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数年ぶりに再会した従姉妹と、ひとつ屋根の下で甘い生活を 第33話

  *

 一糸家に来てから数日が経ったけど、この数日間は平穏ではなかった。

 まだ、入学してから一ヶ月も経たないというのに、だ。

 それに……俺が誰を選ぶのか、という問題に対して彼女たち、一糸家の四姉妹アンド葵結が積極的だということ。

 陽葵と葵結は積極的にアピールしてくる。

 琴葉さんも負けじとアプローチしてくる。

 咲茉はいつものように俺のそばにいた。

 そして、今日の夜……一糸家に一糸学院の理事長で四姉妹の父親である一糸桜芽と四姉妹の母親で俺の母の姉である一糸藍乃いと・あいのが帰ってくる。

 だから、俺は桜芽さん、藍乃さんと話をするためにリビングで待っている。

「うわぁ~、緊張してきた……」

 俺はソファに座って待機している。

「蒼生お兄ちゃん……」

 隣には咲茉がいる。

「蒼生くん……」

 そして、正面では琴葉さんがいた。「蒼生お兄ちゃんは、あたしたちの誰かを選んでくれるよね……?」

 咲茉の問いに俺は答えることができなかった。

 だって、選べないからだ。

「蒼生お兄ちゃんは優しいもんね……だから、みんなが好きになったんだと思う……」

「ありがとう……」

「でもね……」

「うん?」

「あたしは、蒼生お兄ちゃんと一緒にいたい……」

「……!」

 咲茉が抱きついてきた。

「蒼生お兄ちゃんのこと……大好き……」

「咲茉……」

「ずっと……一緒にいて……」

 咲茉の瞳には涙が浮かんでいた。

「咲茉……」

 咲茉の頭を撫でる。

 すると、彼女は泣き出してしまった。

「蒼生お兄ちゃん……大好きだよぉ……」

 咲茉は大粒の涙を流している。

「……っ」

 俺は言葉が出なかった。

 咲茉の言葉を聞いているうちに、俺まで泣いてしまいそうになった。だけど、俺は泣かない。泣くわけにはいかない。

 俺が決めたことだ。

「咲茉、ごめんね……」

 俺は謝ることしかできなかった。

「いつか、俺は……決めないといけないんだよ……」

「……っ」

「でもね……俺は、みんなのことが好きだよ……」

「蒼生お兄ちゃん……」

「本当に、好きなんだよ……っ」

「……」

「でもね……俺は……」

 俺は、なにを言えばいいのかわからなくなっていた。

「蒼生お兄ちゃん……」

「ごめんね……」

 俺は、ただ謝罪することしかできない。

 そんな自分が情けなくて仕方がない。

 だけど……俺は、彼女たちとの時間を大事にしたいと思っている。

 だからこそ、答えなければいけない。

 でも、どうやって?

 ……わからない。

 どうしたらいい?

『…………』

 沈黙が続く。

 でも、すぐにそれは破られた。

 ピンポーン……!

 チャイムが鳴る。

「あっ……」

「……?」

 俺は立ち上がり、玄関へ向かう。

「はーい……」

 扉を開けると……そこにはスーツ姿の男女ふたりが立っていた。

 男性のほうは背が高くてイケメンのおじさんで、女性のほうは綺麗な美人さんだった。

「こんばんは……蒼生くん、大きくなったね」

 男性が話しかけてくる。

「あ、はい……お世話になっています」

 彼と彼女が四姉妹の父母である一糸桜芽と一糸藍乃だった。

「じゃあ、上がるぞ」

 桜芽さんが言う。

「ええ……」

 藍乃さんは笑顔だったけど、どこか悲しげな表情をしていた気がした。

「子どもたちの成長を見守るのが、親の役目だからね……」

 桜芽さんが微笑んだ。

 彼の空気が少しだけピリピリしているように俺は感じてしまった。

  *

 桜芽さんと藍乃さんをリビングへ案内する。

 そして、俺と四姉妹と葵結は桜芽さんと藍乃さんの対面に座った。

「それで話というのは、なんだい……?」

 桜芽さんが訊く。

「それは……」

 俺は緊張していた。

 でも、ここで言わないと、前に進まない。

「桜芽さん、藍乃さん……」

 俺は深呼吸をして、言葉を紡ぐ。

「実は、桜芽さんと藍乃さんに、ご報告しなければならないことがあります……」

 俺の声が震えていた。

 緊張しているからなのか、恐怖を感じているのか、それとも、別の理由があるからかは、わからない。

「俺は今、迷っています。そうです。俺が言いたいことは……俺は、この家で過ごすうちに、彼女たちのことを好きになってしまいました……」

「…………」

「なので、俺は……誰を選ぶかは自分で決めようと思っていましたが……」

 俺は一度、息をつく。

「やっぱり、自分の気持ちには嘘をつけませんでした……」

「…………」

「すみません……」

 俺は頭を下げる。

「……蒼生くん、顔を上げなさい」

「はい……」

 言われた通り、俺はゆっくりと顔を上げる。

「ふぅ……」

 桜芽さんはため息をついた。

「君は、優柔不断だね……」

「す、すみません……」

「でもね……僕は君の選択を尊重するよ……」

「桜芽さん……」

「僕たちは、いつだって君たちの味方だ……」

 彼は優しい笑みを浮かべる。

「しかし、蒼生くん……いつかは娘たちの誰かを選びなさい」

「!」

 桜芽さんの言葉を聞いた俺は、ハッとした。

「あなた……」

 藍乃さんも驚いた様子だった。

「ああ、わかっているよ……」

 桜芽さんは真剣な眼差しで言った。

「私が、なんとかするよ……」

 そうだ。

 俺が選ぶ道は、ひとつじゃないんだ。だって、俺は……ひとりじゃないから……。

「ちなみに娘たちの誰に告白されたのか……それを教えてくれないかい?」

「えっと……」

 俺は視線を逸らす。

「あたしだよ……」

 咲茉が手を挙げた。

「咲茉ちゃんが……」

 桜芽さんは驚く。

「蒼生お兄ちゃんに好きだよって伝えたの……」

 咲茉が答える。

「そうか……」

 桜芽さんは呟いた。

「蒼生お兄ちゃん……」

 咲茉が真っ直ぐな瞳で見つめてくる。

「うん?」

「あたしを選んでね……」

 咲茉は優しく微笑む。

「……っ」

 俺は言葉が出なかった。

 彼女の瞳からは強い意志を感じたからだ。

「私もです……」

 次に名乗りを上げたのは、琴葉さんだった。

「蒼生くん……私はあなたのことが好きです……」

 彼女は頬を赤く染めながら言う。

「っ……」

 俺はまた言葉が出なかった。

「わ、わたしもですよ……」

 葵結が言う。

「蒼生のことが好きです……」

 葵結は顔を真っ赤にして言う。

「…………」

 俺は黙り込んでしまう。

「わたしだって……わたしが最初に付き合ってって言ったのに……」

 陽葵がボソッと言う。

「…………」

 俺は彼女を見た。

「蒼生……!」

 彼女は俺をじっと見つめる。

「……蒼生お兄ちゃん、選んで……」

「蒼生くん……私たちのどちらかに決めてください……」

 四人の少女たちは俺に想いを伝えてくれた。

「…………」

 俺はどうすればいい? どうしたらいい? どうしたら正解なんだ? わからない。わからないよ。

 俺は……俺は……!

『…………』

 俺は、どうしたらいいんだ? 俺は、どうしたら……!

『…………』

 どうしたらいいんだよ……!

「蒼生お兄ちゃん……」

「蒼生くん……」

「蒼生……」

「蒼生……」

 四人が俺の名前を呼ぶ。

「う、あ、あぁ……あ、あ……あぁ……」

 俺は頭が混乱していた。

 どうしたらいい?

 俺は、どうしたいんだ……!

 わからない。わからないよ。

 ……もう、わけがわからなくなってきた。

「あ、あ、あ……あぁあ……」

 俺は、なにも答えられなかった。

「あ、あ、あ……」

 声にならない声で叫ぶ。

「あ、あ、あ、あ……」

 俺は頭を抱えてしまう。

「あ、あ、あ、あ……」

 すると……視界が歪んできた。

「ああ、あ、あ、あ、あ……」

 俺の目には涙が溜まってきている。

「蒼生……?」

「蒼生くん?」

「蒼生……」

「蒼生お兄ちゃん……?」

「あ、あ、あ、あ、あ……」

 俺は、ただひたすらに嗚咽を繰り返す。

「蒼生……」

「蒼生くん……」

「蒼生……」

「蒼生お兄ちゃん……」

 ただ、俺は震えて、なにもできない自分に泣いた。

「蒼生くん、君は、まだ答えを出せていないようだね……」

 桜芽さんが言うことは当たっていた。

「……っ」

 俺は、すぐに返事ができなかったが、正直に答える。

「はい……」

「愛娘たちがここまで勇気を出して想いを伝えたというのに、君はなにも感じないのかい?」

 桜芽さんは俺を睨みつける。

「……っ」

 俺は息を呑んだ。

「蒼生くん、私たちは君の決断を尊重しているよ」

「…………」

「じゃあ、しょうがない……こうしようか」

 桜芽さんはニヤリと笑う。

「愛娘たちよ、こうなったら蒼生くんに選んでもらうために努力するしかない。蒼生くんが振り向いてくれるように、がんばろうじゃないか……」

 桜芽さんが提案する。

「えっ……?」

 俺は思わず訊き返してしまう。

「蒼生くんは優柔不断だ。だから、愛娘たちは彼にアピールをしていけばいいじゃないかっ!」

 桜芽さんは高々と宣言をした。

「あなた……」

 藍乃さんはため息をつく。

「さすが、お父さんだね!」

 咲茉が言う。

「はい!」

 琴葉は笑顔で言った。

「ふふっ、そういうことなら……」

 葵結は自信満々な表情を浮かべる。

「わたし、負けないからっ!」

 陽葵は元気よく返事をする。

「……!」

 俺は気づいた。

 これは、俺に逃げ場はないということに……。

 そして、彼女たちの俺に対する熱い視線が突き刺さってくる。

「…………」

 俺は無言で目を逸らす。

「いい感じにまとまってきたんじゃない〜?」

 一華さんが面白そうに言う。

「ふむ……なかなか面白い展開になってきましたね」

 藍乃さんも楽しげな様子でつぶやく。

「…………」

 俺は俯いたまま動けなかった。

 こうして、俺の従姉妹との甘くてドキドキな生活が、また始まり、これからも続こうとしていた。

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