【掌編】『マズ男、シマズゴロウ』
沼津市に住む、シマズゴロウ【42】は近所で評判のラーメン屋【志高屋】に来ていた。
運ばれてきたラーメンを見たシマズは、まず、スープからと一口啜った。
そして、思わず呟いた。
「マズい..」
まずしい家庭に育ったシマズは、美味しいものを食べたいという欲求が強かった。
志高屋は、1ヶ月前にオープンしたばかりの店である。
店内の造りと接客はまずまずで、良くも悪くもない感じだ。
だが、肝心のラーメンは、ナマズからダシを取ったというスープと麺がからまず、味がボンヤリしている。
それでも、店の壁には来店したらしい【さまーず】のサインが飾られており、女性客を中心に繫盛していた。
それは何故か?
若き大将がイケメンなのだ!
シマズは思った。
くそっ、面白くない..
いや、ダメだ、妬まず恨まずの精神だ..
イケメンにもそれなりの苦悩はあるだろう..
食べ物を残すのは気まずいが..
シマズは食べるのを止めて店を出た。
そして、新たに美食を求めて歩き回った。
散々歩き回り、疲れたシマズは公園のベンチに座り、靴を脱ぎ、土踏まずを押しながら考えた。
..いや、食べられるだけで幸せではないか..
仕事が無い時は、一日、飲まず食わずで過ごした事もあったではないか..
何でも拒まず、食べなければ..
そのシマズの耳に、隣のベンチに座っているカップルの会話が聞こえてきた。
「凄いよね!遂に有人宇宙船が火星に到着だって!」
シマズは考えた。
宇宙食って、どんな味なんだろうか?
まずそうだよな..
味にこだわる俺なら美味しい宇宙食を作れる気がする..
シマズは頭の中で考えた。
そして【これだっ!】というメニューを思い付いた。
これなら火星、マーズにいる連中も喜んでくれるはずだ..
それにしても、火星か...
シマズは遠い宇宙に想いを馳せた。
どんな所なんだろうか..
生命体は存在するのだろうか?
突如、シマズの頭に、昔観た
【トレマーズ】
という映画に出てきた、地底をはい回る不気味な怪物の姿が浮かんできた。
あんなのがいるかも知れないな...
思わず恐怖を感じて身震いしたシマズは、心を落ち着けようと一定のリズムで呼吸をした。
ひっ、ひっ、ふー、ひっ、ひっ、ふー、ひっ、ひっ、ふー、ひっ、ひっ、ふー、ひっ、ひっ、ふー、ひっ、ひっ、ふー....
まるで、ラマーズ法の様に..
【おしまい】
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