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展覧会レポ:森美術館「森美術館開館20周年記念展 ワールド・クラスルーム:現代アートの国語・算数・理科・社会 みんなで学ぼう、アートと世界」

【約3,500文字、写真約30枚】
私は森美術館に行くのは約2年半ぶりで期待していました。結論から言うと、森美術館らしい現代アートのコレクションは楽しかった一方で、(私が勝手に期待しすぎていた分、)全体的に若干インパクトが足りない印象でした。おすすめ度は★3です。
また、子供が大きな声で楽しく鑑賞していて、それを暖かく見守る森美術館の対応は素晴らしいと思いました。

森美術館の入り口。入り口のエスカレーターがいつもワクワクします

私が森美術館へ行くのは、約2年半ぶり(2020年11月のSTARS展以来)だったので楽しみでした。私の中で森美術館といえば新しい物の見方が発見できる「the 現代アート」を展示しているため、私の好きな美術館の一つです。

もともとコロナがなければ、STARS展でインバウンド含めて大々的に集客したかったはずですが、それが叶いませんでした。今回はコロナ規制が解除され、満を持して森美術館の20周年記念展です。半分以上は森美術館所蔵の作品で、今まで実際に見たことがある作品も多く、懐かしさも感じました。

2020年11月に行った時のSTARS展

久しぶりに行くと、券売所が自動販売機になっていたり、展覧会の入り口はQRコード入場になっていたりと、若干の省人化が図られていました。

また、紙の作品リストは、SDGsの観点からカウンターには置かれておらず、係員の方に言って(渋い顔をされて)出していただきました。
昨今、作品リストの扱い方が分かれているように思います。隠しておいて聞かれたら出すパターン(森美術館)と、作品の理解促進のためにクオリティの高いカラー刷りの作品リストを準備しているパターン(アーティゾン美術館のコレクション展世田谷美術館の藤原新也展)があります。作品リスト1つとっても、美術館の考え方が透けて見えて興味深いです。

「森美術館開館20周年記念展 ワールド・クラスルーム:現代アートの国語・算数・理科・社会 みんなで学ぼう、アートと世界」

サインの見せ方一つとっても、さすが私立美術館はお金があると思いました

「国語・算数・理科・社会」と展覧会名にあります。要は、森美術館のコレクション展+αで、それを「国語・算数…」の側面でキュレーションされています。学芸員の方が一生懸命頭を捻ったんだなぁと思いました。
ただ漫然と展示されるのではなく、いかにストーリーをもって展覧会を構成するのは、それぞれの美術館の腕の見せ所ですね。

キュレーションのコンセプトは面白かったですが、全体的な感想として、STARS展のような個々の作品にインパクトが欠け、最後は「あれ、もう終わり?」という感想でした(私が久しぶりに森美術館へ行ったため、期待しすぎただけだと思います)。各論は良いが、総論では何か物足りないという印象でした。森美術館の大きなホワイトボックスを生かした、有名現代アーティスの巨大作品をわかりやすくデーン!と置くなど、コレ!という目玉展示物があるとなお良かったかと思います。

また、映像作品が比較的多く、それぞれの再生時間も長いため子供は退屈しそうです。映像作品の数はもう少し減らした方がいいと思いました。
加えて、ミュージアムショップの先の展示は、尻切れトンボ感が強くでパッとしません。スペースを生かしきる工夫が必要ではないでしょうか。

作品以外で記憶に残ったのは監視員の対応でした。外国人の5歳くらいの子供が楽しそうに大きな声で鑑賞を楽しんでいました。しかし、監視員は一切注意しませんでした。私はそれが森美術館らしく素晴らしいと思いました。

以下、私が気になった作品です(ほぼ展示順)。

米田知子「フロイトの眼鏡ーユングのテキストを見るⅡ」「ジョイスの眼鏡ーシルヴィア・ビーチの手紙を見る」
イー・イラン「ダンシング・クイーン」。ロンハーマンにありそうなラグマットですが、ラグマットを織るアジア女性にもグローバルなポップソングが浸透しているという背景が込められています
森村泰昌「肖像(双子)」「モデルヌ・オランピア2018」。練馬区立美術館でも見た作品(その時は撮影禁止でした
アイ・ウェイウェイ「漢時代の壺を落とす」。彼らしい破壊的・アグレッシブな作品で私の好み
アイ・ウェイウェイ「コカ・コーラの壺」。漢時代の貴重な壺に、大量消費を象徴するチープなコーラのロゴをつける挑戦的な作品
ヴァンディー・ラッタナ「爆弾の池」。ただの沼に見えるが、ベトナム戦争で米軍が爆弾を落とした穴。写真を見ただけではよくわからないが、そのセンセーショナルな背景にハッとさせられます
シルバ・グプタ「運命と密約の約束ー1947年8月14日、ジャワハルラール・ネルー(1889年ー1964年)による憲法議会演説」。現代アート的な見た目の作品
ハラーイル・サルキシアン「処刑広場」。ヴァンディー・ラッタナ同様、見た目は普通の場所、実は処刑広場。キャプションを最初に見ない方がいい作品の好事例
パーク・マッカーサー「無題」「約束の標識」。デュシャン、ジャッド、ロコスを彷彿をさせる作品。展覧会のアクセントに良い
イー・イラン「TIKAR/MEJA」。マレーシアで植民地になる前はテーブルが存在しなかった。織物は民主的、テーブルは搾取システムを表現しており、背景に奥行きがある
宮島達男「Innumerable Life/Buddha CCIƆƆ-01」。私がこの展示会で一番好きな作品。是非、実物を見ていただきたいです
ただのデジタルカウンターだが、「生死の循環」「現代の曼荼羅」と感じました。日本人的な感性・面白さをうまく表現できている。実はどのカウンターを見てもゼロは存在しません
李禹煥「対話」「関係項」。国立新美術館の李禹煥展にいかなかったことをずっと後悔
奈良美智「miss moonlight」。数年前、奈良さんが森美術館のために制作した作品
杉本博司「数理模型022 回転楕円面を覆う一般化されたヘリコイド局面」。海の写真や、江之浦測候所のような和風なイメージとは違ったソリッドな作品。彼の振れ幅はすごい
宮永愛子「Root of Steps」。六本木周辺で生活する人の靴をナフタレンで作成した作品。現在、彼女の他の作品は銀座メゾンエルメス フォーラムでも見られる
ロデル・タパヤ「早起きは三文の徳」。アンリ・ルソーの「夢」みたいな印象
ヤン・ヘギュ「ソニック・ハイブリッド」ほか。たまに監視員の方が鈴をシャンシャン鳴らしてくれます

なお、すべてのキャプションの文字が小さく、長いことが気になりました。最初は読んでいても、途中で諦めてしまいました。(極端な例ですが、)ハウステンボス美術館のように、読み手を考えた端的でわかりやすいキャプションを心がけていただけると、助かる人も多いと思います。

キャプションを視界に入れただけで読む気を失います
ハウステンボス美術館のキャプション。それぞれの作品に1行のサマリーが付けれており、本文も端的で読みやすい
数字で見る森美術館の20年。企業レポートのような面白い取り組み。卑近ですが、作品購入に使った総額や1作品あたり平均金額もあると面白い
実際は「国語・社会・哲学・算数・理科・音楽・体育・総合」のセクションに分かれています
買ったポストカード。ヴァンディー・ラッタナ「爆弾の池」。地味だけど好きな作品

「へザウィック・スタジオ展:共感する建築」

同時開催だった「ヘザウィック・スタジオ展」にも行きました。へザウィック・スタジオというのはデザイン集団の名前です(佐藤可士和さんが率いるSAMURAIみたいなものですかね)。彼らのデザインする建物は、アメコミ映画に出てきそうなデザインが多いなぁと思いました。美大の環境デザイン学科の人が喜びそうな展覧会です。

建築中の麻布台ヒルズ。デベロッパーが森ビルのようです
「スパン」という椅子。実際に座れます(くるくる回って楽しい
東京タワーは絵になります

まとめ

いかがだったでしょうか?森美術館らしい知的好奇心を満たしてくれる現代アートのコレクションが楽しかった一方で、森美術館の20周年を飾るコレクション展にしては、若干インパクトが欠けるかな、と感じました。私の期待が高すぎただけで、多くの人にとっては満足いく展覧会だと思います。

今日の美術館飯

エッグセレント ()東京都/六本木駅) - BAKED CURRY BREAD SALAD+DRINK SET (¥990)
楽観 NISHIAZABU GOLD (東京都/六本木駅) - 西麻布琥珀醤油 (¥1,200)

補足

展覧会名:森美術館開館20周年記念展 ワールド・クラスルーム:現代アートの国語・算数・理科・社会 みんなで学ぼう、アートと世界
場所:森美術館
おすすめ度:★★★☆☆
会話できる度:★★★★★
ベビーカー:問題なし
会期:2023.4.19(水)~ 9.24(日)
住所:〒106-6150 東京都港区六本木6丁目10−1 六本木ヒルズ森タワー 53階
アクセス:六本木駅から徒歩約10分
入場料(一般):2,000円(金券ショップで900円で購入)
事前予約:不要
展覧所要時間:約1.5時間(ヘザウィック・スタジオ展は約30分)
混み具合:ストレスなし
展覧撮影:8割くらい撮影可能
URL:https://www.mori.art.museum/jp/exhibitions/classroom/

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