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140字小説

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2019年4月の記事一覧

月が僕を、僕が月を

月が僕を、僕が月を

僕の世界が終わった日、僕は僕を見失った。
公園にも屋上にも桜の下にもいなかった。

時計だけがお喋りする部屋で僕は僕を探してた。
漏れる光を遮ろうとカーテンに手をかけたとき、窓から覗いたのは月だった。
誰を照らすでもない月が僕を照らしていた。

月が僕を見つけた日、世界はまだ続くのだと知った。

(見つけたのは、どちらだったんだろう)

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炭酸ソーダの雨様の土曜日の電

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水彩色の世界

水彩色の世界

綺麗なものを見ると涙が出る、という嘘を君はまだ信じているらしい。

君と見る景色はいつだってぼやけて淡い。

涙に慌てる顔も空も花も、本当は滲んでいてよくわからない。

でもこれが幸せの色なんだろうと気付いた日からずっと、世界は綺麗だ。

君にはどんな色が見えてるの、いつか聞くから考えておいて。

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土曜日の電球企画へ参加\(ˊᗜˋ*)/
週末のいい習慣になってきま

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ぼやける距離

ぼやける距離

近すぎると見えないから、と彼女は離れて行った。
一歩、三歩、十歩、ゆっくりと後ずさっては僕との距離を広げていく。
降り落ちる花びらが遮って視線はもう交わらない。

「本当は、」

生温い風が声と春を攫ってく。
ぼやけた輪郭から目を逸らして、真っ白な明日を見上げた。
春はもう見えなくなっていた。

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土曜日の電球様企画『霞む視界』。