)」があるわけですが、オランダはデブールがいう「試合を支配する」ための「ネガティブトランジション」「ボール非保持」の局面のチーム作りもしっかり行われていました。

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 オランダのボール非保持の基本はプレッシングの敢行。そのプランはいたってシンプルです。スタートのポジションで完全に合致している相手との噛み合わせを活かして、ボールサイドの選手や中盤はほぼマンツーマン、非ボールサイドはゾーンのかたちで相手一人ひとりに圧力をかけることでウクライナに自由なビルドアップを許しませんでした。(マンチェスター・ダービーを見てきた人は見慣れたものだと思います。)

 また、攻→守の切り替え、ネガトラの局面においても「即時奪回」を標語にボール保持時の近い距離感を活かしてゲーゲンプレス(カウンタープレス)を遂行していて、「ボール保持」→奪われる→「ネガトラ」→「ボール保持」再開、もしくは「ボール保持」→奪われる→「ネガトラ」失敗→「プレッシング」→「ボール保持」再開というような循環でウクライナをクライシスに追い込みました。(後述するけど、その欠点もしっかりこの試合で露呈していましたが…)

 この繰り返しの結果、1点目は相手SBのタッチミス、2点目はゴール手前での即時奪回から得点が生まれました。1点目に関してはSH脇からの構築ということで戦術性を孕みますが、基本的にはボールが外外循環をしていて、ミスがなければチャンスが生まれていなかったということが考えられ、1点目、2点目はオランダのボール保持攻撃による「副産物的得点」ということができます。ミスはミスですが、技術力の高いプロ選手のミスの背景には何らかの原因があると考えられ、今回はそれがボールを保持され続けたことによる心身の疲れだったのではいなかということです。

「守備なんて関係ないね!」が生んだ同点劇、そして

 オランダは試合を掌握したと偉そうに書きましたが、ウクライナがノーチャンスだったわけではありません。

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 上の図のように、ウクライナは両WGに幅をとらせることでオランダのWBをピン留めすることで縦スライドを封じることを企図していて、オランダもスライドが間に合えばWBも思い切って縦スライドしていましたが、スライドが間に合わないとWGにピン留めされてしまい、相手のSBに「時間」を与えてウクライナに前進を許していました。また、前進されると5-2の撤退守備をみせるオランダは当然のことながらダブルボランチの周りに広大なスペースが生まれることによるピンチもあり(ヤルモレンコのPK疑惑シーンなど)、2点先取したことどうするのかな、かたち変えるのかなと個人的には思っていました。

 しかし、試合終了までこのボール非保持のかたちを変えることはなく、その結果広大なダブルボランチ脇のスペースかヤルモレンコのゴラッソが生まれてしまいました。4分後にはネガトラ失敗による相手のカウンターから最後にはFKを与え、そのFKから失点。5-3-2にして、中盤のスペースケアしたりするなどプランを変えた方がいい気はしていたけど、そのまま突っ走った結果の失点でした。

 それでも勝ったのはオランダでした。ヴェグホルストの切り替え良い守備が相手GKのミスを誘い、ペナ角からのアケのクロスに大外のデュンフリースが合わせての勝ち越し点でした。こじつけ気味ですが、オランダの突き通したプレーモデルが生んだ得点といえるかもしれません。

 合理的に考えれば、2点を先制した時点で守備面に関しては修正することが恐らく正解ですが、オランダは3点目を取った後も同じスタイルでした(笑)。僕はこの「攻め倒すぜ」スタイルが好きになったわけです。ウイング(WB)が高い位置をとり、中盤で勝負するというオランダ流のサッカーを前面に押し出した「オランダ式自分たちのサッカー」を貫くデブール・ネーデルランドの冒険はまだ始まったばかりです。

タイトル画像の引用元:Contando Estrelas "Bandera de los Países Bajos

※この画像は CC BY-SA 2.0の下に利用されています。

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