【掌編】『この世界は..』
そのひとは、いきなり話を切り出した..
「この世界は、あなたの知らない所で....」
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その日、俺は大学時代の友人Kと偶然再会した。
約4年ぶりの事だ。
駅のホームを颯爽と歩いてきたKは、大学時代とはまるで別人の様だった。
いきなり声をかけられ、俺は戸惑いを覚えた。
Kに似てる..な..
反応しない俺に、Kは笑いながら言った。
「俺だよ、Kだよ」
「えっ、あっ、そうだよな...久しぶりだな」
何かが随分と変わった気がする。
容姿は前のままだが、目つきと醸し出す雰囲気が違うのだ。
社会に出て4年経ったとはいえ..
何というか...まるで...
俺は、釈然としないものを感じながらKに聞いた。
「K、変わったよな。何ていうか...」
「別人みたいって?久しぶりに会った奴は、皆、そう言うよ。ははっ」
話し方にも違和感を感じる。
Kは続けた。
「お前、今日、時間あるのか?」
俺は答えた。
「ああ。時間はあるけど金は無い」
俺の答えにKは笑って頷く。
「金はいらないよ」
そう言って、Kは俺の肩をポンと叩いた。
そして、ポケットからスマホを取出し、画面を指で叩きながら言った。
「是非、会って欲しい人がいるんだ」
「...ああ、いいよ」
駅の改札を出て、何処に向かうか具体的に告げないままKは歩き出した。
そして、スマホを見ながら俺に聞いた。
「お前、まだ書いてるのか?」
「いや、まあ、趣味程度にな」
Kは、俺の今の生活には特に興味が無い様だった。
大学を出ても、作家を目指してアルバイトを転々としてるなど、自信を持って話せる事では無かったから、こちらとしては有り難かった。
お互い探り合う様な沈黙が続く。
しばしの沈黙の後、Kは俺をじっと見て言った。
「お前、今のこの世界をどう思っている?」
「え?..」
ああ、そういう事か..なるほどな..
俺は質問に答えず、そのままKと共に10分程歩いた。
到着したそこは、大通りから少し入った場所にある8階建てのビルだった。
俺は、Kに促されるまま建物に入り、エレベーターに乗った。
Kが最上階のボタンを押した。
エレベーターが開くと、異世界が広がっていた。
最上階の広々としたその部屋は、薄暗い照明の中、高級そうなインテリアと、悪趣味に思えるオブジェが節操なく並んでいる。
小柄なそのひとは、部屋のソファーに膝を抱える様に座っていた。
隣の椅子には、強面な小太りの中年男性が、姿勢を正して座っている。
そのひとに歩み寄り深々と頭を下げるKにつられて、俺も頭を下げた。
「...どうも」
そのひとは俺の挨拶には無反応で、自分の長く綺麗な髪を触りながら、暫く俺の顔をじっと見ていた。
そして、いきなり話を切り出した。
「この世界は、あなたの知らない所で...」
そのひとの話は、俺には理解できない内容だった。
30分程だろうか..
立ったまま並んだ俺とKは、そのひとの話を聞かされた。
一通り話終えたそのひとは、無言になり、再び髪を触りだした。
Kはそのひとに深く一礼して、俺に部屋を出るよう促した。
先に出たKに続いて、俺も部屋を出て、無言のままエレベーターに乗り込んだ。
ビルの外に出ると、Kは握手を求めて俺に手を差し出してきた。
俺がその手を握り返す事は無かった。
「連絡するよ」
Kは冷めたトーンでそう言って、踵を返しビルへと入っていった。
翌日から毎日、俺のスマホにはKからの着信があった。
だが、俺は一度も電話に出ることは無かった。
電話は2週間以上続いた。
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Kからの電話は、突然途絶えた。
その日、俺はネットニュースで、都心のビルで爆発事故があった事を知った。
Kに連れていかれたビルのあの部屋だ。
何人かの負傷者が出たらしい。
俺の頭に、あの時の、そのひとの言葉が蘇る..
『この世界は、あなたの知らない所で、光と闇の闘いが続いています』
光と闇か..
K、お前はどっちにいるんだ?
俺は、浮かんできたKの姿を頭から振り払い、仕事に向かう為、部屋を後にした。
【了】
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