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私の750万種の感情を、君に全部あげる。

きっと毎日、感情を一個失くしては別の一個を手に入れている。喜怒哀楽の4つから派生した感情は、色と同じくらい無限の種類があると思う。

色の数を正確に数えるのは難しいが、いい条件であれば人は750万色を識別できるという。感情もきっと750万種類くらいあると思うし、一つ一つに名前をつけられたらいいのに。たとえば、買ったばかりのイヤリングを片方なくしたときの気持ち。きっと「残念」「がっかり」「悔しい」などの言葉が適当なのだろうけれど、あのときの気持ちはそんなんじゃ足りないんだ。

そう、またイヤリングを片方なくしたのだ。ベッドのヘッドボード、コンドームの箱の横、使われていないガラスの灰皿の上、君が水浸しにした洗面所の端っこ、全部探したけれど。部屋に入ったときは確実につけてたからこの部屋のどこかにあることはたしかなのに、どうしても見つからない。あるべきところにない、手に入れた途端にすぐに失くしてしまうもの。思えば私たちの関係はそんなものばっかりだ。


クリスマスカラーには宗教的な意味がある。赤はキリストの血、緑は十字架、白はマリアの純潔、金はダビデの星。私と君の色にも意味をもたせたら、それは二人が終わったとしても、その意味だけは私が生きている間は残り続けると思うのだ。君の色は蛍光グリーンと軽やかな黒、そしてほんの少し絵の具を垂らしたような白。私の色はすみれ色と群青色と泥金、薄いピンクの靄がかかってる。私たちの色をしっかりと直視して、一生交わらない二人だということがはっきりと分かった。それでも。

将来隣にいる人じゃないのなんて分かってるし、一生一緒にいたいとも思わないけど、今すぐ会いたいし「好きだ」と真正面から伝えてほしいくらいには君が好きだ。こんな風にストレートに「好きだ」と言いたくなるくらい好きだ。「好きな人には好きって言えない」って君の言葉を鵜呑みにしてる。

二人の人生は起点も異なり曲がりくねってはそれぞれの道をたどり、2020年の待降節、今この季節だけはたまたま奇跡的に軌道が重なる惑星だって思いたい。広い宇宙で、ほんの一瞬だけ……なんて、ロマンチックでとても素敵だなと思って、それを聞いたら君はなんて答えるか想像してみたけど全く分からなくて、また君のこと全然知らないやって感情が無になった。無音が心地いいこの部屋に、讚美歌94番が頭の中で響いてる。相方を失くしたイヤリングはもう身に着けることはない。


クリスマスまであと20日くらい。このアドベントシーズンだけは、失う感情より得る感情が多ければいい。それも、喜びや華やかさで煌めく、小さな星が弾けるような美しい750万色の感情であってほしい。イヤリングを失くしても、この季節が過ぎたら交わらない二人に戻っても。プレゼントの包みを開けるようにこの小さな幸せを一つずつ数えて、私たちがあと少しで終わるなんて信じない。


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