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140字小説

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#恋愛

初恋の人

初恋の人

「あのさ」
「ん?」
「……なんだっけ」
「何それ」

いつだって楽しそうに笑う貴方にどうしても言えなかった事がある。

白いドレスに長いベール、バージンロードに降り注ぐ拍手の音。
真っ直ぐに貴方へと歩み寄りながら、心の中であの嘘を突き通すことを誓う。

本当の初恋は、いつも貴方の隣にいた彼でした。

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言葉の行方様企画『永遠の嘘』。

書きながらなんとなくSug

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暁に消える人

暁に消える人

「時間」
「ん……」
「何か食べる?」
「いいや、帰ったら飯あるだろうから」

服を着てさっさと玄関へ向かう背中を見送る。

「じゃあまた」

肩越しに告げられたのはいつも通り先の見えない約束だった。
カーテンの隙間から漏れる暁光が忌ま忌ましい。
朝が来ても貴方が隣にいるなら、美しいと思える筈なのに。

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言葉の行方様企画『暁』

かけがえのない夏を

かけがえのない夏を

「夏の思い出作りにどう?」

彼女が差し出したのはコンビニの花火セットだった。

「もう夏終わるけど」
「だからやるの。ほら」

蝋燭に灯した火が風に吹かれ、二人の影が大きく揺らめく。

「別に来年でも」
「だめ」

いいのに、と言い終わる前に彼女が遮った。

「今年の夏は、今年にしか来ないんだよ」

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『夏』をテーマにお題を組み込む、言葉の行方様企画(twitte

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夏のせいにして

夏のせいにして

「別れたいんだ」
「は? 何、暑さでおかしくなったの?」
「そうなら、よかったんだけど」

その一言で見えてしまった。
ここ数日の違和感もTシャツの甘い残り香も、目を逸らしていたものが全部線になって“彼女”を象る。
私とは違う、夏が良く似合う人。

「ごめん」

なんだ、やっぱり暑さのせいじゃないか。

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『夏』をテーマにお題を組み込む、言葉の行方様企画。
お題は「

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