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保健師がホームステイのホストファミリーになって、日本で暮らす外国人の健康を考えてみた話

こんにちは。育休中の保健師のななと申します。

今回、ホストファミリーという貴重な体験を通して、日本で暮らす外国人の健康を考えるきっかけになったので、書き綴ろうと思います。


なぜホストファミリー?

保健師として外国人に関わる中で生まれた問い

ホストファミリーとは、ホームステイの受け入れ家庭のこと。

市の国際交流協会が、市内の日本語学校に通う外国人留学生を対象とした1泊2日でのホームステイを企画しており、ホストファミリーのボランティアを募集していたため、応募しました。

なぜ今回ホストファミリーに応募したかというと、外国人が日本での生活で「なぜ免疫が落ちるのか」を知りたかったから。

これは、私が保健師として長年外国人の患者さんを支援していて生まれた問いでした。

日本で暮らす外国人は免疫が落ちる?

私は、保健師として結核患者さんの支援に携わってきました。

近年、日本での結核患者数は減少してきていますが、今でも年間約1万人の患者さんが発生しています。

そのうち、約1割がアジアを中心とした外国生まれの患者さんで、年々その割合は増加傾向にあると言われています。

日本全体の結核患者の年齢階級は、70歳以上が約6割と高齢者中心なのに対して、外国生まれの患者さんに関しては10〜30歳代が半数近くと若年者が中心なのが特徴です。

結核という病気は、結核菌に感染していたとしても、実際に発病するのは約1〜2割の人のみと言われてるんですが、免疫が弱ると発病しやすいと言われています。

高齢者が老化によって免疫が低下するのはわかる。

ただ、本来遊び盛り働き盛りのはずの10〜30歳代が免疫が下がるのって、どういう生活をしてるんだろう…。

この長年の疑問を、ホームステイで一緒に生活してみながらインタビューすることで、彼らのことを少しでも知りたいと思ったのです。

留学生サイくん(仮名)の我が家でのホームステイ

サイくんは真面目なバングラディシュ人

うちにやってきてくれたのは、バングラディシュから来た20代後半の男性、サイくん(仮名)。

サイくんは、大学卒業後にバングラディシュで日系企業に1年勤務した後、今年の4月に日本にやってきました。

来日してたった半年とは思えぬほど、日本語が上手なサイくん。
日本語以外にも英語やヒンディー語もできて、アラビア語も読めるという、めちゃ優秀なサイくんは、私たちとは普通に会話でき、サイくんからも積極的にいろんな話をしてくれました。

とても謙虚で礼儀正しく、笑顔が素敵なサイくんは、うちの1歳の息子ともたくさん遊んでくれました。

サイくんのハードな日々の生活

サイくんは、今は日本語学校に行きながら、アルバイトをして過ごしているそうなんですが、日々のスケジュールを聞くと、とてもハード。

朝9時から12時30分まで日本語学校で勉強した後、昼食を食べてアルバイトに備えて14時から睡眠。
19時ごろに起きて、20時から翌5時まで配送業の仕分けのバイト。
帰ってきて仮眠をとって、また朝9時から日本語学校。

土日は休みでアルバイトは週4日合計28時間以内といえど、睡眠時間が5時間の日もあったりとなかなかハード…!

加えて、住まいは3部屋を6人で分けているシェアハウスに住んでおり、みんなアルバイトの時間や学校の時間もバラバラ。
なかなか休まらなさそうです。

それもあってか、ホームステイ時に彼専用の個室を用意したら、サイくんは22時に就寝して、翌日正午に起床しました。
やはり寝不足だったのかな…。
とりあえず、うちでいっぱい寝てもらってよかったです。

さらに、サイくんが困っているのは食事。

サイくんは、バングラディシュでも一人暮らしはしていたんですが、バングラディシュでは外食が安かったので(1食200円くらいらしい)、料理経験がほぼない中で来日。

日本では外食が高いので、彼は自炊を頑張ろうとしているものの、日本の食べ物はまだよくわからないとのこと。

肉とお米は、シェアハウスの仲間と一緒にまとめてハラルショップで買うそうなんですが、日本の野菜がよくわからないそう。

結果的に、肉中心の料理やカップラーメン、コンビニおにぎりが彼の食事の中心だそうです。

慣れない日本文化での不規則な生活、慢性的な睡眠不足、栄養が偏る食事…。

こりゃ、免疫落ちるわ。

彼は幸いにも、まだ日本に来て病院にかかるような体調不良はないのですが、ルームメイトは最近インフルエンザで15日間入院したとのこと。

こんな話を聞いて、「あぁ…なんとかしたい…」と私の中の「保健師」に着火したのでした。

サイくんに野菜を食べてほしい

今の彼の部分で、なんとかできそうな部分は食事だと思いました。

野菜不足によるビタミンやミネラルの不足での免疫力低下が懸念されるので、なんとか野菜を手軽にとってもらいたい。

ということで、手っ取り早く作れていろんな栄養が取れる、日本の冬の定番「鍋」の作り方を教えることにしました。

彼が自宅に戻ってからも、彼自身で再現してくれることが最大の目的です。

そこで、うちの近くのスーパーではなく、サイくんの普段使っているスーパーへ行って、買い出しから一緒にすることにしました。

本当は、白菜もにんじんもお肉も、すでにうちの冷蔵庫の中にはあったけれど、サイくんに野菜や鍋つゆの選び方を覚えてもらえたらと思い、一から買うことにしたのです。

野菜を一緒に選ぶ中で、サイくんが「これなんて読みますか?」と聞いてくれたものは「白菜」。
「はくさいと読むよ。英語でチャイニーズキャベジだよ」と伝え、「ほう、キャベツの仲間か」と納得した顔をしていました。

ぶなしめじも初めて見るもののようで、何度も「ぶなしめじ」と読む練習をしていました。

また、サイくんは、今までスーパーで鍋つゆ自体は見たことがあったものの、それが何の料理に使うのかがわからなかったとのこと。

今の時期にずらーっと並ぶ鍋つゆのもとの味の種類を一通り説明しました。

サイくんの出身バングラディシュはイスラム教徒が多いみたいですが、彼自身は無宗教なのだそう。
ただ、幼い頃から豚肉を食べたことがなく、豚肉は食べられないと言っていたため、一応ポークエキスが入っているものはこれとこれだよ〜と伝えました。

彼はポークエキスは特に気にしないようでしたが、とりあえず1番オーソドックスな寄せ鍋を作ってみることに。

材料を買って、うちに帰って、彼に材料を切るところからやってもらうことにしました。

不慣れな様子ではあったものの、野菜やお肉を切るのは難なくクリア。

勉強熱心なサイくんは、にんじんのいちょう切りを「これはなんていう切り方ですか?」と聞いてくれました。
…いちょうの説明って難しいね。

そして出来上がったものを一緒に食べて、「美味しい!」と言ってくれたサイくん。

〆の作り方もお伝えし、お土産に、「プチっと鍋」をプレゼント。

お別れした後も、LINEで改めて材料の名前を聞いてくれたサイくん。

よしよし、家でも作ってくれそうだ。

これで、彼がシェアハウスで鍋を作って食べる
→それを見たルームメイトが「お!それうまそうじゃん!何それ?」と興味を持つ
→彼がルームメイトに鍋の作り方を伝える
→彼の周りの留学生たちが野菜をたくさん食べる
→外国人留学生が冬を元気に乗り越えてくれる。

この健康ループが生まれることを期待します。

日本で暮らす外国人が健康に過ごすために

サイくんのように、不規則な生活、慢性的な睡眠不足、栄養バランスの乱れた食事をしている若者は日本人にも多くいると思われます。

ただ、サイくんのような来日して間もない外国人の場合、「もっと健康に気をつけなきゃ」と思っても、言語の壁や文化の違いによってリーチできる情報やリソースが少ないのではないかと思うのです。

食事に関しては、
野菜や調味料の名前が読めない。
初めての物の場合、それを食べてみようと思うまでの心理的・経済的ハードル。
それを使ったレシピの情報は日本語。

加えて、人によっては宗教による食べられないものもあります。

イスラム教が豚肉を食べられないのは有名な話ですが、ラードやゼラチンなども豚が入っているので、そういったものが入った加工品やお菓子もNGです。
また、イスラム教はアルコールもダメで、料理酒やみりんが入った料理もNGなのです。

ホームステイ前に、運営側から送られてきた上記のような宗教上の注意書を読んで、私は「食事何を用意すればいいんだ…!!!!!」と頭を抱えました。

もちろん、人によってどこまで守っているかは様々だそうですが、日本人の私が頭を抱えたように、頭を抱える外国人も多いのではないかと思うのです。

ハラルショップ(イスラム法で食べても良いとされている食品を扱っている専門店)や外国人コミュニティなど、彼らの生活を支える物もあるものの、食事に関してだけでも、日本で健康的な生活を送るまでに超えなければいけない壁がいくつもあります。

保健師として、外国人と関わる時には、私たち日本人が普段当たり前のように触れている情報やリソースに届いていないかもしれないことを念頭に置いて、丁寧に確認や説明する必要があるなと感じました。

そして、外国人が多く住む地域では、外国人に特化した予防的支援が広がっていく必要性を感じています。

病気になってからの支援だけでなく、病気にならないよう、外国人特有の課題に合わせて健康教室やイベントを開催することで、地域全体の健康が促進されると思うのです。
この時、なるべく地域住民を巻き込む形で開催できれば、多文化共生社会にも近づいていくのではないでしょうか。

たった1泊2日ではありますが、いろいろと日本で暮らす外国人の健康を考えるきっかけをくれたホストファミリー体験。

今後もこの町で国際交流を続けながら、私なりに彼らの健康について向き合っていきたいなと思いました。


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