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映画「怪物」〜人は、見たいものだけを、見たいように見ている

ずっと観たかった映画「怪物」
実は、昨年の一時帰国の際に飛行機の中で観ることが出来たのだけど、途中何度か機内アナウンスが入り画面が中断したりで集中出来なかったこともあり、観終わったあとも混沌として感想がまとまらず…。
今こちらの国ではやっと上映が始まりもう一度観たので、今頃だけど感想を書こうと思う。

あらすじについては、note内でも沢山の感想記事があるので割愛する。

まず2度観た最初の感想は、
"人は無意識に、見たいものだけを、見たいように見ている"
ということ。
それぞれの先入観や偏見に捉われた視点によって、認識している現実も違ってくる。

周りから見られている人物像と、本人にとっての真実が、合わせ鏡のように明らかになってゆく展開は意外性があり、脚本家・坂元裕二さんのストーリーテラーぶりが存分に堪能できる。
いつもと違うのは、坂元脚本に見られる饒舌で特徴的なセリフが今作では影を潜め、かなりシンプルに感じたところ。
それは、ドラマチックとは対極にあるドキュメンタリーのような手法を感じさせる是枝監督と組んだことで、そうなったのかもしれないが。
監督・是枝裕和と脚本家・坂元裕二の初タッグということで、話題性も充分な作品だが、期待を裏切らない内容だった。

坂本龍一さんが生前最後に手がけた映画音楽も、物語に寄り添うような澄んだ音を奏でていた。


安藤サクラさん演じるシングルマザーの早織は、夫亡きあと息子に人一倍愛情をかけ、思春期にさしかかった我が子の僅かな変化も見逃さない。
自分が子供を守らなければと必死な様子や、学校は息子を守ってくれる場所ではないと悟った時の憤りに、自分が同じ立場だったら同じように不信感を募らせてしまうのではないか…と、重ねながら見てしまった。

それにしても瑛太さんは、こういう堀先生のような、一見すると掴み所のない役が上手い。
違和感のある言動、どことなく薄気味悪さもあるので、この教師は絶対クロだ!と観客に思わせるのに充分な説得力があり過ぎるのだ。
それも後に、自分がバイアスのかかった目で見ていたからだと、気付かされるのだが。
高畑充希ちゃんが演じる恋人・広奈の態度も、シビアというか…薄情で、後半になるにつれ、周りからの理不尽な堀先生への扱いに同情もしてしまった。

田中裕子さん演じる校長も、感情を現さず表面的で、どういう人物なのか初めは戸惑う。
中盤以降の、トロンボーンとホルンをみなとと一緒に吹き合うシーンでやっと、人間味が感じられた。

みなと依里より、二人の少年が互いに惹かれ合う、心の揺れ動きの描き方もよかった。
芽生え始めた感情に戸惑い、どうしていいか分からず相手を拒否したり、また近づいたり、気持ちが爆発するような場面はかなり胸に迫ってくる。
とくに依里役の柊木陽太ひいらぎ ひなたくんは、中性的な外見もあり不思議な魅力があった。依里は嫌なことも意に介さずいつも浮遊しているようにも見え、過酷な現実を感じさせないのだけれど、徐々に、湊と二人きりの時間だけが彼を救っているのだ、と分かってくる過程に胸が痛んだ。
湊役の黒川想矢くんは目力があり、是枝監督の「誰も知らない」で鮮烈なデビューを飾った、少年時代の柳楽優弥くんを彷彿とさせる面差しと演技だった。

廃棄された電車の中で広がる、二人だけの世界。
無邪気に伸び伸びと過ごす様子が、微笑ましくも切ない。


ラスト、緑の中を駆け抜けてゆく少年たちの姿は
現実なのか、それともーーー





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