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まいちゃんとなおとくん

 まいちゃんの唇は、ふっくら乾いて高温。

 肩までのくせの無い黒髪、丈夫そうな濃い色味の肌、たっぷりの長いまつげが縁取る二重の大きな目、くっきりとしたかもめ眉毛、は、わたしととても似ていた。

 でも、まいちゃんは、背が高く、手足が大きく、声はかすれ気味のアルト。大きな口は自由に動き、戸惑うことなど無く思いを自在に言葉にできる。

 そこは、わたしと、全く似ていなかった。

 似ているけれど、似ていない。小さく鈍くすぐ泣く湿ったわたしとは違い、まいちゃんは大きくて自信に溢れからりと乾いていた。

 幼稚園の年長組になってから転入してきたまいちゃんは、仲良くなるとじきに「キス、しよ」と言うようになった。そして、三日にいちどくらい、廊下の隅や階段の影にわたしを連れて行き、わたしの唇に、自分の唇をぎゅっと重ねた。

「おんな同士で、へんなの!」

 キスするわたしたちを見つけて、そう揶揄からかう子たちに

「キスは、すきな子とするんだよ」

 乾燥機から出したばかりのタオルのようにふわっと乾いた唇で言うまいちゃんに頷いて、まいちゃんはわたしが好きで、わたしもまいちゃんが好きだから、それでよかった。へんだと言う子たちに見られても嘲笑わらわれても、気にならなかった。

 なおとくんは、まいちゃんと同じ頃、転入してきた。明るくて、賢くて、清潔で、すぐ嫌がらせをしたりする幼稚な男の子たちとは全然違ってた。だから、まいちゃんは、男の子の中では、なおとくんが一番好きで、わたしも、同じだった。

 まいちゃんとわたしを冷やかしていた男の子が、ある日「みてみて」と言って連れてきたのは、なおとくんだった。

 なおとくんは、階段の踊り場でキスしているわたしたちに、すこしびっくりして、でも笑顔のまま何も言わずすぐにどこかへ行ってしまった。

 まいちゃんは、それから「キス、しよ」と言わなくなった。わたしから「キス、しよ」と言ったことは一度もなかったから、それまでと同じように、言わなかった。

 その日以来、卒園まで同じ幼稚園にいたはずの、まいちゃんのことを、何一つ覚えていない。




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