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小説っぽいやつ

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小説っぽいやつです。
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1人には少し広い部屋で、いつの間にか落ち切ってしまった僕。

1人には少し広い部屋で、いつの間にか落ち切ってしまった僕。

コンタクトを変えるタイミングが分からなくなってしまった。
2weekのコンタクトを使っている人の中で、マメに使った日を記録している人は少ないんじゃないかと僕は思う。僕もその1人で、でも前まではなんとなく今日は3日目くらいだな、と感覚でわかったので、「2週間くらい」も分かっていたのに。

なんだかよく分からなくなっていた。

よく分からなくなっていたどころか、もう1ヶ月くらい同じものを使っている気が

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僕は雨の日だけ、彼女に会うことができた。

僕は雨の日だけ、彼女に会うことができた。

僕は代々木で総武線に乗り換えて職場に向かっていた。
いつも通り、365日のうちの240日くらいは同じルートをなぞっていた。

いつもと変わらない通勤ルート、満員電車、加齢臭、汗臭さ、数少ない座席の椅子取りゲーム。

違ったのは、今日が雨の日だと言うことだけだった。

雨の日なんて、むしろ不快で最悪。いつもの面積が傘を持っているだけで圧迫されるし、
義務感でセンタープレスをかけてきたスーツも濡れるし

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吐く息が白くなる季節。背伸びしても、大人になりきれなかった。

僕は1人が好きと言った。

1人の時間がないと死んじゃう。どうせ授業でしか顔を合わさず、単位を取得するためのグループワークで気を遣い、挙げ句の果てにノートを見せろとか言ってくる奴がいるこの空間にもう辟易していた。例のウイルスの流行で授業がオンライン化したときは、学校に行かないだけでこんなに健康的で文化的な生活ができるのかと歓喜した。僕はコロナが収束した大学4年の夏からも、教授に「東京の家を引き払っ

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【小説】逃避行

【小説】逃避行

「秋山さんはなんでもできるね。」
「器用だね。」
「頭が良いね。」

そう言われることが多かった。

確かに、某有名私立大学を卒業し、
誰もが知っているような大手商社に新卒で内定して、
客観的な肩書とかステータスみたいなものは、持ち合わせている方なのかもしれない。
そのうえ、誰からも嫌われないように生きているので、
「秋山さんのことを悪く言う人はいない」
とも言われる。

そういう風に生きているん

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僕が1番楽しみにしているのは、アカデミー賞作品でも、話題の恋愛映画でもなく、

僕が1番楽しみにしているのは、アカデミー賞作品でも、話題の恋愛映画でもなく、

昔から何をやっても中の下か、良くて中の上くらいだった。
親に入らされた少年野球は義務感で通っていたし、
運動会のリレーは出番なんてあるばすのない補欠、もしくは補欠のまた補欠。
がんばってるのに、「がんばろう」ばかりの成績表。

高校は第一志望の公立高校に落ちて、名前だけ書いたような推薦入試で受かった私立に進学した。
友達はいたし、学校はつまらなくはなかったけど、
県大会で名前を残すくらいの、そこそ

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