#4 母子保健って?-新生児訪問-


前回、妊婦面接から出産までの支援について、1人の妊婦さんとの関わりを交えながら説明しました。
🌟妊婦Aさんへの支援🌟


今回は出産後の支援「新生児訪問」です。


Googleで、新生児訪問と検索すると、

「新生児訪問 お茶」

というワードがトップでした。なぜ…

どうやら、世間のママ達は、新生児訪問の際、スタッフにお茶を出すべきかどうか、が気になるようでした。


なるほど…。。


ちなみに、お茶を出してもらった経験は、私は、五分五分といったところでしょうか。
行政の職員なので、積極的にお茶やお菓子を貰うということはしません。
でも、私は、ママの気遣い・気持ちを受け取らないわけにはいかない、という考えで、タイミングが合えば、いただくことにしてます☺️

つまるところ、お茶はどちらでも。出してくれたらとても嬉しいし、なくても全然大丈夫!気にしないでください。



さて、本題にうつりましょう。


新生児訪問とは、



つまり、法律に定められている事業で、医療専門職が赤ちゃんのいる自宅に訪問して、赤ちゃんとその家族の健康をチェックする仕事です。


新生児訪問の名前は、自治体によって異なり、
「すこやか赤ちゃん訪問」
「こんにちは赤ちゃん訪問」
など、様々。



赤ちゃんが生まれたら、「出生通知書」というハガキを投函していただき、それを見て私たちは訪問します。


出生通知書は、このようなハガキで、妊婦健診票と一緒に付いていることが多いです。



戸籍を登録する「出生届」とは別物なので、注意。(出生届は出産病院で渡され、戸籍を扱う課に生後2週間以内に提出します、名前もこの期間で決めなければいけません)


新生児訪問する医療職は、保健師に限らず、助産師や看護師、その他研修を受けた民生委員の場合もあります。


私の自治体では、基本は助産師が訪問しますが、

下記の場合は、保健師が訪問します。

・赤ちゃんが低体重(2500g以下)や疾患あり
・ママに精神障害などの既往歴あり
・養育環境が適切とは言えない
・出産病院が継続した支援が必要と判断
(育児不安が強い、サポートが全くない等)

新生児訪問以降も個別支援が必要な可能性が高いためです。


訪問でチェックしている内容は

・赤ちゃんの体重、
からだで気になる点はないか
・ママの気持ち(※EPDS質問票を用いて)
・授乳状況
・サポート状況
・育児環境は適切か

などです。

このチェック項目で、個別支援が積極的に必要と判断した場合、その後の支援に繋げます。


※EPDS質問票
産後うつスクリーニングとも呼ばれます。産後うつのリスクが高いかどうかを判断するアンケートです。30点満点で、9点以上をリスクが高い人と判断します。


…………………………………………………



前回の記事で登場したAさんは、妊娠期からの継続した支援の中で信頼関係ができていたため、新生児訪問後は、自ら不安・疑問な点について、電話で連絡をくれるようになりました。

時には
「保健師さーーーーん!」
と窓口まで来て
「近くまで来たからさ、ほら見て、笑うようになったの!」
と赤ちゃんを見せにくるようにもなり、
「ついでにね、」と心配なことを質問することもありました。


なんだか、心があったかくなりますね☺️


後の記事にも書こうかと思いますが、保健師は、その人がより健康に生活できるように、と思って支援をしても、その支援を拒否されたり、罵られたり、、、そんなこともあります。むしろ、そんなことの方が多いのではないかと思う日もあります。


だからこそ、Aさんのように、いい方向に繋がった支援を大事に振り返り、保健師としての自分を褒める時間も、とても大切なんです。


………………………………………………………


さて、今度はBさんのお話をしましょう。


まずは新生児訪問前の情報。
この方は妊婦面接時問題なし、生まれてきた赤ちゃんにも問題はありませんでしたが、2人の育児への不安が強そうだ、と出産病院から保健師へ連絡がありました。
(基本、出産病院から行政へ情報提供する場合、対象者に同意をとります。同意がとれない場合でも、情報提供が必要とした場合は、法律に基づいて、実施するときもあります。)


Bさん

・40歳
・今回の出産が2回目
・第一子は2歳3ヶ月
・夫は38歳 仕事が忙しく出産前後病院にあまり顔を出さず
・出産前後は母方祖母が第一子をみてくれていたようだが、高齢のため継続は困難か
・Bさんから「自宅に戻って2人みれるか不安。第一子はイヤイヤ期で言うことを聞かない。」と涙ながらに発言あり


出生通知書が届いた後に、保健師より電話連絡をし、訪問日を決めました。


訪問すると、Bさんはこころよく私を招き入れてくれました。

赤ちゃんは、体重増加等、気になることはありません。


気になったのは、以下の3点


1.家の中。第一子のおもちゃ、食事等がそのままで、その他の書類等、散らかったままなこと
2.第一子が、「ねぇママ見て」と近づいてきても「さっきまでそれしなかったのに、なんで今するの??」などの強い口調
3.EPDS質問票が高得点であったこと


この3点から、

Bさんは2人の育児に追われ、身体的にも精神的にも余裕がない状態。サポート状況を確認して、必要な支援を考える必要がある。

と判断しました。


どんな支援が必要か見極めるために1点ずつ細やかに聞いていきます。


1. 家の中。第一子のおもちゃ、食事等がそのままで、その他の書類も散らかったままなこと

第一子は幼稚園に入れようと思っていたし、Bさんも仕事をやめたので、保育園にはいれず、日中ずっと自宅にいる。
赤ちゃんが小さいうちは、気軽に外出できないし、それだけでなく、授乳→寝たと思ったら泣く→抱っこ→寝たと思ったら授乳の時間だ、の繰り返し繰り返しで、あっという間に時間が過ぎる。
家事がままならないだけでなく、第一子は遊びたい盛り、家中のおもちゃや、手の届くものを出してはそのままでギャーギャー泣いてる。
夫は帰宅が遅く、Bさんがゆっくり話す時間もない。それどころか「ずっと家にいるんだろ」「何をそんなに怒ってるんだ」と言われる。


2. 第一子が、「ねぇママ見て」と近づいてきても「さっきまでそれしなかったのに、なんで今するの??」など強い口調

第一子が遊びたい盛りなのもわかるし、それをさせてあげられていないことへ、とても罪悪感を感じている。おばあちゃんが面倒をみてくれる日も「ママがいい!」と全然ダメ。言うことを聞いてくれれば、家事もできて、少し時間を作ってあげられるのに、言うことをきかないから、可愛いと思えず、つい怒ってしまう。手を上げてしまうこともある。怒った後に自己嫌悪に陥り、悲しくなる。子どもがほしくて不妊治療をしたのに、どうしてこうなってしまうのか…


3.EPDS質問票が高得点であったこと

基準点をはるかに上回る18点。
点数から産後うつになるリスクは高いと判断されます。Bさん自身、その自覚はある、と。


これらの内容を約1時間かけて、聞き取りました。
さて、私はどういう行動をとったでしょう。


「じゃあね、あなた、今とっても大変そうだから◯◯した方がいいよ」

思い浮かぶ解決策を出したでしょうか?


もちろん、いいえ。


まずは、Aさんへの対応と同じ。
「話してくれてありがとう。」
と伝えます。

Bさんが今保健師に話した、という行動が間違ってないですよ、と安心させてあげたいんです。


そして、Bさんが言ったことを1つずつ丁寧に整理し「◯◯ということですね」と確認します。人は、自分の話した内容がそのまま、相手に伝わってると思い込みがち。余裕がなければない程、その思い込みはさらに強くなります。


でも、保健師も人間。相手の話を相手の思う通りに受け取れてないことも。
なので、保健師が受け取った内容が合ってるかどうか、その確認作業は、対人の中でとても大切なんです。


その確認が終わったら、
「ママ、あなたは今とっても頑張ってる。でも、1人じゃ頑張れないし、このままじゃママが倒れちゃう。だから、どんなサポートが必要か、一緒に考えさせてください。今日はたくさんお話して疲れたと思うから、またすぐ電話しますね。」

と声かけして、訪問を終わりにしました。


もちろん、私の頭の中に、いくつかサポート方法は浮かんでました。
それを提案することもできたでしょう。


でも、それを敢えてしなかった。


解決すべきことが明確な場合や、とにかく解決策を望んでる人へは、その場で提案します。


でも、Bさんの場合、どうでしょう?
あまりにも解決すべきことが多すぎる…
話すことで精一杯だった。

この場合は、状況整理と解決すべき事項の優先順位をつけることが大切です。


私は事務所に戻り、すぐ他の保健師たちと情報共有、整理をしました。その上で、考えられるサポート方法を明確にしました。


そして2日後にママに電話をしました。
すると、

「あの日、たくさんお話して、少し気持ちが楽になったんです。誰にも話せてなかったことに気付きました。次の日夫と自分の母に、協力してほしいことを伝えたら、上の子を週2日実家で預かってもらえることになりました。」

と。

良かった。

Bさんには、状況整理と、それを解決する方法を考える力があったんです。


人は、誰かに話すことで、頭の中を整理することもできます。
でも、話さないで頭の中で1人でぐるぐるぐるぐる同じことばかり考えていると、前へ進めないし、抑うつ傾向になります。



Bさんには、頭を整理して状況整理する能力があるだろう、と見込んだから、訪問であえて解決策を提示しなかった。


その能力を会話の中で見極めたり、引き出したりするのも保健師の仕事です。

困ってることに何でもかんでも手助けはせず、その人が持つ能力を見極め、できるだけ、その人の力で前へ進めるように支援するんです。


伝わるでしょうか、保健師ならではの視点。


その後Bさんには、公的に使えそうな保育サービス等、考えられた支援を提示しました。


もう皆さんお気付きでしょうが、Bさんには、
・Bさん自身の精神的負担
・それに伴う虐待のリスク

という問題点がありました。

すぐに解決はできませんが、こうやって、ママの能力を見極めつつ、支援し、リスク予防に努めます。



(もちろん、明らかな虐待が確認される場合は、緊急に子ども家庭支援センターや児童相談所と連携して動きます。)



以上、新生児訪問での支援事例でした。

今回は少しボリューミーでしたね😅

次回は、「両親学級」について書きたいと思います。


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