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【第1回】なぜサッカー日本代表はベスト8へ進めなかったのか?メンタル面からの考察。

心という視点からサッカーを見る

サッカー日本代表はクロアチア代表にPK戦の末に敗れ、目標としていたベスト8へ進むことが出来ませんでした。

日本代表はベスト16には4度進んでいますが、まだ一度もベスト16の壁を突破出来ていません。

グループステージでは強豪ドイツやスペインを撃破したことで「ベスト8いける」「優勝も夢ではない」という雰囲気が国内でも高まっていました。

しかし結果は惜しくもベスト16で敗退。

ベスト16の壁を超えることが出来なかった原因は一つではなく、戦術や戦略、チームマネジメントや選手選考など、様々な要因が絡み合っているはずです。

今回はメンタルトレーナーとして、数多くのアスリートのメンタルトレーニングに携わっている私が「心」という視点から、日本代表がベスト8に進めなかった要因を考えていこうと思います。

一応、私は学生時代はサッカーに打ち込んでいまして、10年以上のサッカー歴があります。

サッカーワールドカップは94年のアメリカ大会から30年近く見ています。スペインリーグやプレミアリーグは2000年くらいから。まったくのサッカー素人やにわかファンというわけではありません。


選手の心を外から観る方法

私たちの心の状態は次のような形で外見に表れます。

表情
しぐさ
姿勢
身体の使い方
声質、声のトーン
歩き方
話すスピード
まばたきの回数
目の動き
顔の角度
呼吸
身体の固さ

これらを参考にして試合中、試合前後のインタビューなどから選手の心がどのような状態にあるのか?を見ていきます。

どんな言葉を発したか?はあまり重要視しません。なぜなら言葉はいくらでも誤魔化すことが出来るからです。

しかし顔や身体に表れたものは誤魔化しようがありません。

噓つきの天才や優秀な詐欺師はそれすらもコントロールし、相手を欺きますがアスリートの場合、それはないでしょう。

もちろんここで書いた内容は、私からそう見えたということであって、選手本人に確認したことではありません。

メンタルのプロからはこう見えているということです。それを踏まえて読んで頂くと良いかと思います。


ドイツ戦

まずはグループステージ初戦のドイツ戦から見ていきましょう。

ドイツ戦の前のインタビューなどを見る限りでは、気後れしている感じは選手の顔や声質、しぐさなどからは感じませんでした。

過去の日本代表の選手は強豪国と戦う前、相手を必要以上にリスペクト(過大評価)していたせいか、対戦相手の名前に気後れして囚われてしまい、自分たちの力を出せないという傾向が多々見られました。

今回に関しては外見からその傾向を感じ取ることは出来ませんでした。

最初にお伝えしたようにインタビューでは発せられた言葉には注目しません。顔や表情、話し方、しぐさ、声の質やトーン、目の動きなどをに注意を払い、心の状態を感じ取ります。


試合直前には強い囚われが

ピッチに入場する直前や国歌斉唱の時、何人かの選手の顔に強い囚われが表れていました。

「やってやるぞ」という気持ちはもちろんあったと思いますが「本当にやれるのか?」という不安も大きかったように感じます。

心の中でのせめぎ合いが囚われとして顔に表れたのでしょう。

その証拠に上半身(特に肩や首)はガチガチになっていました。心の緊張が身体に強く反映されていたことを物語っています。

必要以上の緊張によって身体が固くなると、競技パフォーマンスは大きく低下します。選手によっては能力の半分も出せなくなることが珍しくありません。

あるアルゼンチン代表の選手が、ワールドカップ初戦は緊張で持てる力の半分も出せなかったと言っていましたが、日本代表の選手がそうなるのも仕方がないのかもしれません。

前半、日本代表はドイツ代表に圧倒されました。

これは戦術や戦い方だけでなく、必要以上の緊張によるパフォーマンスの低下も関係していたのでは?と考えられます。(もちろんそれはドイツ選手にも言えることですが)

しかし前半をなんとか1失点に耐えたことで、日本代表の選手達は平常心を取り戻したように見えます。

もし2点目、3点目と追加点を入れられていたら、気持ちは完全に切れていたかもしれません。


気持ちが切れると一歩目が遅くなる

気持ちが切れるとは集中力が極端に下がった状態のことです。集中力が低下すると、思考や判断のスピードが遅くなります。

思考や判断が遅くなると迷いが生じます。それが身体にも伝わり、一歩目の動きがわずかに遅れたり、力が上手く出せなくなるといったことが起こるのです。

後半の立ち上がりから、日本代表選手のメンタル面は大きく改善されているように感じました。

それはプラン通り(0-1は想定内)に前半を終えたからなのか?ハーフタイムで気持ちをクリアに出来たのか?監督の激が効いたのか?理由はわかりません。

彼らの多くは普段からヨーロッパの強豪リーグに所属し、揉まれていますから、きっかけさえあればすぐに平常心に戻すことが出来るくらいのメンタルは持ち合わせているはずです。

さらに後半に投入された堂安選手はチーム全体として大きかったように思います。

彼のような意気込みが強くギラギラした選手が入ることで、他の選手にもそれが波及します。心の状態は他の選手に伝わるのです。特にワールドカップのような厳しい戦いでは。


ドイツは日本を舐めていた

対してドイツの選手からは日本の選手と比べると勝ちたい意欲をあまり感じませんでした。

いつもよりドイツの選手の動きが重たく見えたのですが、気持ちが入っていないと人間の動きは遅くなります。

コンディション不良があったかもしれません。数名を除いて最大限に集中しているようには見えませんでした。

もちろんドイツ代表も勝ち点3を狙っていたはずです。日本相手ならその気になればいつでも追加点を取れるし、負けることはないだろうという傲慢さがあったのかもしれません。

リュディガー選手の相手を舐めたような走りや単純なミスを繰り返すドイツの選手からそれが伝わってきます。

そして日本の2点目はドイツ選手の傲慢さから生まれました。

この時、サイドバックのズーレ選手がラインコントロールをきちんと行っていれば浅野選手の飛び出しはオフサイドでした。

ラインコントロールはディフェンスの基本中の基本です。このレベルの選手が基本を疎かにしたのは、傲慢によって生じた集中力の低下が原因であることは間違いありません。

その隙を上手くついてパスを出した田中選手の判断が優れていたこともありますが。

ズーレ選手はブンデスリーガでは見せないような前半から気の抜けたプレーをしていました。

その後、ようやくドイツの選手達も「ヤバい」とやる気を出し反撃に出るのですが、焦りや混乱のせいで身体の力みが強く、持てるパフォーマンスを発揮することが出来ません。

傲慢さは心の隙を生み、集中力を下げ、思考や判断、パフォーマンスを低下させるのです。

ワールドカップのようなギリギリの戦いではこれが致命的なものになるでしょう。

日本の戦術や戦い方が優れていたからというのもありますが、ドイツがその傲慢さによって自滅したという見方も出来ます。

もしドイツ代表が傲慢さを横に置き、プレーに100%集中していれば、後半の日本代表の可変に対応できた可能性がありますし、前半のうちにまたは後半の早い時間にあっさり追加点を奪い試合を決めていたかもしれません。


コスタリカ戦

強豪ドイツに勝ったことで日本中は凄い騒ぎになりました。あれだけ森保采配を批判していた人達やメディアも手のひらを返し、お祭り状態です。

観戦している人はそれでいいのですが、選手も同じ状態では非常に困ったことになります。

もちろん森保監督を始め、選手達もそんなことは百も承知だと思います。ドイツ戦後のミーティングでも気持ちを入れ直したに違いありません。

しかしそこは人間です。

あのドイツに勝ったという達成感や高揚感をそう簡単に手放すことは出来ません。

全員ではないと思いますが、選手の多くは「それ」を引きずったままコスタリカ戦を迎えたはずです。

頭では「平常心にならないといけない」「次に気持ちを向けないといけない」ということがわかっていても、そう簡単に切り替えることが出来ないのが人間なのです。トップアスリートも例外ではありません。


メンタルコントロールは難しい

日本代表選手と言ってもメンタルを自由にコントロールできるわけではないでしょう。実際にトップアスリートでも一般人とそれほどメンタルが変わらない選手も珍しくありません。

メンタルコントロールを徹底的に訓練しているアスリートはまだまだ少ないのです。

サッカーに限らず、強気のコメントをする選手がいます。メンタルが強いように感じますが、ほぼ間違いなくメンタルが弱いでしょう。

強気のコメントをすることで、自分を奮い立たせてメンタルの弱さを覆い隠し、向き合わないようにしているのです。

自分自身がその状態にあることに気づいていない選手も少なくありません。

本当にメンタルの強い選手は淡々としています。どこか覇気のないような印象を受けることもありますが、こういった選手の方が力を発揮しやすいのです。


自信は傲慢に変わる

コスタリカ戦に挑む選手達のインタビューを見ましたが、何人かの選手はドイツ戦の前のような強い意気込みが消えていました。

メンタルのプロであれば、顔や身体を見ればそれくらいは簡単にわかります。

ドイツ代表を破ったことで自信が芽生えたことはとても良いことです。その自信を保つことが出来れば、とんでもない結果を出すことも可能でしょう。

しかし自信は扱い方を間違えると傲慢に変わります。強い自信は諸刃の剣なのです。

コスタリカ戦の試合を見ると何人かの選手の中に傲慢さが芽生えていたことは疑いようがありません。

なぜならドイツ戦ではまったく見られなかった気持ちが途切れる場面が何度もあったからです。

失点シーンは典型的です。失点に絡んだ選手は全員、判断も反応も遅かったのですが、あれは体力的に消耗しているというよりは気持ちが切れたことによる、集中力の低下が原因だと私は見ています。

もちろん選手達は必死でプレーしていますし、手を抜くことはありません。

しかし注意深く自分を律することが出来なければ自信は傲慢に変わり、確実に心の隙を生み出します。心の隙は無意識的に怠慢なプレーにつながります。

そこに気づき修正することはトップアスリートでも容易ではありません。


意思統一は重要

逆にコスタリカ代表の選手達は、最初から最後まで集中しているように見えました。スペイン戦で大敗したショックを上手く切り替えることが出来たのでしょうか。

やるべきことがチーム全体で共有し、はっきりしていたという意思統一があったことも気持ちが切れなかった要因だと考えられます。

実はコスタリカ戦の日本は戦術的には悪くはありませんでした。戦い方や選手起用を批判されていましたが、細かく試合を見れば悪くない試合運びだったことがわかると思います。

だからこそドイツ戦ではなかった心の隙が生じたことが悔やまれます。少なくとも勝ち点1は十分に取れる試合でした。

【第2回】なぜサッカー日本代表はベスト8へ進めなかったのか?メンタル面からの考察。へ続く
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プロフィール
西山 純一 
大阪マインドフルネス研究所
https://www.mindfulness-lab.com/

メンタルトレーナーとして多くのプロアスリートや経営者、アーティスト、医療従事者、教師や心理士、学生やビジネスマンなど幅広い人にマインドフルネスをベースとしたマインドの使い方やメンタルコントロール、食事改善や運動、ダイエットを指導。

指導歴は18年 1000人を優に超える人達に指導してきた。

20代前半でアメリカのパーソナルトレーナー資格を取得して、大手フィットネスクラブや関西のスポーツ強豪大学や高校でスポーツトレーナーとして活動。

同時期に大学で心理学の単位を取り、心理カウンセラーとしての訓練も受ける。専門僧堂や禅寺でも禅や瞑想を学び実践する。

プロアスリートや年商数十億円を超える経営者をクライアントに持ち、うつ病を始めとする精神疾患やガン患者、難病患者のカウンセリングやメンタルケアも行う。

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