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春の嵐

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私の毎日をもとにして、小説っぽいものを認めました。前回書いた「川を越えていく」の続編です。
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⑤春の嵐〈Nem’oubliez pas〉

⑤春の嵐〈Nem’oubliez pas〉

4月はあっという間に春を連れてきて、中旬にもなると、今度は春を連れ去ろうとしている。

フランス語では、桜の花言葉を「Nem’oubliez pas」と言うらしい。日本語訳では、私を忘れないで。

Je prie pour que vous ne m'oubliez pas
"どうか私を思い出して"

別にね、悲しい別れだけではないと思うよ。一時も忘れないで…そんな意味合いで捉えたい今日この頃だ。

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⑥春の嵐〈雨のち晴れ〉完

⑥春の嵐〈雨のち晴れ〉完

晩春とも言うべきか。春の終わり。春の末。東京は雨が降っていた。シトシトと身体に沁みる。昨日より気温も下がり、冷たい雨が外に停めている自転車を濡らしている。

藤原灯は時計を見て、そろそろと出かける支度を始めた。5/1は映画館のFirst dayだ。この日に観ようと思っていた流行りの映画を観に行くのだ。雨が降っていて迷ったが、念の為にチケットはインターネットから購入しておいたので、是が非でも行かない

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④春の嵐〈祭り〉

④春の嵐〈祭り〉

「てのひらに春」春のパン祭り開催中。

今年はデイリーイシザキのお店でお弁当やおにぎりを買っているので、どんどん点数が貯まっていく。このペースでいくと白いお皿が2枚もらえる可能性が高い。少し深さのある皿らしいので、2枚もらえるとサラダを入れたりスープに使ったりできるな…。そんなことを考えている藤原灯の2024年春だ。

以前、白いお皿の話を恋人にした時、呆れられて「普通に白い皿を買ったらいいんじゃ

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③春の嵐〈花曇り〉

③春の嵐〈花曇り〉

「花曇り」は桜が咲く頃に空が曇っている天気のこと。3月下旬から4月上旬に使われるのが一般的だ。

春は移動性高気圧の晴天と低気圧の悪天候との間隔が短いので雲が多い。また日本南岸に前線が停滞することがあり,これも花曇りの原因となっているらしい。

今日のランチは職場近くの公園まで歩いていった。桜が曇り空の下で咲いている。なんだか寂しそうな空だけど、公園には多くの人がお花見をしたり、子どもがお父さんと

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②春の嵐〈催花雨〉

②春の嵐〈催花雨〉

春、早く咲けと花をせきたてるように降る雨を「催花雨」と言う。

今年の春は雨がよく降る。風も吹いて季節が変わっていくことをしっかり知らせてくれているように思える。

今の部署は、今日で最後の出勤日となる。出勤早々、先輩や同僚がしんみりとしていた。
この支店には丸8年、席を置いていた。1番の長老が何も言葉を発しないながらも、私の顔をまじまじと見つめた。何か言いたげな顔。寂しそうに目を細くした。

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①春の嵐〈沈丁花〉

①春の嵐〈沈丁花〉

今朝は自宅の前に咲いている沈丁花の薫りが春の訪れを知らせてくれていた。自転車を漕ぐ足も軽快だ。

沈丁花の花言葉は「永遠」「不死」「不滅」「栄光」だそうだ。常緑樹で、みずみずしさを感じさせる葉をつけることに由来している。別名を「千里香」と言い、三大香木のひとつ。甘い香りが芳しい。

春は、新しい大風を運んできたので、油断すると大人でも吹き飛ばされそうな突風で、ビルとビルの谷間を進んでいるせいか、笑

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春の嵐  〈はじめに〉

春の嵐 〈はじめに〉

目が痒い。きっと花粉症のせいだろう。

ブラウンのマスカラを塗った目を擦ると、マスカラが手に触れて、パンダ目にならないようにそっと手を離して、鏡で自分の顔を見た。化粧が崩れていないか、確認してみたが、それほどでもなく、ホッとした。アレルギー用の点眼薬を挿した後、軽く化粧直しをした。

春分の日。午前中は快晴だったのに、午後は荒天になるという。人生と同じだな、と思った。晴れの日もあれば、雨の日も風の

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