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ヒトラーのための虐殺会議(2023年)【映画感想だけで一千万本の映画があるんですよ。最良なのは最初から何も観ず何も語らないことです】

ナチスドイツのユダヤ人絶滅制作の具体的実行プランを討議した、ヴァンゼー会議を映画化したものです。
このヴァンゼー会議の資料は、明確に残っていて、ニュルンベルグ裁判でも資料として提出されました。

さて、この映画、かなり前に同じネタの映画があったのですけど。

そのいわゆる旧作と違うところなどを中心に解説してみたいと思います。

旧作では、なんというかこんな重大な会議を、
官僚的にあっさりと決めちゃうというライトさが重視されていたような感じがします。
いわゆるハンナアーレントの「凡庸な悪」説に基づいた描写ですね。

対して今回の新作は、
けっこう情緒的な描写があります。
官房局長クリツィンガーと、内務省次官シュトッカートがかなりの抵抗を見せ、会議を主催するハイドリッヒ国家保安本部長を苛立たせます。

しかしそこは官僚会議。
いわゆる根回しによって、大きな声を上げることなく、
穏便に妥協して合意していきます。

金髪の野獣ハイドリッヒでさえも、抵抗がある部分はほぼ妥協します。
パワハラとかはまったくない、働きやすそうな職場です。

旧作と比べて、こうした演出が多いのは、
まあ史実とは違うと思いますが、
事後にハイドリッヒがアイヒマンに、
「議事録を作成しておいてくれ。実際よりも官僚的な言葉で書き直してな」
と命令しているので、そういうネタなんだと思います。

そうそう、今作においては、事務方としてアイヒマンも大活躍してます。
アーレント理論に納得できない方々も、
(アイヒマンがそんなに小物のはずがない!)
今回のアイヒマンには留飲を下げるでしょう。

しかしシンゴジラ(実は未視聴ですけど)における、
官僚の説明とやっぱり似てます。(アイヒマンが)

官僚って、技術的説明に終始するものなんですね。
まあビジネス全般がそうなんですけど。
淡々と解説に終始する方が、逆に凄みがあると思うのは私だけでしょうか?

*****
こちら全体主義における大量虐殺の経緯についての映画化ですが、
実を言うと、民主主義国家においても、
黒人奴隷問題、先住民虐殺問題、植民地化問題など、
多くの問題が民主政府によって決定されてきたので、
全体主義の専売特許ではありません。

日本においても、大陸での戦争についてはいわゆるリベラルが主導しました。
大正デモクラシーの時代に大陸での趨勢が強化されたのも、理由のあることなのです。
いわく、植民地を手に入れて、国内の貧民を救え、という論法。

民主主義においても、選挙権のないものに対しては、しばしばあきれるほど冷淡で無慈悲なことがあります。他人事ではありません。

シュトッカートが抵抗したのも、国内のドイツユダヤ混血児たちの扱いについて。
それ以外は手を出しようがありませんし、出しません。
不可能なことは最初からやらないのです。

******
歴史映画としては、淡々と会議が続いていくという、
味もそっけもない感じの映画です。
この点は旧作新作を問わず同じ。
音楽もほぼなし。

でも、そこらへんは、薄気味の悪さを、
背筋に変な汗が流れるような感覚があり、
そこらへんがこの映画の、いやな言い方ですが、美味しいところだと思います。
現代人の一般教養的なレベルですので、
この映画を観て、考えさせられた、とかはないでしょう。

あとSSの制服がたくさん出てくるので、
制服が好きな人には一息つける(?)作品です。
まあSSとナチ党くらいしか出てこないですけど。
あ、ナチ外務省の制服が出てくる・・・存在価値・・・
外務省ってなんだっけ。
てか外交官じゃないでしょこの人。
(ナチスは外交なんかしてないので、外交官の出番がなかった。でも制服はある。なんだろうな)

追記:アマゾンで変なコーヒー見つけた!みんなドクロがスキだなー。

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