會田 陽介

東京都足立区生まれ。1996年から奈良県に移住。2022年、朝日新聞社Web論座にてラ…

會田 陽介

東京都足立区生まれ。1996年から奈良県に移住。2022年、朝日新聞社Web論座にてライターデビュー。2024年、韓国で公開予定のドキュメンタリー作品に出演予定。自転車と墓地めぐりをこよなく愛する。家族に妻・娘・犬・猫。 email1◆marebit.sakura.ne.jp

記事一覧

【日記】劇団石(トル)の「きむきがん済州四・三鎮魂劇 流民哀歌 ―四月よ、遠い日よ―」を観劇する

 はじめに、笊に載せたたくさんのおにぎりとゆで卵が観客たちに配られる。「梅干しとキムチ、どっちがいい? わたしには分からん」 「あんたゆで卵みたいな顔をして」 …

會田 陽介
9日前
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【日記】パレスチナ演劇「Prisoners of the Occupation(占領の囚人たち)」を見る

 12日火曜の夕方。仕事を終えてから訪ねた深江橋のこぢんまりとした「スペースふうら」で見た『Prisoners of the Occupation(占領の囚人たち)』は、ユダヤ系イスラエル…

會田 陽介
1か月前
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【連載】植松聖に抗う 5

就業一年が経って、昇級試験なるもの有りと。 提出する論文を折角なのでここにも転載する。 〇〇〇〇(※事業所名)で学んだこと  〇〇〇〇に勤め始めて、というよりは…

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會田 陽介
2か月前
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【連載】植松聖に抗う 4

 年の瀬、当事者のUさんのガイドヘルパーを務めた。Uさんは日中の通所施設の他、わたしが月に何度か泊まり勤務で行くグループホームの住人でもあり、いっしょに風呂に入っ…

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會田 陽介
4か月前
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極私的 Bob Dylan’s best 10 songs

・Rank Strangers to Me ・Born In Time ・Foot of Pride ・ Let It Be Me ・Señor (Tales of Yankee Power) ・Tangled Up In Blue ・Covenant Woman ・Workingman…

會田 陽介
5か月前
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【日記】大阪朝鮮中高級学校の文化祭を愉しむ

 その間中、ずっと考えていた。存在を否定される国で生きるということ。心ない者から「ゴキブリ」よばわりされ、民族服であるチマチョゴリを切り裂かれ、学校の敷地は「レ…

會田 陽介
5か月前
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【日記】映画『차별 チャビョル 差別』を見る

 チマチョゴリを切られた少女が舞台の上の白紙に墨汁を叩きつけながら叫び、くずれおちる。差別、嘲り、暴力、無関心、みんな消えてなくなれ!  朝鮮学校無償化訴訟を追…

會田 陽介
6か月前
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2年後の「福田村事件」――三重県「木本事件」をたどる旅

  山中の深い霧の中を走り続けて、海沿いのその街に着いたのはもう夜だった。さる人からもらったベートーベンの弦楽四重奏のBOXセットを聴きながら走って きたが、上北山…

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會田 陽介
6か月前
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劇団タルオルム『さいはての花のために』

2022年8月7日 大阪・日本橋 インディペンデントシアター2nd  椿は韓国語では동백(トンベク)、漢字では冬柏と書くそうだ。花が丸ごとぼとりと落ちる様子から斬首が想…

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會田 陽介
6か月前
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【連載】植松聖に抗う 3

 先日、市の選挙管理委員会の協力も頂き、主に知的障害者を対象とした模擬選挙というものを開催した。会場は市役所のホールをお借りして、ふたつの事業所から延べ30人ほど…

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會田 陽介
9か月前
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【連載】植松聖に抗う 2

 事業所の建物が見えてくる。入口の前、隣家との間の狭い通路の奥にKさん(女性)が立っていて、わたしに気がついて影絵のキツネのようにすぼめた指先で手をふってくれる…

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會田 陽介
11か月前
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【日記】大阪・島之内教会でアルメニアの音楽を堪能する

 大きな国よりも(領土を失って)小さくなってしまった国にむかしから興味があった、そこにはなにかがあるんじゃないかと。  そんなことばからはじまった大阪・心斎橋、…

會田 陽介
11か月前
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【連載】植松聖に抗う 1

 小学一年生のとき、クラスに知的障害者(そのときは、そういう言葉は知らなかったが)の男の子がいた。「オマタくん」とぼくらは呼んでいて、きっとそれがかれの苗字だっ…

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會田 陽介
1年前
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【春の特別開扉】興福寺・北円堂の無著菩薩と世親菩薩を見に行く

 朝からひさしぶりの自転車で興福寺まで走り、北円堂の運慶作とつたわる無著(むじゃく)、世親(せしん)の像を見てきた。9時の開扉と同時に入って、堂内のポジションを…

會田 陽介
1年前
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東京下町を慰霊する 【My Dark Tourism 東京】

 東京に生まれ育ちながら、東京をそんな目であるきまわったことがない。もとより幼い頃も、20代になってからも、関東大震災も東京大空襲も紡績工場も、ほとんど頭のなかに…

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會田 陽介
1年前
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マナスルのブラスストーブを思念する

 治療中の患者が黄金虫の夢の話をしているときに窓からまさにその黄金虫が入ってきたというユングの話は有名でかれはそれを共時(synchronicity)と呼んだわけだけれど、…

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會田 陽介
1年前
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【日記】劇団石(トル)の「きむきがん済州四・三鎮魂劇 流民哀歌 ―四月よ、遠い日よ―」を観劇する

【日記】劇団石(トル)の「きむきがん済州四・三鎮魂劇 流民哀歌 ―四月よ、遠い日よ―」を観劇する

 はじめに、笊に載せたたくさんのおにぎりとゆで卵が観客たちに配られる。「梅干しとキムチ、どっちがいい? わたしには分からん」 「あんたゆで卵みたいな顔をして」 それは虐殺から山中へ逃れた者たちへ麦飯を運んだエピソードだ。その笊は運よくわたしの席にも回ってきて、キムチだったらいいな、と思いながらラップにくるまれた小さなむすびをひとつ手にした。

 それから、紙と棒でこしらえた人形たちがやってくる。い

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【日記】パレスチナ演劇「Prisoners of the Occupation(占領の囚人たち)」を見る

【日記】パレスチナ演劇「Prisoners of the Occupation(占領の囚人たち)」を見る

 12日火曜の夕方。仕事を終えてから訪ねた深江橋のこぢんまりとした「スペースふうら」で見た『Prisoners of the Occupation(占領の囚人たち)』は、ユダヤ系イスラエル人作家のエイナット・ヴァイツマンがパレスチナ人の囚人らと作り上げたドキュメンタリー演劇だ。

 三人の日本人役者、一人のイスラエル人役者が「囚人や看守、尋問官などをかわるがわる演じ、入獄、尋問、拷問、ハンスト、独

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【連載】植松聖に抗う 5

【連載】植松聖に抗う 5

就業一年が経って、昇級試験なるもの有りと。
提出する論文を折角なのでここにも転載する。

〇〇〇〇(※事業所名)で学んだこと

 〇〇〇〇に勤め始めて、というよりは福祉の現場で働き始めてちょうど一年が経ちました。58歳にしてまったくの異業種から転職をしたわたしにとって、一年前は、知的障害者の通所施設も、グループホームでの生活も、それまで覗いたことすらもない未知の世界でした。いまはそれが毎日の「日常

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【連載】植松聖に抗う 4

【連載】植松聖に抗う 4

 年の瀬、当事者のUさんのガイドヘルパーを務めた。Uさんは日中の通所施設の他、わたしが月に何度か泊まり勤務で行くグループホームの住人でもあり、いっしょに風呂に入ったり、テレビでタイガース戦や映画を見たりするので、もうすっかり仲良しの間柄である。ただガイドヘルパーとして出かけるのは、今回がはじめてだ。

 予定時間の10分前にUさんのグループホームに着いた。今日の「小遣い」を含めたUさんの所持金を確

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極私的 Bob Dylan’s best 10 songs

極私的 Bob Dylan’s best 10 songs

・Rank Strangers to Me

・Born In Time

・Foot of Pride

・ Let It Be Me

・Señor (Tales of Yankee Power)

・Tangled Up In Blue

・Covenant Woman

・Workingman's Blues #2

・To Ramona

・Spanish is the Loving T

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【日記】大阪朝鮮中高級学校の文化祭を愉しむ

【日記】大阪朝鮮中高級学校の文化祭を愉しむ

 その間中、ずっと考えていた。存在を否定される国で生きるということ。心ない者から「ゴキブリ」よばわりされ、民族服であるチマチョゴリを切り裂かれ、学校の敷地は「レイプして虐殺して奪った土地」だと広言され、なにかあればすぐに「国へ帰れ」と吐き捨てられ、それらを政治も警察も行政すらも傍観し、むしろかれらをそそのかしているのではないかと思えるようなこの国で生き続けるということを。

 この国の朝鮮学校に対

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【日記】映画『차별 チャビョル 差別』を見る

【日記】映画『차별 チャビョル 差別』を見る

 チマチョゴリを切られた少女が舞台の上の白紙に墨汁を叩きつけながら叫び、くずれおちる。差別、嘲り、暴力、無関心、みんな消えてなくなれ!

 朝鮮学校無償化訴訟を追ったドキュメンタリー映画『차별 チャビョル差別』(キム・ジウン、キム・ドヒ監督 2021年)を、上映最終日に大阪・十三のシアターセブンで見た。東京、名古屋、大阪、広島、福岡、全国5か所の朝鮮学校と生徒たちが起した裁判は高裁での「除外の適法

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2年後の「福田村事件」――三重県「木本事件」をたどる旅

2年後の「福田村事件」――三重県「木本事件」をたどる旅

  山中の深い霧の中を走り続けて、海沿いのその街に着いたのはもう夜だった。さる人からもらったベートーベンの弦楽四重奏のBOXセットを聴きながら走って きたが、上北山村を過ぎたあたりで消した。物の怪や魑魅魍魎の声を聴きたいと思ったからだ。まるで生き物のように音もなく谷筋を流れていく霧がカーブの曲がり目にひょいと切れて、暗い山の臓腑に吸い込まれそうになる。

  もともとさびれているその街には別の闇が

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劇団タルオルム『さいはての花のために』

劇団タルオルム『さいはての花のために』

2022年8月7日 大阪・日本橋 インディペンデントシアター2nd

 椿は韓国語では동백(トンベク)、漢字では冬柏と書くそうだ。花が丸ごとぼとりと落ちる様子から斬首が想起され、江戸時代の武士は屋敷内に植えることを忌んだという話は、どうも後世のあとづけらしい。一方で椿は、厳しい冬の寒さのなかでも凛として咲き誇るその様子から「忍耐」や「生命力」の象徴ともされ、邪気を払う聖なる木ともされた。最古の神社

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【連載】植松聖に抗う 3

【連載】植松聖に抗う 3

 先日、市の選挙管理委員会の協力も頂き、主に知的障害者を対象とした模擬選挙というものを開催した。会場は市役所のホールをお借りして、ふたつの事業所から延べ30人ほどの当事者が参加した。介助者やスタッフも含めると50人以上が参加した、なかなかのイベントである。はからずも、わたしは市長候補の一人に扮してスピーチを行い、有権者の厳しい審判にさらされた。

 この模擬選挙の開催にあたっては、障害者の選挙につ

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【連載】植松聖に抗う 2

【連載】植松聖に抗う 2

 事業所の建物が見えてくる。入口の前、隣家との間の狭い通路の奥にKさん(女性)が立っていて、わたしに気がついて影絵のキツネのようにすぼめた指先で手をふってくれる。「おはよー Kさん」 わたしは大きな声を投げる。「4月は有休つかいますので、お休みさせていただきますー もう来ないんでー」 「分かりましたー」とわたしは応える。それで満足したのか、Kさんは入口へ消えていく。Kさんを追うようにわたしも入口に

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【日記】大阪・島之内教会でアルメニアの音楽を堪能する

【日記】大阪・島之内教会でアルメニアの音楽を堪能する

 大きな国よりも(領土を失って)小さくなってしまった国にむかしから興味があった、そこにはなにかがあるんじゃないかと。

 そんなことばからはじまった大阪・心斎橋、島之内教会での「はるかなる アルメニア ~南コーカサス、アララト山のふもとに伝わる、いにしえの旋律」と題したコンサート。

 幾世紀にわたって国土を蹂躙され、聖なるアララト山も隣国に奪われ、戦争や迫害によるディアスポラ(離散・移民)により

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【連載】植松聖に抗う 1

【連載】植松聖に抗う 1

 小学一年生のとき、クラスに知的障害者(そのときは、そういう言葉は知らなかったが)の男の子がいた。「オマタくん」とぼくらは呼んでいて、きっとそれがかれの苗字だったのだろうけど、言葉はしゃべれなかった。ぼくたちはオマタくんの歌をつくっていっしょにうたったり、給食のときに牛乳瓶の紙のフタをとるのを手伝ったりした。小柄なオマタくんのお母さんは、ときどき学校へやってきて、いつも「ありがとうね、ありがとうね

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【春の特別開扉】興福寺・北円堂の無著菩薩と世親菩薩を見に行く

【春の特別開扉】興福寺・北円堂の無著菩薩と世親菩薩を見に行く

 朝からひさしぶりの自転車で興福寺まで走り、北円堂の運慶作とつたわる無著(むじゃく)、世親(せしん)の像を見てきた。9時の開扉と同時に入って、堂内のポジションをあれこれと変えながら二つの像を眺めつづけ、辞するときに手元の時計を見ればきっちり一時間を過ごしたことになる。濃密な時間であった。お腹がいっぱいになって、他に寄り道をする気になれず、臓腑でゆれる何物かをこぼさないよう、まっすぐに帰ってきた。

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東京下町を慰霊する 【My Dark Tourism 東京】

東京下町を慰霊する 【My Dark Tourism 東京】

 東京に生まれ育ちながら、東京をそんな目であるきまわったことがない。もとより幼い頃も、20代になってからも、関東大震災も東京大空襲も紡績工場も、ほとんど頭のなかに存在しなかった。しかしいまはあるきたいところ、見てまわりたいところがたくさんある。

 東京もまた無数の「言われなき死者たち」がいまも眠れぬ町である。

 湯島のホテル前の坂道をくだり、御徒町から地下鉄で両国へ出た。国技館や江戸東京博物館

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マナスルのブラスストーブを思念する

マナスルのブラスストーブを思念する

 治療中の患者が黄金虫の夢の話をしているときに窓からまさにその黄金虫が入ってきたというユングの話は有名でかれはそれを共時(synchronicity)と呼んだわけだけれど、そのような奇妙な偶然の一致というのはわたしたちの身近に案外とあるもので、じつはもっとあたりまえにあるのをわたしたちが気づかないだけなのかも知れないと、ときに思ったりする。古代人が交わしていた夢の通信手段をわたしたちが失って久しい

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