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信用している人

 人を信頼する、信用する。

 私にはどうやら、それほど難しいことはないらしい。

 あまり意識したことはなかったけれど、どうやら周りからはそう見られている。……いや、あの子はそう言っていたけれど、どこまで本当かはわからない。

 たしかに、そんな節はあるかもしれない。なんてことは、その言葉を聞いてから感じた。

 全部、自分でやればいい。
 もしくは、
 すべて、ひとりでやりきるつもりで動く。

 そんなことをたしかに思っている。

 ただ、実際にそれが可能か、と問われたら、無理、と私は答えるし、誰もがそのつもりで動いていく中で、そこをあなたがやってくれるから、私はここをやります、というのが正確だ。

 ひとつひとつを見れば個かもしれないが、全体の流れは決して個ではなく、それぞれの働きが生み出しているものだと思うし、だからこそ、多職種との連携やチームでケアをする必要があるのだとも思う。

 それぞれの専門からの立場では、視点も違えば視野も違う。重なり合うところもあれば、そうはならないところもある。それぞれの領域の中で、相互に関係するものは手を取り合うし、そうでないところはその専門領域の範疇なのだから、不必要に手を出すのはよくない。

 私は、そういう意味では、人を信頼しているし、信用もしている。

 同じことをすることが、必ずしも連携ではないのだから。同じことをしてしまえば、他のところが疎かになってしまうのだから。

 なんてことを話してもみたけれど、その子には ぴん とこなかったらしい。それでもいい。

「あかねは相変わらずねぇ」

 今は職の違う元同期からはそんな言葉をかけられる。

「そうかなぁ」

 渋い顔、と罵られながらも、表情を変えもしない。こやつはそんなやつだ。だから、信用している。

「ま、だから続けられているのかもね。私はもう無理だったから」

 サイドカーを飲み干すと、おかわりを頼む。相変わらず、酒が強い。

 人への信頼や信用、それは私だけではなく、相手にもかかることだと思う。私はこやつを信用しているし、今の職場の方でも信用している人もいる。

 なかなか、難しい……。

 私の話しを聞きながら、静かに認めてくれるそんな姿勢が、心地よく、甘えすぎてもよくないな、と感じながらも、ついつい誘ってしまう。

 夜はまだ長い。

 今度は、私がこやつの話しを聞く番だ。
 はてさて、どんなことになっているやら。

 シャンディガフをぐいっと飲み干すと、次は何を頼もうか、メニューを眺めた。

いつも、ありがとうございます。 何か少しでも、感じるものがありましたら幸いです。