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2分エッセイ|香港でインドカレーを (香港中環)

 蒸し暑さをこらえて、高い高いビルと古い建物のひしめき立つ煤色の街にまっすぐにのびる長いエスカレーターを上りきると、そのインドカレーは待っている。店に近づくと大きなガラス戸から、いつもはあまり愛想のない太っちょの奥さんがニヤリと笑って迎えてくれる。古いけれども小ぎれいに整理された店内に入ると奥の厨房からやはり少し太っちょのだんなさんが、よく来たねと優しいまなざしで顔を出す。

 世界有数の金融街で名を馳せるアジアの国際都市、香港。 そのセントラル駅からすぐ、世界一長いと言われるミッドレベルエスカレーターを挟んで坂道のグルメ街、SOHOは広がる。 インディアンビレッジはその外れにあるテーブル席3つ程の小さな家族経営のインド料理店だ。

 ひとは、香港では世界中の一番おいしいものが食べられる、と言う。様々なジャンルの料理を食せることは確かだが、かなり香港風、もしくは個々人のアレンジが加わっているものも多く、求めている味にたどりつくのは至難の技ではないかと強く感じる。私は食べると疲れも悲しみも吹き飛んでいく気がしてカレーが大好きなのだが、タイのグリーンカレーは角切りパイナップル入りクリームシチュー仕立てであったり、インドカレーにはおそらく日本のカレールーが入っており、日本人の私には大変食べやすい一品になっているという具合だ。

 こちらインディアンビレッジは正統派。素材のままのおいしさが感じられる豊富なメニューが魅力だ。複数のベースを取り揃えるカレーだけをとっても、材料の味に忠実なことを想像させるさっぱりとしたトマト仕立て、濃厚なココナッツ仕立てなどそれそれ全く違った風味を楽しむことができる。また、味付けはスパイスも塩加減も強すぎない。お財布に優しいのに大盛りのカレーやビリヤニをたらふく平らげても、食後や翌日に口やお腹に残り過ぎることがない。見つけづらい場所にも関わらず、国際色豊かなビジネスマンがテイクアウトを心待ちに絶えず訪れ、仕事帰りのカップルが金魚のように色鮮やかなサフランライスにそれぞれ好みのカレーを添えて夕暮れ時を楽しんでいる様子からは隠れたファンが多いことがうかがえる。
 
 香港で疲れを吹き飛ばしたくなったら、是非インディアンビレッジへ。 いつもにこにこのお父さんと、また近いうちに必ず来るようにと少しおせっかいなお母さんがおいしいカレーを作って待っている。

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