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#7 カフカ短編『判決』

「お父さん、お母さん、ぼくはいつもあなた方を愛していました」

本文より

結末があまりに衝動的で衝撃的だった。


『判決』は、春の盛り、日曜日の午前中の場面で始まる。ゲオルクは、異国に住む友人に手紙を書き、窓辺から河や春の緑を眺めている。
そんな様子で、のどかな感じで始まるのだけれど…。

手紙の相手である友人は、異国で一旗揚げよう的な面持ちで故郷から出て言ったものの、一旗どころかそれは失敗だったと言えそうな現状だ。

あきらかに生き方を誤った人間であって、同情はできても手助けはできない。

本文より

最近、似たような話を現実でも聞いたばかりだ。
現実に存在する彼(A氏とする)は、とても頭がいい人。というか頭がよすぎたせいか、おかしくなった人だ。とある中高一貫難関校に通っていたA氏、中学時代はゲームを夢中でやるような普通の少年であったが、高校時代からにわかにおかしくなってきて、学校の勉強では物足りず、家で猛勉強するために突然高校中退、大検を受けて軽く合格、某有名大学に入ったが、突然アメリカ某難関大学を受験すると言い大学を中退した。A氏はもういい年であるが、優秀だった頃の少年の年齢で止まってしまっているようで社会適応ができていないようだ。おまけに純粋すぎるがゆえ少し危険な存在にも感じる。
まさに「同情はできても手助けはできない」状態…。

ただ、このストーリーでは、ゲオルクの友人が本当に存在していたのかが危うくなる。
はじめは、異国で失敗した友人よりゲオルクの方が、いかにも有利な立場である。しかもゲオルクにはお金持ちの婚約者もいるのだ。
一つ問題があるとすれば、父親。母親を亡くし元気がなくなった父親に対してゲオルクは一見、親切に対応しているように見えるが、親子関係の奇妙さが徐々に見えて来る。果てに、父親は息子に異常すぎる威圧的な態度で罵る。

父親との関係はカフカ作品のテーマだろうか。

ストーリー冒頭は、ゲオルクの幸福を感じさせるような始まりが予期されるが、それは徐々に崩され、友人も婚約者も、すべてが彼の妄想なのでは…? なんて思わせられたりもする。友人を心配する優位な自分、お金持ちの素晴らしい婚約者を持つ自分。これらは所詮、彼の願望だったのかもしれない。

あるいは、絶対的な決定権を持つ父親によって、幸福な自分がすべて壊されてしまったと言っているようにも思える。
父親が息子を罵るセリフが激しい。

本来は無邪気な子供であったにせよ、しょせんは悪魔のような悪だったわけだ! ――だからこそ知るがいい、わしは今、おまえに死を命じる、溺れ死ね!

本部より

父親の判決は絶対的、逆らえないからこそのあの結末、と考えれば、ここの冒頭に書いたように衝動的では実はなく、そうならざるを得ない結末だったのかもしれない。

昨日の銀座
歩行者天国は訪日外国人の撮影スポットだった

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