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えらいてんちょう(矢内東紀)『「NHKから国民を守る党」の研究』 : YouTubeばかり視てると〈バカ〉になる

書評:えらいてんちょう(矢内東紀)『「NHKから国民を守る党」の研究』(ベストセラーズ)

刊行から約2ヶ月の現時点で、本書の(※  Amazonカスタマー)レビューは、当レビューを含めて31本の多きに達している。普通の「政治関連書」ではありえない「大反響」だと言ってよいのだが、それは何故なのか。

本書のレビュー欄を見ると、その意味がわかりやすい。
本書のレビュー欄を概観してみると、最初に目につくのが、高評価と低評価のハッキリした二分である。つまり、「星5つ」の人も多ければ、「星1つ」の人も多い。しかも、それぞれに対して「参考になった」と評価した人の数が、とても多い。
これが意味するのは、すでにこのレビュー欄は「政治的抗争の場」と化している、という事実であり、レビュアーの多くは「中立者ではない」ということだ。

つまり、簡単に言えば、「星5つ」の人は、政党「NHKから国民を守る党」とその党首・立花孝志を批判する立場の人であり、「星1つ」の人は、この政党と党首に「投票しているような人」たちだ、ということである。
だから、読者は、私のこのレビューを含めて、そういう目で、これらのレビューを俯瞰して見ると面白いはずだ。

「星5つ」の人、つまり、政党「NHKから国民を守る党」(党首・立花孝志)を批判する立場の人たちの意見は、要は、この政党の自称「独裁」者である立花孝志は「ちょっと頭のおかしい危険人物」であり、その証拠は本書にも数々紹介されているとおりで、同党や立花を支持できないのは「常識に照らして、当たり前である」といったものだ。
一方、「星1つ」の人は、この政党と党首に「投票しているような人」が言っているのは、「本書の内容はデタラメである」「著者の、えらいてんちょう(矢内東紀)は嘘つきである」ということに尽きると思う。

つまり、著者の言うことが「事実」ならば、「政党「NHKから国民を守る党」および、党首・立花孝志」は「決して支持してはならない、政党であり人物である」ということになる。

したがって、どちらが「事実(本当のこと)」を言っているかを知りたければ、レビューなど当てにせずに、本書の冒頭10ページほどを読んでみるといい。
そこには「党首・立花孝志の、これまでの行状」が簡記されているから、それを読むだけで、著者のいうことが「事実か嘘か」は、読者の多くにも、容易に判断可能なはずだ。

そして幸いにも、本書の内容を「星2つ」のレビュアー「さくら」氏が書いているとおり『Amazonで予約して購入しましたが、発売して10日ほどして、全文無料公開されているの見て複雑な思いです。』ということなので、読者は、そちらの冒頭だけでも読めば、批判者と支持者のどちらが「まとも」かは、おのずとわかるはずである。

 ○ ○ ○

ちなみに、本書がすでに「全文無料公開」になっているという事実を、私はこのレビューを書こうとして初めて知ったのだが、だからといって、「さくら」氏のように「損をした」気にはならなかった。
というのも、私は古風な「活字人間」であり、ネットで長文を読む習慣がないからだし、本書に収められた「政党「NHKから国民を守る党」および、党首・立花孝志」についての「驚くべき事実」についての知識は、対価を支払うに値する貴重なものだと評価しているからでもある。(ちなみに、当レビュー程度は、長文とは言わない)

昔から読書家の間では「かけるのなら、自分の頭に金をかけよ」という言葉がある。これは「本を買う金をケチるな(衣食にばかり金をかけるな)」「安い本ばかり読んでいては、それなりの(安い)頭の持ち主にしかならない」という意味だ。
というのも、頭を使わなければならない本というのは、大衆ウケはせず、たくさんは売れないため、単価も高くなりがちだからで、だからこそ読書家は、書物に対し、必要な投資を惜しむべきではないのである。

そして、そうした観点から本書のレビュー欄がおもしろいのは、「星5つ」の人であれ「星1つ」の人の人であれ、それぞれのレビュー投稿履歴をチェックしてみると、いわゆる「読書家」と呼べる人が、ほとんどいない、という事実である。

これはたぶん、本書に興味をもった人の大半が、著者であるユーチューバー「えらいてんちょう」(矢内東紀)のファンか、逆に批判されている方のユーチューバー「政党「NHKから国民を守る党」党首・立花孝志」のファンだからであろう。
また、「いいね」を押しているのも、そういう日頃、ほとんど本は読まずに、YouTubeばかり見ている人たちなのではないだろうか。

もちろん、メディアとしてのYouTubeやユーチューバーが悪いと言う気はないし、事実としてそんなことは言えないだろう。また、YouTubeを視聴すること自体が、悪いということでもない。
かく言う私だって、めずらしくYouTubeを視て、「えらいてんちょう」というおもしろいユーチューバーの存在を知っていたからこそ、本書を買ったのである。

しかし、どんなものにも「ピンからキリまで」がある。
私がよく引用する言葉に、SF作家シオドア・スタージョンによる「スタージョンの法則」と呼ばれるものがあるのだが、それは次のようなものだ。

「SFの90パーセントはクズである。一一ただし、あらゆるものの90パーセントはクズである」

つまり、私がこの文章を引用する際にいつも意識しているのは「SFの90パーセントはクズである。──ただし、読書家の90パーセントはクズである」ということだ。本というのも、たくさん読んでおれば良いと言うものではないのだ。

しかし、である。
その本さえ読まないで「YouTubeばかり視ている人」というのは、どんなものだろうか。

本を読むのは、「賢いから読む」のではなく、「賢くなりたいと思うから読む」のである。
したがって、本を読まない人というのは、一般に「本を読まなくても、自分は賢い」と思っている「バカ」である蓋然性が、きわめて高い。
その「素質的バカ」が、本も読まないで、受動的に動画ばかり視ていては「思考能力がつかない(あるいは退化する)」というのも、ごく自然な「事実」なのではないだろうか。

 ○ ○ ○

ちなみに、私自身は「自己紹介」にも書いているとおりで、趣味で「キリスト教」を研究している人間である。「キリスト教信者」なのではなく、「宗教」批判者として、「宗教」の代表的サンプルとして、キリスト教を専門的に研究しているのだ。
そして、そんな私と、本書の著者・えらいてんちょう(矢内東紀)との接点は、もちろん「宗教」研究である。

えらいてんちょうの「宗教関連動画」は、宗教関連の専門書を読んでいる私にも、たいへん興味深いものであった。そして、特に高く評価していいのは、彼の「宗教」に対するスタンスの「公正さ」である。

世間一般に流布した「イメージ」や「思い込み」を鵜呑みにしたり、迎合・追認するのではなく、自分で直接取材して、それを紹介するという彼の「宗教関連動画」は、とても貴重であり参考になる研究資料と言えるものだ。
「宗教」というのは、無知な人ほど「個人的な体験」や「偏見的決めつけ」だけで語りがちなものだが、彼にはそれが無かったので、私は彼を「信頼できる批評家」だと評価したのである。

もっとも、私はもともと活字人間なので、えらいてんちょうのYouTube動画も「宗教関連動画」しか視ておらず、最近はサッパリ視ていないのだが、本書を読んで、私の評価は大筋で間違ってはいなかった、と確認することができた。

それにしても、「宗教」や「政治」がらみの問題を扱うと、必ず「中立者を装って、イヤガラセの中傷やデマを流す」匿名の人たちが、おおぜい湧いて出る。

例えば、「安倍政権批判」本だと、「ネトウヨ」が「星1つ」レビューを投稿し、それに同類の「ネトウヨ」がたくさんの「参考になった」を、手慣れた電凸よろしく大量送付する。これは一種の「ステマ」だと言えるだろう。

そしてこれは、本書のレビュー欄についても、まったく同じ状況だ。

政党「NHKから国民を守る党」とその党首・立花孝志に対する「批判者」は、わかりやすい。
だが、政党「NHKから国民を守る党」と党首・立花孝志の「支持者」「信者」は、必ずと言って良いほど、その事実を隠し、自分を「中立者」のごとく見せかけて、レビュー読者を欺こうとする。

しかし、彼らが「政治」的論評について、確信を持って語りうるほどの人間かどうかは、個々のレビュアーの投稿履歴を読めば、大筋で理解できるはずなので、ぜひそちらの(ファクト)チェックをお奨めしたいと思う。

私はいつも「ネトウヨ」に向って「保守を名乗るのなら、保守思想の本くらい読め」と言うのだが、同様の意味で、本書のレビュアーたちにも、「政治」を語るのなら「政治関連書」や「歴史研究書」くらいを読め、と言いたい。
それも読まずに、知ったかぶりで自信満々に「政治を語れる」というのは、その人が「賢い人」だからではなく、「頭の足りない人」か「頭のおかしい人」でしかない証拠なのだ。

そして、その事実は、「NHKから国民を守る党」党首・立花孝志にも、そのまま当て嵌まる事実だと言えるだろう。

初出:2020年2月18日「Amazonレビュー」

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