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Black Treasure Box

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Black Treasure Box 12

Black Treasure Box 12

前回

西方さんを説得してくれるとは言ったものの、東城さんもこの2日間、彼女とは会えていないという。
通話にも応じてもらえない。
彼女がそうなのだから、他の級友たちからの連絡もすべて拒んでいることだろう。
かろうじて、SNSのダイレクトメッセージでだけ、やりとりが出来ているらしいのだが、しばらくスマホを操っていた東城さんはしかし申し訳なさそうに首を振った。

「やっぱり、会いたくないって?」
「え

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Black Treasure Box11

Black Treasure Box11

前回 Black Treasure Box11
https://note.com/naofujisawa/n/n63bcb0e3f9f0

まとめ Black Treasure Box
https://note.com/naofujisawa/m/m1589ee8c3d02

命令を遂行し終えて我にかえると、例によって羞恥心と罪悪感、屈辱感が襲ってきた。
すぐにでも東城さんの前から逃げ出してしまい

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Black Treasure Box 10

Black Treasure Box 10

教師からいきなりそんなことを言われたら当然だろう。
東城さんはまず何を言われたのか分からないという顔をし、これが何かの冗談で隠れて見ている人たちがいるのではないかと疑うように、きょろきょろと周囲を見回した。
その間にも着衣に手をかけ、ためらう様子さえなしに一枚一枚脱ぎ捨てていく私を見て、そんなものではないと分かったはずだった。

「……分かりました」
「え?」
自分で言っておいて、そしてすでにほと

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Black Treasure Box 9

Black Treasure Box 9

それからまたアプリは沈黙した。
私の生活に配慮してくれている訳でもあるまいに、平日には何の命令も送って寄越さないのだった。
授業中、教え子たちの前でとんでもないことをしなくてはならないことを思えば、ありがたいのはありがたいが、それでもやはり不気味だ。
まるでスマホに私の生活を監視されているようではないか。

正直、休暇をとってしまおうかと考えないでもなかったが、時間的に自由になることで、かえって矢

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Black Treasure Box 8

Black Treasure Box 8

幸いだったのは、最後まで車も少なかったことだった。
私たちをはっきりと見咎めたのは、私がイカされる間際、犬を連れて家から出てきた初老の男性ひとり。
「あ、あんたら……」
呆れているのか呆然としているのか立ち尽くしている彼の横、ペットの飼い犬の方が私たちに興味津々の様子でリードを引っ張っていた。

「す、すいません! これはですね、あの」
言い訳にもならない言い訳を口走りながら、樹奈はすっかりへたり

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Black Treasure Box 7

Black Treasure Box 7

当たり前と言えば当たり前だろう。
樹奈は細身のジーンズに手をかけはしたものの、そわそわとあたりを見回してばかりいた。
気持ちは分かるがここでもたもたしていては、かえって人に見つかる危険が増す。
私は彼女の前にひざまずき、その手をはらいのけるようにして、ジーンズを引き下ろした。
私と会うのに気合いの入った下着も必要なかったのだろう、履き心地だけで選んだような地味なショーツがあらわになった。
その中へ

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Black Treasure Box 6

Black Treasure Box 6

「満足したかい?」
帰りの車中、そう聞く樹奈の声に多少のトゲが混じっていたのは、気のせいではなかっただろう。
「やめてよ、そんな言い方」
私もあの不可解な状態から脱して正気に戻っていた。
今日一日の自分の行動をあらためてふりかえってみれば、涙も出ないほどの恥ずかしさに苛まれる。
一体なんということを私はやってしまったのか。
どうせ逆らうことは出来ないという自暴自棄だったか、みんな忘れられてしまうの

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Black Treasure Box 5

「大丈夫なのか、あれ」
私たちの後方、4、5メートルほどの距離をおいてついてくる野次馬たちをふりかえって、樹奈が聞いた。
「大丈夫でしょう。私の邪魔は誰にもできないはず」
「そういう問題でもないんだけどな」
呆れたようなため息をついて、樹奈は頭をかくが、私にとってはそれこそが大問題なのだった。
この野外露出行を誰にも阻害されずにやりとげること。

野次馬たちをふりかえり、軽く黙礼する。
露骨ににや

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Black Treasure Box4

「フィラデルフィア」から最寄りのS駅へ向かい、そのホームで2度目の奇行を演じた。
鉄道警備員に事務所に連行されてもおかしくなかったはずだが、誰も彼も私を遠巻きにしながら呆れ、嘲笑するばかりで、私の行動そのものを妨げようとする動きは何もなかった。
それもこのふざけたアプリの仕業なのかどうか。
ともかく、私はやってきた電車に乗り込み、次の目的地であるT駅へ向かうことができた。

T駅の駅ビルでは、イベ

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Black Treasure Box3

すぐさま部屋を飛び出そうとして、一度思い止まった。
命令の内容を拒絶しようとしたのではない。
下着姿よりいくらかマシ、年来の親友で樹奈とのふたりでの自宅飲みだから許されたという砕けすぎた格好が、さすがにブレーキをかけたのだ。

寝室へとってかえし、クローゼットの奥から数年身につけていない真っ赤なジャケットや、デニムのホットパンツを引っ張り出した。
関西の方へお気に入りのバンドのコンサートに行った時

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Black Treasure Box 2

樹奈にしても私を押し留めようがなかった。
自分でも何とかして制止して欲しいと懇願していたくせに、心の奥底からの衝動に突き動かされた私には、言葉での説得など通じない。
理屈にならないことをまくしたて、私がこんなことになったのは樹奈のせいではないかと罵倒さえした。
一刻も早くT駅へ向かいたかった。
恥ずかしい格好を人々にさらすためにだ。
そのために年来の親友に暴力的な手段も辞さないつもりだった。

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Black Treasure Box

【裸になってT駅前から大通りを歩け。走ってはいけない。信号を10渡ったらまた駅まで引き返すこと】

それが3つ目の指示だった。
「こ、これは」
私の背後からスマホの画面をのぞきこみながら、樹奈《みきな》が言う。
「だ、大丈夫なのか、七織《ななお》、こんな」
大丈夫なはずがない、できる訳がない、と理性は悲鳴をあげる。
しかしそれもすぐ、やらなければならない、という何ともいえない強迫観念にとって変わら

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