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読書日記・最後まで途切れないほうが稀なのかも

5月23日(火)

犬の通院日。動物病院で「○○(うちの犬)さんは元気ですか?」と聞かれたのだけど、ちょっと前に熱を出した娘の顔が浮かんでしまいとっさに反応できず、「え?この子(犬)は元気なんだっけ?何か不調だったっけ??」と混乱してしまい、すぐに返事が出きなくて焦った。「えっと、ええ、はい、元気です、はい、いやもう、そりゃあ元気で、ええ、とっても、ねぇ」みたいな、ちょっと何言っているかわからない返事をしてしまったのに、先生はまったく気にしていなかった。きっと慣れてる。ちょっと何言ってるかわからない人の対応に慣れてる。相手の言っていることを深追いせずに、スルーしていく術を確実に身につけている。素晴らしい。

読んでいたのは、村井理子さんの『はやく一人になりたい!』

本の中で村井さんがこの先、満足する文章が書けなくなったり、物書きとしての仕事がなくなったりしたらどうするのかという話があった。残念で惨めな気持ちにはなるかもしれないけれど、それ以外はあまり変わらないと村井さんは書いている。

そもそも、誰が読んでくれるかわからない文章を毎日淡々と十年以上も書いていた私だ。読まれない状況には慣れている。読まれないプロだ。そして、またその地点に戻ればいいだけの話なのだ。淡々と書いて、淡々と読む。一人孤独に、笑えることを探して生きる。それで満足だ。

『はやく一人になりたい!』より引用

一度でも自分の文章を読んでもらった人は、読まれない状態に戻るのってかなりのダメージのように思うのだけど、村井さんは「淡々と書いて、淡々と読む」らしく、その潔さに惚れた。


5月24日(水)

翌朝のパンを買ってくるのを忘れたので、さてどうしたものかと思っていたらホットケーキミックスを見つけた。宿題が終わった息子に一緒に焼いてみようか、と声をかける。息子はおそるおそるだったけれど、生地をまぜたり、ホットケーキをひっくり返すところまで一人でやり遂げて非常に満足そうだった。そして一枚完成したところで「あとはよろしく!」と言って颯爽と去っていた。まだ二枚焼けるんだけど??と声をかけるものの、一枚焼いただけで疲れたとのこと。なるほど。最後までがんばってやりとげるのが大事とされている世の中だけど、疲れたからそこで止めるという姿勢もまた大事だよね、無理をしない姿勢もまた必要かもしれない、なんてことを考えていた。残りは私が焼いた。考えごとをしていたせいか二枚とも焦げた。ははは。

読んでいたのは、品田遊さんの『キリンに雷が落ちてどうする 少し考える日々』

他者が何を考えているのかを知りたいと思って会話をしても、相手の考えていることがよくわからないと思うことが多々ある。なので、こうして個人の思考が文章となり、一冊の本になってくれるのは嬉しい。本を読みながら、あぁわかると思ったり、面白いことを考える人だなぁと思ったり、よくわからないなぁと思ったりしている。結局のところ、完全に人を理解するなんて無理だな、でもその人の思考を垣間見るのは面白いなと思いながら、ちょこちょこと本を読み進めているこの時間が楽しいのだった。


5月25日(木)

昨日焦げたホットケーキを子どもたちに出したら、特に気にせず食べてくれたのでホッとした。ホットケーキだけに(え?)。普段ホットケーキを食べない子どもたちは、どうやら焦げている状態のホットケーキを普通のホットケーキだと判断したらしい。料理が下手な母親がいると、失敗作が普通だと思ってしまうのはたしかにある。私も給食のカレーを知るまで、カレーというのはサラサラしているものだと思っていた。私のは母はカレーを作るとき大量の水を投入するのでサラサラしているのだ。私はサラサラカレーで育っているからそれが普通だと思っているけれど、父はサラサラカレーをどう思っていたのかと聞いたら「サラサラしているのはどうでもいい。ただカレーに砂糖が入ってないのはビックリした」と言うのでこっちがビックリした。父は砂糖入りのカレーで育った人なので、60を超えても甘口カレーしか食べられない。家庭の味おそるべし。

読んでいたのは、『本を贈る』

 幼子たちはさまざまな方角から本を楽しむが、大人たちはどちらかというと、直線的に本を読もうとする。最初の一字から最後の一字まで一文字も飛ばすことなく、物語や論考の結末に向かって一直線に進んでいく。それは例えていうなら、マラソンのようなものだ。
 最初のほうは気合を入れて読むが、途中で息切れして、集中力が散漫になる。(中略)
 最後の数十ページを読むときは、すこし昂奮している。いちばん最初のときに持っていた集中力は、散漫というよりは、まるで違うものになっていて、それはランナーズハイのような状態に近い。
 この本も、あともうすぐで終わる。あともうちょっと。残り一〇ページ。五ページ。三ページ。一ページ。
 左手の指で数えていた残りのページ数はついにゼロになる。

『本を贈る』より引用

読書をマラソンに例えているのがとても良かった。途中で息切れして集中力が散漫になるのは、よくあることかもしれないと思えるだけで心強い。私は集中力が皆無に近いので、一冊の本を読み切るのにとても時間がかかる。それを恥ずかしいことだと思っていた。でも恥ずかしがらなくてもいいのかもしれない。集中力が最後まで途切れないほうが稀なのかも。

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