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悲劇のばぁば

「せりちゃん。ばぁばね、ウンチがしたくなってきたから、
トイレに行ってくるね。ここで待っててね。」
「やだぁ。せりちゃんも、行くー!」


長年、私を悩ませ続ける便秘。
5日ぶりに便意を覚えたというのに、孫はトイレに付いてくるという。
こんな時に限って、ママは仕事だ。いや、むしろママが仕事で、
孫と体を動かして遊んでいるからこそ、便意を催したのかもしれない。


「せりちゃん、ばぁばすぐに戻ってくるから、待っててよ。」
「やだぁ。」


仕方ない。
孫と一緒にトイレに来た。


「せりちゃんは、ここで待っててね。これ以上はスリッパが無いから、
中に入ったらダメだよ。」


ドアを開けたまま、便座に座る。
便座に座った私の目の高さは、ちょうど孫の目の高さと同じである。
近い。近すぎる。


うーん。
頑張ってみた。
5日ぶりの再会だもの。そう容易くは無い。
もっと頑張らねば。


「がんばれ〜!がんばれ〜!」


孫がいきなり、私の応援を始めた。
待ってくれ。言われなくても頑張っている。
目の前で真剣に応援されたら、笑ってしまって、
頑張るものも頑張れないではないか。


「ばぁば、出た?」
「まだ出ない。」
「うーん!うーん!!」


今度は一緒にいきみ始めた。
いやいや、気持ちだけで充分です。
応援する気持ちがあるなら、黙っててもらえないでしょうか?


「ばぁば、出た?」
「出ないよ。」
「えーん。ばぁば、出ないね。お腹痛い?」


私が可哀相になったのか、今度は泣き出してしまった。
泣きたいのはむしろ私の方だ。


「せりちゃん。ばぁばね、お腹痛くないから大丈夫だよ。
それより距離が近すぎて笑ってしまうから、もうちょっと後ろに
下がってくれるかな?」
「うわぁーん!やだぁー!」


本格的に泣いてしまった。下がれと言っただけで、そんなに泣くか?
仕方ない。そのままの位置で応援してもらうしかない。


「わかった。じゃあ、そこにいていいよ。」
「ばぁば、がんばれ〜!うーん!うーん!」


うーん!うーん!
頑張れ、私!
気にするな、私!
私は今、何も聞こえてこないし、何も見えないのだ!


「ばぁば、うんちー!」
「え?!」


一緒にいきんだ孫が、便意を催してしまった。


「わぁ!ちょっと待って!ばぁば、もう終わったから、
せりちゃんウンチしよっ!」


こうして私が得るはずだった達成感は、
一瞬のうちに孫に奪われてしまった。
あぁ、次の再会はいつになってしまうのか。


この悲しい物語のばぁばが、愛するだんな様のお母様だなんて、
口が裂けても言えない。


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