竹内かおる

人形作家。音楽と本と映画と苦いコーヒーが好きです。どちらかというと古いものを好みますが、新しい時代も決して嫌いではありません。水玉よりチェック、丸襟よりタートル派。ダッフルコートが似合いません。マイペースでぼちぼち書いていきます。

新宿方丈記・45「CHEWING GUM!」

若い頃はあんなに、毎日と言っていいほどライブハウスに通っていたのに、今では年に何本、というくらいすっかりご無沙汰してしまっている。それに、ライブに行ってあんなにワクワクしたりはしゃいだりすることも、なんだか気恥ずかしい。いつの間にかそんな年齢になってしまったのか。本と映画、それにレコード・CDはあいも変わらずだけれど、ライブは一度足が遠のくと、なかなかねえ…。危うくそんな、つまらない大人(!)みた

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新宿方丈記・44「どこかで半分失くしたら」

久しぶりに美容師さんに髪を切ってもらいながら、耳が出るとピアスをしたくなりますねという話になった。確かに。でもピアス、よく失くすんですよ。そう、片方だけね。気に入ったやつに限って何処か行っちゃうの。そうそう。仕方ないから左右違うの着けたりして。そんなよくある話をして笑っていたのだけれど、引き出しの中の一つだけになったピアスたちを見ていて思うのは、失われた片割れの行方である。何かの拍子に思いがけない

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新宿方丈記・43「湿った夜の花火」

仕事を終えてオフィスの外に出ると、パラパラと雨が降り始めた。傘を取りに戻ろうかとも思ったが、再びエレベーターを待つのが億劫で、ええい、と雨の中に早足で踏み出した。酔客の溢れる赤坂の裏通りは、宵の口でも深夜でもない、微妙な顔を見せている。対して濡れもせず駅に駆け込み、電車に乗った。いささか冷房の効きすぎた車内は、LEDの灯りがうるさいくらい眩しい。最寄駅について、どんよりとした灰色の空の下に出る。立

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新宿方丈記・42「避雷針」

時々、思いも掛けない出来事に巻き込まれることがある。とばっちりとか災難と言ってもいいかもしれない。そんなつもりもなく言ったことが誤解を通り越してねじ曲がって伝わったり、などということは往々にして起こりうるかもしれないが、もっと厄介なことに、言ってもいないし関わってもいないことに、首を突っ込まされるようなことだって発生する。ただその場にいたから、同じチームだからというだけで、平等の責任を押し付けられ

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新宿方丈記・41「言葉を紡ぐことは」

しばらくの間、文章を書くことが嫌になってしまった。というのは正確じゃないな。自分で自由に文章を書くのが、と言った方が正しい。だって出勤してから退社するまで、ほぼずーっと仕事で何かしら書いているのだから。語弊があるかもしれないが、ビジネス上の文章なんてどうにか切り抜けられるのだ。仕事として受けたのだから、どんなものでもクライアントの意向に沿って、規定上のルールに則って、なんとか形にすることができてし

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新宿方丈記・40「続いていくもの」

冬の朝、布団から出た瞬間の、火の気のない部屋の空気が苦手だ。だったらエアコンのタイマーをかけておけば済むことなのだけれど、暖かい部屋で健やかにいつまでも惰眠を貪ってしまいそうなので、怖くて実行できない。それにその冷たい部屋の空気が苦手だけれど、嫌いでもないのだ。朝とはそういうもの、と自分の中で納得しているのかもしれない。ほんの数時間前まで少なくとも夜だった名残は何処へやら、フィルターで濾過したよう

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