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オレンジ

夕暮れが好きだ。
沢山の人が家に帰っていく。夜の街が賑わっていく。
カラスが鳴く。電車の音。買い物袋を下げて歩く人々。
日が沈んでいく。月や星が少しずつ顔を出す。
空がオレンジから青に変わっていく。

短くて慌ただしくて、少しだけ寂しくて美しい夜。

朝焼けが好きだ。
少しずつ街が騒がしくなる。夜の街から人が消えていく。
カラスが鳴く。車の音。鞄を下げて仕事へ向かう人々。
日が昇ってくる。月や星が少しずつ姿を隠す。
空が薄い青とピンクやオレンジや紫の混じった色に染まる。

静けさと騒々しさが混ざる。儚くて美しい朝。

朝起きて、仕事へ行く。
毎日誰かのもとへ、どこかへ、帰る。
そんな当たり前が当たり前でないことに気付く人はいるか。
当たり前だけれど、それが特別なことが分かるだろうか。

帰りたい家がある。帰れる場所がある。
普通に見えて普通でない。

帰りたい場所がある、ということ。

忘れてはいけない。

朝が来る。また一日が始まる。
人の数だけ物語がある。
窓から見える明かりの数だけ、違うものがみえる。
それがたまらなく愛しくて、美しくて、涙が出そうになる。

こんな奇跡みたいな場所に私が生きている。
ここにいられる。息をしている。
他の人と同じように。

ああ、この世界は美しい。
汚くて、醜くて、うるさくて、美しい。

嫌なことがある。数え切れないほど。
逃げ出したくもなる。何度も何度も。
この世界を恨んだ。そんな私を憎んだ。

それでも日は沈み、夜は来る。
また日が昇り、朝が来る。
どんなに私が足掻いても、時は進む。

なんて素晴らしい。

こんな世界でも、美しいものはある。
それを見つける。美しいと思う。
それだけで生きている意味がある。

そう思うから。心から思えるから。

生きる。息をする。

飯を食って寝て。

私は生きていく。

くだらなくて小さくて、
素晴らしくて美しいこの世界で。

この目が、美しいものを見つけられる限り。

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