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「お待ちどぉさん」の極意

食べる前からもう気持ちよかった。あったかかった、
「いらっしゃいませ!」
暖簾をくぐるとまっさきに迎えに出て下さる御店主であろう年配の男性の、
うるさくなく嘘くさくなく爽やかなのに押しつけな爽やかさじゃない上品で清潔な色と大きさの声と、その声にしっくりぴったりな笑顔。
席に通されると、若いひとがお手拭きと一緒に運んでくれるのは2種類。
お水と、程よいあったかさのほうじ茶。わあ!
その日は夜と夕方のあいだくらいの時間なのにちいさな店内は程よく賑わっていて、客の顔ぶれはさまざま。
イヤホンをつけた強面のにいさん、若くはないカップル、
仕事帰りのような女性、同じく仕事帰りのおじさん、
注文が届く前からもう一杯やってる中年男性おひとりさま。
うるさいひとや騒ぐ人はいないし、
品のない食べ方や注文をしている人も居ない。
 
注文したものが届くまでほうじ茶をいただきながら待つ結構待つ。
立ち食いで提供されるそれ系には慣れているから待ち時間は結構長く感じたけれど、でも名物たちなのだから待ってみよう。
「ほんとうにおいしい、なんてことないねんけど」
「ぜんぜんおおきな店たいした店とちゃうけど、いいよ、きっと好きやで」と薦められて来たお店だ。
何食べるかほんまに迷った。
主張しすぎずうるさすぎずどや顔もしていないきちんと上品な写真で紹介されたメニューは表面も裏面もどちらもおいしそうなものばかりだったから。
「かやくごはんだけ売り切れなんです。すみません」全然いい。
でも、皆がよく選んでいて、
先程の御店主が厨房とカウンターの人たちに声高に伝えている言葉は
とても気になる。
 
「はい。名物一丁!」
「名物いただきました!」
 
わたしも名物にしたらよかったかな。
悩んだ末、もう一方の名物にしてもうた。
 
御店主はその間も、
決して広くないお店を良い声と立ち回り方できびきびと回られている。
注文をとったり、出来上がったものを運んだり、
じろりとではなくさりげなく自然に各テーブルの様子をみている、声もかけている。
カップルのお客さんの男性が店の外のお手洗いへと立ったら、
待っている女性の方に「お手洗いの場所、おわかりになられてますか?」って、自然と、やさしく、
わざとらしさや押しつけがましさのない自然さで。
きびきび、きちんきちん、
その立ち回り方と声のかけ方と声の色と大きさ。
すべてが、粋。
いき、すい、どちらもの、粋。
 
本当に満足だった。
 
おいしかった。という言葉だけでいいのかもしれない。
そのおいしさは、口の中体の中に入れた味だけじゃない。
その味と味たちを「名物」と自然と言う矜持のようなもの、
いや矜持だなんて言葉をわざわざ出してくるような野暮さでもなく、
自然、その看板メニューたちを自然と出してくる店、
そこの人と店と雰囲気とこだわりと、
すべてが、相まって、
すべてが、切っても切り離せなく、完璧で。
よく言う、「芸がよかったら、別に他ええやん」
(これ、わたしの言いがちな極論of極論)
よく言う人の多い、「お客様へのサービスとホスピタリティを」
(なんやねんお前それ客側が声高に言うのもなにさまなん? っていっつも思う、もとい、思ってしまう)
なんかどっちも、ちゃうよね。
「どっちも」はきっと切り離せないもので、
相まっているから「こそ」で、
それはやっぱり芸というか品というか、あらわれるよね、
すべてが、すべてに、なんて、しみじみと。
 
そんな、あたりまえやけどあたりまえじゃなくなってる、
あたりまえやのにわたしたち皆が忘れたり忘れかけたりしているようなことを、店と一椀が、気付かせてくれた。
いきと、すいと、あったかさが、耳と口と肚へ、アタマじゃなくからだに入ってきて、思わせてくれた。
 
きしめんやさんです。
 
大阪梅田の地下街ホワイティうめだにあるお店。
名物、と言われるのは、味噌煮込みうどん。
もうひとつの名物である店名のついたきしめんは、
薄あげとほうれん草とカマボコと椎茸と鶏むね肉とネギ入り、かつおぶしのせ。
 
「おいしかったなあ」
食べ終わっても店出てからも家帰りながらも3回以上独り言のように言いました。
うれしかった。
 
いつも当たり前のように通ったり何年も通り過ぎていた地下街の中に
昭和36年からずっとあって、ずっと、きびきびきちんとシャンッと、あったかい。
まわりの古い店が次々に閉まってあたらしい店やチェーン店が出来ても、ずっと。

伊達に「ランチ時は界隈で一番人気」と言われてない。
 
また行きたい。

「お待ちどぉさん」って言うて運んできてくれてん。
お客さんによっては「お待たせしました」って言われている人もいたんやけど、
わたし、の、わくわくが伝わってたんかな、
わくわくとうれしさが、
せやからかな、
「お待ちどぉさん」
って、笑顔の声、笑顔と声やねんけど、笑顔の声で。
いまどきなかなかこの言葉きかへんよね。
うれしかった。
ちょっと強面のにいさんも、「どうも、ごちそうさまでした!」って言うて帰ってた。
 
あったかなった。

とても。

◆◆
【略歴や自己紹介など】

構成作家/ライター/エッセイスト、
Momoこと中村桃子(桃花舞台)と申します。

旅芝居(大衆演劇)や、
今はストリップ🦋♥とストリップ劇場に魅了される物書きです。

普段はラジオ番組構成や資料やCM書き、
各種文章やキャッチコピーなど、やっています。

劇場が好き。人間に興味が尽きません。

舞台鑑賞(歌舞伎、ミュージカル、新感線、小劇場、演芸、プロレス)と、
学生時代の劇団活動(作・演出/制作/役者)、
本を読むことと書くことで生きてきました。

某劇団の音楽監督、
亡き関西の喜劇作家、
大阪を愛するエッセイストに師事し、
大阪の制作会社兼広告代理店勤務を経て、フリー。
lifeworkたる原稿企画(書籍化)2本を進め中。
その顔見世と筋トレを兼ねての1日1色々note「桃花舞台」を更新中。
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