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新春 感動の大学駅伝エピソードを紹介! 〜後藤くんを待ちながら

 もう日はとっくに暮れているのにまだ箱根駅伝は終わらなかった。智炎大学のアンカーの後藤くんがゴールしていないせいである。この有様に優勝校の隼人大学は監督をはじめとしてブチ切れ実行委員会の面々にそんな奴さっさと失格にしろ!」と怒鳴りつけたが、しかし委員長は「後藤くんが駅伝のためにした努力を無駄にさせることは絶対にあってはならない!」と監督を一喝して黙らせた。こうして一同はひたすら後藤くんを待ったが、いつまで経っても後藤くんは見えなかった。そのうちに観客は去り、他校の選手たちも去り、残ったのは後藤くんが所属する智炎大学のチームメイトと実行委員会の面々だけとなった。

 だがまだ後藤くんは姿を表さなかった。いくら後藤くんが駅伝に全てをかけていたとはいえ流石に遅すぎる。実行委員会の連中は智炎大学の監督に今後藤くんは本当に走っているのかと問いただした。その問いに監督はキッパリと走っていると断言した。

「私が何故アイツをチームに入れたかというとそれは必ず最後まで走ってくれるからです。正直に言えばうちの大学には後藤も含めたメンバーしかまともに走れるのはいないんです。五流以下のうちの大学ですが、大半の学生はまともに走ることができません。彼らは走るという言葉を聞いて何故か箸で女の子のスカートをめくってしまうぐらいスポーツを知らない連中なんです。だけど後藤は最後まで走れるんです。いくら歩きより遅くてもそれでも走っているんです。ほら、このiPadのマップを見てください。この青い点が後藤です。実は私タスキにこっそりGPSの発信機を取り付けていました。今青い点は何も反応していないかのように見える。だけどです。こうして指で地図を拡大するとですね、わずかながら後藤が動いているのか確認できるのです」

「確かにそうだ。青い点はあり得ないぐらいゆっくりだが、確実にゴールに向かって来ている」

「皆さん、俺は後藤の駅伝にたいする思いを無駄にしたくないんですよ。確かにアイツは一キロに半日かけるぐらい遅いです。この駅伝だってひょっとしたら一週間後までかかるかもしれない。だけど俺はアイツの駅伝に対する思いを叶えてやりたいんです。皆さんお願いです。アイツがゴールするまで俺たちと一緒に見守ってください」

 実行委員会の面々は監督の言葉に涙した。一週間掛かってもいい。とにかく後藤くんがゴールしたら彼の健闘を讃えてやろう。彼らはそう心に決めて智炎大学のメンバーと後藤くんのゴールを待った。

 一週間後、まだ後藤くんは影も形も見えない。GPSもわずかしか反応しない。だがそれでも彼らは後藤くんの到着を待ち続けた。

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