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ブドウ栽培での灌漑方法と特色


前回は灌漑のおおまかな背景と灌漑をする際の水分ストレスの指標についてみてきた。

今回はそのストレスを軽減するための灌漑の方法について見ていく。

灌漑の方法(冠水とスプリンクラー)

灌漑の方法は多岐にわたる。
原始的なのは「Border(区画)方式」、「Furrow(畝)方式」、「Flood方式」の3つだ。

前者の2つは畝やプロットの周りの溝を冠水し、それによってブドウに水分を与える方法になる。

しかしこの方法は水分の利用効率が20-60%とあまり高くない上に、斜面の畑では流水するのでうまく使えない(1-2%の斜度が限度)。

一方でFlood方式は冬に畑を灌水する方法で、こちらはかつてフィロキセラ対策で用いられたこともあるらしい(フィロキセラへの効果もあまりなく、ブドウの根の嫌気的な環境に問題があったことは言うまでもない)。

これらの方法が現状そこまでいい方法とは言えないため、その次点として利用されるようになったのがスプリンクラーによる灌漑だ。

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水分の利用効率は高くなり65-85%とされている。
このスプリンクラーにも樹冠の上から行う方法と、下側だけで行う方法の2通りある。

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特に樹冠の上部から散布するスプリンクラーは冬の芽の低温障害の防除の役割を果たす。

水を撒くことで体感温度は下がりそうな気がするが、これは芽の周りで散布された水分が凍結することによって、温度が下がりきらず凍死を防げるという考え方である。

これらの灌漑、特に原始的な3種は近年ではあまり使われていないように思う。
というのも水の利用効率が低いということはすなわち無駄なコストがかかるということであり、スプリンクラーの導入も決して安価ではないことが原因である。
さらに言うと灌漑が必要な地域では水源の確保でさえも重要になってくることもあるので、無駄な水分は使えないのだ。

そこで出てくるのが現在では主流となった点滴灌漑である。

灌漑の方法(点滴灌漑)

そこで現在主に用いられているのが「点滴灌漑」である。
点滴灌漑はブドウの樹のワイヤーと共にホースのようなものを張り、そこに通水することで灌漑するというものである。

また点滴灌漑の中にも次表層点滴灌漑や片側点滴灌漑という少し特殊な方法もある。

まず一般的な点滴灌漑はこれまでの技術に比べてタイミングの調整の容易さ水の利用効率などの点で優れている。スプリンクラーよりムラなく灌漑できるのも大きなポイントだろう。

また水分の利用効率は85-95%ほどと言われており、水の利用総量が抑えられるので、管理費用は安くなる。

また自動化も容易であり、場合によっては肥料を溶かした溶液を灌漑に用いることもできる

しかし、ワイン用ブドウは常に十分な水があればいいというものでもない。
よくワイン用ブドウは水はけがよく、やせた土地でよく育つと言われているが、それはつまり適度な水分ストレスがブドウの品質には重要になるということだ。

Regulated Deficit Irrigation (RDI)

その適度なストレスを再現しようという試みがRDI(Regulated Deficit Irrigation(人為的与水ストレス灌漑とでも訳すのだろうか)という形である。

これは敢えて着果時期から着色期まで水ストレスを軽度にかけることで、栄養成長を抑制するという考え方である。

このRDIを実践するにあたってこの点滴灌漑が用いられ、そしてそれが片側点滴灌漑へと発展した。

というのも一般的なRDIによる水ストレス自体はブドウの樹にダメージを与えかねないが、片側点滴灌漑を用いることでそれを防ぐことができるのである。

この説明には少しストレスについて知る必要がある。

水分ストレスは根から分泌されるアブシシン酸が気孔の開閉を調節することで感知され対処されている。

気孔コンダクタンス(水分状態の指標の1つ)自体はIsohydricとAnisohydricという気孔開閉タイプによっても大きく違うとされているので前回の指標としては取り上げなかった。

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簡単な図解は論文から拝借してきたが、もし興味のある方がいたら論文もいくらか出ているので見てみてほしい。

これがいわゆる耐乾性品種かどうかということの一因にもなっている。

それはそうとそのアブシシン酸の分泌は根によって水分が少ないと感知されたら行われるものなので、根の一部で水分が枯渇していても一定量は分泌されるということになる。

その反応を片側点滴灌漑では人為的に起こしているのである。

ここでは樹の両側にチューブを通して灌漑することを想定して、片側点滴灌漑と訳しているが英語では実はPartial Rootzone Drying(PRD)である。

つまり根の一部を乾燥下に置くことで水分ストレスのいいところを取りつつ、樹体にはダメージを与えないというものである。

これだけだとかなり有力な手法であるように思え、PRDの技術は確かにフェノール含量、アントシアニン、酸などの濃度を上昇させるというデータも出ているが、ブドウの樹の各列に2本のチューブが必要になる手間とコストの関係もあり、実際の現場ではあまり使うことはないとドイツの教授は言っていた。

次表層点滴灌漑

もう1つの発展形は次表層点滴灌漑である。

こちらのコンセプトはRDIとは少し違う。

まず次表層というのは土壌の層のことで、チューブを土壌中に埋めてしまうというのが大きな特徴になる。

そしてこの方法の利点は蒸発による水分の離散が少ないこと、そしてなにより根の表層分布を減らすことができる点にある。

まず一般的な点滴灌漑は地表層の上数十cmのところから水を落とすのだが、これでは土壌からの蒸発量も多くなってしまう。

そのため次表層に埋め込むことでより水分の利用効率を上げることができる。

また地表面からの点滴の場合、多くの水が土壌の浅いところで根に吸収され、根が深く入ることがなくても水が足りるという環境下に置かれるので根の伸長がおろそかになる。

そのため雨などで土壌深くに浸み込んだ水分が利用できなくなり、むしろ自然環境下の乾燥には弱くなってしまう。

それを次表層からの灌漑にすることによって、根の伸長を表層だけでなく下層へと促すことができる。

最後に大まかな区分ではあるが、これらの灌漑方法の主な特徴をまとめたものを授業資料から拝借して添付しておくので、まとめとして見て頂けたらと思う。

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