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音楽レヴュー 2

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音楽作品のレヴューです
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#ポップ

畏怖と共に愛聴しながら、抱えているモヤモヤ (G)I-DLE『2』

 K-POPにおいて、自ら作詞/作曲に関わるグループは珍しいものではなくなりつつある。それでも、5人組グループ(G)I-DLEのセルフ・プロデュース度は群を抜いていると言えるだろう。リーダーのソヨンを中心に、メンバーたちが創作に深く関わるだけでなく、そうして創りあげられた表現の質も高いのだから。

 この魅力は、今年1月29日にリリースされたセカンド・フル・アルバム『2』でさらに増している。本作に

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艶かしく《女性らしさ》を塗りかえるロンドンのアーティスト Amaria BB『6.9.4.2』

 ロンドンにあるハックニー出身のアマリアBBは、シンガーソングライターとして活躍するジャマイカ系イギリス人。13歳でタレントショー『Got What It Takes?』に出場して優勝を掻っさらうなど、少女の頃から表現力を高く評価されていたが、本格的に注目を集めだしたのは2021年のシングル“Slow Motion”以降だろう。窮屈でステレオタイプな女性らしさを塗りかえたこの曲をきっかけに、Col

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踊らなきゃやってられない世の中を生きぬくために Jessie Ware 『That! Feels Good!』

 筆者にとってジェシー・ウェアは、ダブステップのシーンから出てきたシンガーというイメージだった。SBTRKTとの“Nervous”(2010)、サンファとの“Valentine”(2011)などはダブステップの要素が顕著で、その路線を拡張していくのだろうと思っていた。
 そうした雑感を持ちつつ、ファースト・アルバム『Devotion』(2012)を聴いたのだから、驚きを隠せなかったのは言うまでもな

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Moon Sujin(문수진)「Lucky Charms!」

 韓国のポップ・ミュージックを追っている者は、ムン・スジンの名を耳にすることが多いだろう。EXO-SCやテイル(NCT)などさまざまなアーティストとコラボレーションを果たしてきたことからもわかるように、彼女の歌声は各方面から高く評価されている。自ら作詞作曲をこなす力もあり、愛聴してきたというアメリカのR&Bやヒップホップの要素が色濃い曲群は上質なトラックばかりだ。

 そんなムン・スジンにとってフ

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Hatchie『Giving The World Away』

 オーストラリアのアーティスト、ハッチーことハリエット・ピルビームはドリーミーなサウンドを得意としてきた。その音楽性は多くの人々に称賛され、2019年のデビュー・アルバム『Keepsake』はThe Line of Best FitやDIYといったメディアにレヴューで高得点をあたえられた。

 そんなハッチーのセカンド・アルバムが『Giving The World Away』だ。音楽性は前作と地続

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CHAI『WINK』



 日本の4人組バンドCHAIは、便宜的に言えばロック・バンドということになるのだろう(実際にそう紹介するメディアもある)。「ほめごろシリーズ」(2017)収録の“クールクールヴィジョン”ではパンキッシュなグルーヴを響かせるなど、過去の曲群を聴くとロックな側面も確かにうかがえる。

 だが、それはCHAIが見せる多彩な表情のひとつに過ぎない。“sayonara complex”はブロンディーの“

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Jorja Smith「Be Right Back」



 イギリスのシンガーソングライター、ジョルジャ・スミス。ディジー・ラスカル“Sirens”(2007)をサンプリングした“Blue Lights”(2016)がデビュー曲の彼女は、光速レヴェルの速さでスターへの階段を駆けあがった。ドレイクやストームジーといったアーティストと共演し、映画『ブラックパンサー』(2018)から生まれたサウンドトラック・アルバム『Black Panther: The

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ITZY (있지)「GUESS WHO」



 筆者からすると、韓国の5人組グループITZY(イッジ)のサウンドは、ハウス成分が多いように聞こえる。具体的に曲を挙げると、『Settle』(2013)期のディスクロージャーを想起させるデビュー曲“Dalla Dalla”(2019)、スティールパンに似た音色のシンセ・フレーズと4つ打ちを刻むヘヴィーなキックが際立つ“TING TING TING”(2020)などだ。これらの曲はポップ・ソング

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Susan(수잔)「EROS」



 少しハスキーかつ甘美な歌声で、さまざまな情感を流麗に紡いでいく。喜び、愛欲、快感といった陽なエモーションだけでなく、憎しみや悲しみなど陰なエモーションもストレートに表現する。その表現は艶やかな生々しさとも言える空気を醸し、リスナーの耳と心を拡張してくれる。

 そうした言葉を書かせたSusan(수잔)の最新EP「EROS」に出逢ったのは、今年1月のこと。彼女の存在はファースト・シングル「열매

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Youra(유라)「Gaussian」



 韓国のシンガーソングライターYoura(유라)を知ったのは、数多くの客演仕事がきっかけだった。これまでに彼女はKirin(기린)、Way Ched(웨이체드)、Leellamarz(릴러말즈)といったアーティストの曲に参加し、ドラマ『すべき就職はしないで出師表(하라는 취업은 안하고 출사표)』(2020)のサントラにも関わるなど、さまざまな課外活動をこなしている。韓国のポップ・ミュージック

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Hayley Williams『Flowers For Vases / Descansos』は私たちの痛みを浄化する



 アメリカのロック・バンド、パラモアでフロントウーマンを務めるヘイリー・ウィリアムスが昨年リリースしたファースト・ソロ・アルバム『Petals For Armor』は、とても素晴らしかった。ファンク、ディスコ、ジャズ、ヒップホップ、ブレイクビーツなど多くの要素を用いて、自らの音楽性を拡張しようとするチャレンジ精神に惹かれた。そのサウンドを聴いているとウォーペイントやハイムといったバンドも脳裏に

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(G)I-DLE((여자)아이들)「I Burn」



 6人組グループ(G)I-DLEが発表した4枚目の韓国ミニ・アルバム「I Burn」は、彼女たちの表現力と音楽性を拡張させた作品だ。ファースト・ミニ・アルバム「I Am」(2018)から続く《Iシリーズ》の一部でありながら、これまでとは違うカラーを見事に打ちだしている。ムーンバートン、ハウス、ディスコといった西洋のポップ・ミュージックを取りいれつつ、“화(火花) (HWAA)”ではヘグム的な

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fromis_9(프로미스나인)「My Little Society」



 プロミスナイン(프로미스나인)の最新ミニ・アルバムは「My Little Society」と名付けられた。直訳すれば〈私の小さな社会〉と読める言葉だ。
 まず目を引いたのは、彼女たちの楽しそうな様子を映したジャケット。インスタグラムの〈いいね!〉みたいなハートマークの使い方など、SNSが一般的になった現在を滲ませる。一方で、ポラロイドカメラのフィルムを模したレイアウトは、レトロな雰囲気を醸す

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Weki Meki(위키미키)「New Rules」



 韓国の8人組グループであるウィキ・ミキが最新ミニ・アルバム「New Rules」をリリースした。今年6月発表の3rdミニ・アルバム「Hide And Seek」以来の作品で、タイムスパンの短さに筆者も小さくない驚きを感じた。

 オープニングはリード曲にも選ばれた“Cool”だ。自分のことは自分で決める、あなたもそうしてみない?と私たちに歌いかける歌詞は、誰にも媚びない主体的人間像を描く。彼

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