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#番外編 おばあちゃんだけど、時々転生代行救世主やってます「ミクベ神の日常」

「よぉ、金髪の兄ちゃん。今夜の飯はもう決まってるのかい?」
 商店街をブラついていると、顔馴染みの魚屋の主人が声を掛けてきた。
「ううん、まだ決まってないけど、何かオススメなのある?」
「あるある!ほら、いいアジだろ?今日のウチの目玉さ」
 そう言って見せてくれたのは、ザルの上で綺麗に並べられたアジ達。みんなキラキラしてて、しかもプリプリの肉厚。
「へぇ、いいじゃん。あ、でも僕、魚捌けないんだけど」
 そう言うと、主人はフン!と鼻を鳴らし
「そんなの100も承知だっての。ウチの母ちゃんがササッとフライにしてくれるから安心しな」
「本当?!じゃあ2尾…いや3尾ちょうだい」
「毎度!じゃあ10分後にまた来な。作っといてやるからさ」
「ありがと、おじさん!」
 僕は主人に手を振り、魚屋を離れた。
 ここの住人達は、僕が一人暮らしの大学生だと思っている。勉強ちゃんとしてる?とか、ちゃんと毎日ご飯食べてる?とか、彼女できた?とか、買い物がてらの世間話の内容は、まるで久々に会う親戚達のようだ。お節介過ぎる所もあるけど、そんな所も愛おしい。
 だって、この商店街の人達だけでなく、この世界に居るすべての生き物が僕の愛する子供達なのだから。

 僕がまず最初に創ったのは、この地上界。そして空を創るために天上界を、地面を創るために地下界を創った。そして丁度いい具合に頭が3つあったから、それぞれ別々の僕がそれらの世界を見守る事にした。そして中央に世界を支える柱を建てて、そこを中心にして進化・発展していくよう見守り、時に手助けをした。その甲斐あってか、今はこうして僕自身が紛れ、同じように暮らしていける程となっている。
 地上界に居る僕は天上や地下の者たちと直接コミュニケーションを取ることは出来ないけど、それぞれの僕と繋がっている意識を感じる限り、こことそう変わらず発展していってるんだろう。
 僕の世界の人達は、僕の本当の姿を知らないし、知る必要もない。こうして身内のように僕の事を受け入れてくれ続けるのなら、僕も彼らをずっと慈しみ続けていこう。
「とりあえず、アジフライに合うお酒でも探しにいこうかな」
 あの魚屋の奥さんが揚げたフライは絶品だ。僕自身お腹が空くという事はないのだけど、不思議と想像するだけでお腹が鳴りそうだ。
 僕は鼻歌まじりで3件隣りの酒屋へと足を向けた。

そんな楽しく愛しい日常が、ずっと続くと思っていた。

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