會田 陽介

東京都足立区生まれ。1996年から奈良県に移住。2022年、朝日新聞社Web論座にてラ…

會田 陽介

東京都足立区生まれ。1996年から奈良県に移住。2022年、朝日新聞社Web論座にてライターデビュー。2024年、韓国で公開予定のドキュメンタリー作品に出演予定。自転車と墓地めぐりをこよなく愛する。家族に妻・娘・犬・猫。 email1◆marebit.sakura.ne.jp

最近の記事

【日記】パレスチナ演劇「Prisoners of the Occupation(占領の囚人たち)」を見る

 12日火曜の夕方。仕事を終えてから訪ねた深江橋のこぢんまりとした「スペースふうら」で見た『Prisoners of the Occupation(占領の囚人たち)』は、ユダヤ系イスラエル人作家のエイナット・ヴァイツマンがパレスチナ人の囚人らと作り上げたドキュメンタリー演劇だ。  三人の日本人役者、一人のイスラエル人役者が「囚人や看守、尋問官などをかわるがわる演じ、入獄、尋問、拷問、ハンスト、独房監禁、日々のルーティーン、刑務所間の移送、家族の面会など、さまざまな獄中の場面

    • 【連載】植松聖に抗う 5

      就業一年が経って、昇級試験なるもの有りと。 提出する論文を折角なのでここにも転載する。 〇〇〇〇(※事業所名)で学んだこと  〇〇〇〇に勤め始めて、というよりは福祉の現場で働き始めてちょうど一年が経ちました。58歳にしてまったくの異業種から転職をしたわたしにとって、一年前は、知的障害者の通所施設も、グループホームでの生活も、それまで覗いたことすらもない未知の世界でした。いまはそれが毎日の「日常」となっています。かつて電車の中などで突然奇声をあげる人を見ると避けたいような気

      有料
      100
      • 【連載】植松聖に抗う 4

         年の瀬、当事者のUさんのガイドヘルパーを務めた。Uさんは日中の通所施設の他、わたしが月に何度か泊まり勤務で行くグループホームの住人でもあり、いっしょに風呂に入ったり、テレビでタイガース戦や映画を見たりするので、もうすっかり仲良しの間柄である。ただガイドヘルパーとして出かけるのは、今回がはじめてだ。  予定時間の10分前にUさんのグループホームに着いた。今日の「小遣い」を含めたUさんの所持金を確認させてもらって出発する。ガイドヘルパーを含めた二人分の交通費、入館料、映画館で

        有料
        100
        • 極私的 Bob Dylan’s best 10 songs

          ・Rank Strangers to Me ・Born In Time ・Foot of Pride ・ Let It Be Me ・Señor (Tales of Yankee Power) ・Tangled Up In Blue ・Covenant Woman ・Workingman's Blues #2 ・To Ramona ・Spanish is the Loving Tongue

        【日記】パレスチナ演劇「Prisoners of the Occupation(占領の囚人たち)」を見る

          【日記】大阪朝鮮中高級学校の文化祭を愉しむ

           その間中、ずっと考えていた。存在を否定される国で生きるということ。心ない者から「ゴキブリ」よばわりされ、民族服であるチマチョゴリを切り裂かれ、学校の敷地は「レイプして虐殺して奪った土地」だと広言され、なにかあればすぐに「国へ帰れ」と吐き捨てられ、それらを政治も警察も行政すらも傍観し、むしろかれらをそそのかしているのではないかと思えるようなこの国で生き続けるということを。  この国の朝鮮学校に対する差別やヘイトクライム、裁判闘争についての本や映画に触れながら、朝鮮学校を知ら

          【日記】大阪朝鮮中高級学校の文化祭を愉しむ

          【日記】映画『차별 チャビョル 差別』を見る

           チマチョゴリを切られた少女が舞台の上の白紙に墨汁を叩きつけながら叫び、くずれおちる。差別、嘲り、暴力、無関心、みんな消えてなくなれ!  朝鮮学校無償化訴訟を追ったドキュメンタリー映画『차별 チャビョル差別』(キム・ジウン、キム・ドヒ監督 2021年)を、上映最終日に大阪・十三のシアターセブンで見た。東京、名古屋、大阪、広島、福岡、全国5か所の朝鮮学校と生徒たちが起した裁判は高裁での「除外の適法」が確定した。その連敗の記録はそのままこの国の「あったことをなかったことにする」

          【日記】映画『차별 チャビョル 差別』を見る

          2年後の「福田村事件」――三重県「木本事件」をたどる旅

            山中の深い霧の中を走り続けて、海沿いのその街に着いたのはもう夜だった。さる人からもらったベートーベンの弦楽四重奏のBOXセットを聴きながら走って きたが、上北山村を過ぎたあたりで消した。物の怪や魑魅魍魎の声を聴きたいと思ったからだ。まるで生き物のように音もなく谷筋を流れていく霧がカーブの曲がり目にひょいと切れて、暗い山の臓腑に吸い込まれそうになる。   もともとさびれているその街には別の闇があった。ぬらりとした人の体温のような吐息のような湿度のある闇だ。駅前からほど近い

          有料
          100

          2年後の「福田村事件」――三重県「木本事件」をたどる旅

          劇団タルオルム『さいはての花のために』

          2022年8月7日 大阪・日本橋 インディペンデントシアター2nd  椿は韓国語では동백(トンベク)、漢字では冬柏と書くそうだ。花が丸ごとぼとりと落ちる様子から斬首が想起され、江戸時代の武士は屋敷内に植えることを忌んだという話は、どうも後世のあとづけらしい。一方で椿は、厳しい冬の寒さのなかでも凛として咲き誇るその様子から「忍耐」や「生命力」の象徴ともされ、邪気を払う聖なる木ともされた。最古の神社ともいわれる奈良の大神(おおみわ)神社では毎年2月の卯の日祭において、邪気祓いの

          有料
          100

          劇団タルオルム『さいはての花のために』

          【連載】植松聖に抗う 3

           先日、市の選挙管理委員会の協力も頂き、主に知的障害者を対象とした模擬選挙というものを開催した。会場は市役所のホールをお借りして、ふたつの事業所から延べ30人ほどの当事者が参加した。介助者やスタッフも含めると50人以上が参加した、なかなかのイベントである。はからずも、わたしは市長候補の一人に扮してスピーチを行い、有権者の厳しい審判にさらされた。  この模擬選挙の開催にあたっては、障害者の選挙について興味を持っておられる元大学教授の先生を迎えて、事前に数回の勉強会を開いたので

          有料
          100

          【連載】植松聖に抗う 3

          【連載】植松聖に抗う 2

           事業所の建物が見えてくる。入口の前、隣家との間の狭い通路の奥にKさん(女性)が立っていて、わたしに気がついて影絵のキツネのようにすぼめた指先で手をふってくれる。「おはよー Kさん」 わたしは大きな声を投げる。「4月は有休つかいますので、お休みさせていただきますー もう来ないんでー」 「分かりましたー」とわたしは応える。それで満足したのか、Kさんは入口へ消えていく。Kさんを追うようにわたしも入口に入る。わたしの朝はたいてい、そんな具合に始まる。  階段で二階へ上がると軽作業

          有料
          100

          【連載】植松聖に抗う 2

          【日記】大阪・島之内教会でアルメニアの音楽を堪能する

           大きな国よりも(領土を失って)小さくなってしまった国にむかしから興味があった、そこにはなにかがあるんじゃないかと。  そんなことばからはじまった大阪・心斎橋、島之内教会での「はるかなる アルメニア ~南コーカサス、アララト山のふもとに伝わる、いにしえの旋律」と題したコンサート。  幾世紀にわたって国土を蹂躙され、聖なるアララト山も隣国に奪われ、戦争や迫害によるディアスポラ(離散・移民)により全アルメニア人の6割以上が現在も国外で暮らすという。そんなかれらにとって音楽を含

          【日記】大阪・島之内教会でアルメニアの音楽を堪能する

          【連載】植松聖に抗う 1

           小学一年生のとき、クラスに知的障害者(そのときは、そういう言葉は知らなかったが)の男の子がいた。「オマタくん」とぼくらは呼んでいて、きっとそれがかれの苗字だったのだろうけど、言葉はしゃべれなかった。ぼくたちはオマタくんの歌をつくっていっしょにうたったり、給食のときに牛乳瓶の紙のフタをとるのを手伝ったりした。小柄なオマタくんのお母さんは、ときどき学校へやってきて、いつも「ありがとうね、ありがとうね」とオマタくんと接するぼくらにお礼を言ってくれた。どうしてお礼を言うのか、ぼくら

          有料
          100

          【連載】植松聖に抗う 1

          【春の特別開扉】興福寺・北円堂の無著菩薩と世親菩薩を見に行く

           朝からひさしぶりの自転車で興福寺まで走り、北円堂の運慶作とつたわる無著(むじゃく)、世親(せしん)の像を見てきた。9時の開扉と同時に入って、堂内のポジションをあれこれと変えながら二つの像を眺めつづけ、辞するときに手元の時計を見ればきっちり一時間を過ごしたことになる。濃密な時間であった。お腹がいっぱいになって、他に寄り道をする気になれず、臓腑でゆれる何物かをこぼさないよう、まっすぐに帰ってきた。  ふつうの仏師であれば、魂のふたつやみっつくらいは取られてしまってもおかしくな

          【春の特別開扉】興福寺・北円堂の無著菩薩と世親菩薩を見に行く

          東京下町を慰霊する 【My Dark Tourism 東京】

           東京に生まれ育ちながら、東京をそんな目であるきまわったことがない。もとより幼い頃も、20代になってからも、関東大震災も東京大空襲も紡績工場も、ほとんど頭のなかに存在しなかった。しかしいまはあるきたいところ、見てまわりたいところがたくさんある。  東京もまた無数の「言われなき死者たち」がいまも眠れぬ町である。  湯島のホテル前の坂道をくだり、御徒町から地下鉄で両国へ出た。国技館や江戸東京博物館、ホテルなどが建ち並ぶ一画にある横網町公園は、かつて陸軍の被服廠(軍服などの製造

          有料
          100

          東京下町を慰霊する 【My Dark Tourism 東京】

          マナスルのブラスストーブを思念する

           治療中の患者が黄金虫の夢の話をしているときに窓からまさにその黄金虫が入ってきたというユングの話は有名でかれはそれを共時(synchronicity)と呼んだわけだけれど、そのような奇妙な偶然の一致というのはわたしたちの身近に案外とあるもので、じつはもっとあたりまえにあるのをわたしたちが気づかないだけなのかも知れないと、ときに思ったりする。古代人が交わしていた夢の通信手段をわたしたちが失って久しい。  マナスルのブラスストーブ(加圧式液体燃料ストーブ)を奇妙な縁からある人よ

          有料
          100

          マナスルのブラスストーブを思念する

          旧「大宮島」(グアム島)で日本軍の戦跡をたずねる 【My Dark Tourism Guam】

           グアムは1521年、ポルトガルの探検家マゼランによって「発見」された。マゼラン側の記録によれば船の装備品を盗まれたことに腹を立てたかれらは、島民を殺害し多くの家屋を焼き払い、島を Islas de los Ladrones (泥棒諸島)と名づけたという(ザビエルが日本へ来る30年ほど前のことだ)。  その後、島はスペインの植民地とされ、イエズス会の宣教師たちが島民たちの伝統的な習慣や文化を禁じたために不満が噴き出して争いに発展し、反抗的な村々はことごとく焼き払われて10万

          有料
          100

          旧「大宮島」(グアム島)で日本軍の戦跡をたずねる 【My D…