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【夜の舞台裏 #001】「何かを生み出すということ」

初めまして!「なつお」と申します。
これから始まるナイトアウルへの「インタビューコーナー」【夜の舞台裏】で聞き手を担当させてもらいます。
ナイトアウルとは中学時代からの付き合いで映画の話をよくする仲です。一年くらいですが前職で記者をしていた経験があることから、彼にこの企画を担当するよう依頼を受けました。今はワーキングホリデー制度を使い10月からオーストラリアのメルボルンに移住しています。

僕自身も将来的に映像作品や独自のメディアを作って発表するのを目標にしています。インタビュー記事を見て気に入ったらぜひフォローしてください! (instagram:@kohhbeme filmmarks:@natsuo007)


〈第1回〉 【夜の舞台裏】

「何かを生み出すということ」

~「私のいない世界」と「私の内に潜むもの」の2作を題材に~

「何かを生む(産む)ことの責任」について書こうと思ったんだよね。巷のニュースや噂話、人の行動を見聞きする中で、その責任が欠けていることの問題を考えさせられて…


〈第1回〉ではまず小説を書くことについて、ナイトアウルの位置付けを明確にしたい。そのために彼がどのような表現欲求や問題意識をもって創作しているのかを聞くことにした。そう決めた時にまず頭に浮かんだ彼の作品が「私のいない世界」。小説家そのものを主人公に添えたこの作品には書き手の創作活動の核となるものが現れているだろう。そしてもう一つ、妊娠がテーマの「私の内に潜むもの」。この2作には「何かを生み(産み)出す」というテーマの共通点が感じられる。これを軸にインタビューをすることで彼にとっての小説を書く、生み出すことの意味が知れるだろうと考えた。


▶︎「私のいない世界」

なつお(以下な):「私のいない世界」は自己言及の作品に感じられた。主人公に自分の名前をあてているし、ここでは小説を書くことについての話が展開されている。こういう作品には作者の体験や芸術論というのが反映されるものだから、ぜひそこを掘り下げていきたい。
作品の中で主人公は小説家としてスランプとその脱出を体験しているわけだけど、この作品を書いた当時の君の状態や書くに至った経緯について聞かせてほしい。
ナイトアウル(以下夜):経緯ね。まずこのnoteをはじめたところから遡るんだけど、最初はアウトプットの練習として小説を書いて掲載することにしたんだ。表現者を志すなかで、小説や映画にとにかく触れてきたけれど自分で何かを生み出すってことをあまりしてこなくて、そろそろ何かしないとなって思っていた。
:何か大きく構えた思想や表現欲求とかからではなく、まず練習をしていこうというのが始まりだった?
:そう。ただやっぱり最初は大変だった。いい作品を作ろうとすると途中で悩みすぎて筆が進まなくなってしまうんだよね。だから、とりあえず短い短編小説を仕上げることを繰り返すことにした。作品を書き切る回数を増やしていこうとしていったんだ。ジャンルもその都度思いついたもので書いていくスタイルで。そうすると大分いいリズムがついてきて、仕事後に毎日一本書いてそれを掲載していくっていうルーティンが出来上がっていった。
:なるほど!このnoteは作品ごとにジャンルが全然ちがう短編がかなりの頻度で投稿されているけど、そういう制作背景があったんだ。
:色々なジャンルを書く方が練習になるしね。ただ、そんな風に創作活動が器用にルーティン化されていったことに疑問を感じていたんだ。現状に甘んじているような気がして。
:ルーティンをつくるために作品の質や理想をある程度妥協してしまっていたわけだもんね。
:正直そんな自分に少しムカついていたね。もう一度、気合を入れなおして妥協せず良いものを書くぞ!って気持ちで力をいれた作品が3編でつづられた「私のいない世界」なんだ。
:リスタートとしての作品だったわけだね。ますます君の芸術観が反映されるような重要な作品に思えてくる。

:でもこの作品は特に芸術論とか自己言及をテーマにするつもりはなかったんだ。むしろナツオから言われて初めて「そんな見方もあるのか」って思ったぐらいで
:では今作のテーマとは?
:「何かを生む(産む)ことの責任」について書こうと思ったんだよね。巷のニュースや噂話、人の行動を見聞きする中で、その責任が欠けていることの問題を考えさせられて。

 「生むことの責任」

:ではストーリーを深堀りすることで、そのテーマについて教えてほしいな。
 作家として成功をおさめていた主人公・ないとうあうるが深刻なスランプに陥る。その後、師匠の影武者をすることで腕を取り戻すんだけど、師匠が自殺した後アイデンティティを喪失してしまう。というストーリーなわけだけど。
:内藤がスランプに陥るきっかけのシーン。同窓会で再会した同級生に作品を否定された時に彼は自分が作者であることを名乗れなかった。あれは自分が作品を生む作者であるっていう責任が持てていないことの表れなんだ。そんな責任を持てない彼、ある意味で自分には罰を受けてもらおうと思った。

私は、他人に自分の正体を明かすことに対して無意識に恐怖を抱いるのである。私は再び発作に襲われる予感がし、すぐに先ほどスタッフからもらった水をがぶ飲みした。
 それ以来私は小説を書けなくなった。それは自分が自分のためにものを書くという行為自体が自分の名声を維持することと重なり、自分に価値を見出すことに抵抗を感じてしまっていたのだった。

ナイトアウル短編作品「私のいない世界」

:作品を生む責任をとれない罪に対する罰を?
:その罪と罰が今作のストーリーなんだ。責任をとれない内藤にとって人の影武者というのはすごく都合がいい話だった。自分の作品じゃないから責任がないわけで、だから調子よくかけてしまう。
:でもそれが原因で師匠は自らの命を絶ってしまう。
:そう、それが内藤への罰。生むことに責任が持てない結果が自分の師を殺す結果になってしまう。そして最後には自分のアイデンティティをも失ってしまう。これらは全て責任から逃れたことが招いた結果なんだ。

満月が海に反射して最果てへと続く黄金の道を作っていた。そして、夜景を背景にガラスに反射する自分の姿を見て、私は我に帰った。
「なんだ、私はとうにこの世を去っているではないか。何を今まで思い違いをしていたのだろうか。そうだ、私はとうとう最後まで私というものを手にすることはなかったのだ。人は死んでしても夢を見るものなのだな」

ナイトアウル短編作品「私のいない世界」

:相当、主人公を追い込んだな。責任を持たないことに対する強い気持ちがあるみたいだね。
:やっぱり親が育児放棄をして子供が不幸になるニュースとかを見ても、そういう責任って大事だなって思う。あと今作ではバットエンドものが書いてみたくて悲劇的なストーリーにしたっていうのもあるかな。


▶︎「私の内に潜むもの」

:これもまた何かを産むことについての作品だよね。これも産むことの責任をテーマにしたの?
:まさしく産むこと、そしてその先の育児についてまでを含めた責任をテーマに盛り込んだんだ。「私のいない世界」と同様に何かを生み出すことに責任を持てない主人公を設定に置いてみた。
:彼女が責任をとれていない描写っていうのは具体的にどういった部分なの?
:今まで関係を持っていた男に復讐をしていくところだね。妊娠をした事実を彼女は受け入れられない、だから男に責任を擦り付ける。主人公の責任感のなさっていうのは、若い男の子からの好意に気づかない振りをして都合のいい対象として扱ったところにもあらわれていたりする。
:全体的に責任観が希薄な人物として設定したのか。「私のいない世界」と同様に罰があたえられることとして実の兄との子を授かってしまうということなの?
:いや、ラストはもっと肯定的な意味で書いたんだ。彼女が責任と向き合うことになったっていう意味合いで。最後に彼女が母親と自分を重ね合わせたということは彼女が出産に向かうことを暗示しているんだよ。ここで彼女は自分の母親が責任を負ったことと、そこから逃げたことを同時に知ることになる。母親が捨てた実の兄と向かい合うことで逆に自分に対しては責任をとって育ててくれてたことに彼女は気づかされた。そしてその気づきが彼女を成長させることになる。

「生まれてくる子供がおれの子でもおれの子でなくても、責任持って一緒に育てたい。制度的にも問題ないはずだ」
私は彼の真剣な眼差しを受け止めながらも、ふと選択を迫られている自分を昔の母親と重ね合わせた。

ナイトアウル短編作品「私の内に潜むもの」

:母親との関係はすごく重要な要素だと僕も思っていて、繰り返し彼女が母親似であることが描かれていることから彼女は “母親の複製” 的なものとして描かれていると思った。実の兄と結ばれることは母親の失敗をその複製がやり直す、兄はここでようやく “母” を手にすることができるということ。ラストの母親と自分を重ねることは、そのまま自分が母親と同じような道を歩んでいることに主人公が気づいたということだと僕は解釈した。
そしてこれって「私のいない世界」でも言えて、主人公はゴーストライターをして師匠のコピーをするわけだけど、これはつまり”育ての親の複製”ってことなのかと感じた。作家、作品とは何かしら影響元の複製的な産物でしかないという芸術論をここでは帯びているんじゃないかと。
:そういうことは全然考えてなかったな。
:そうなんだ!
:でも言われてみると確かにそうでめちゃくちゃすごいな。さすがの考察力。
:いや僕なんてワンピース考察班に比べたらまだまだだよ。
:そうなんだ、ワンピース考察班すごいな(笑) でもナツオの今言っていた芸術論、それは本当にそうだと思う。全ての創作は何らかの影響によって生まれるもの。例えば好きな映画や文学作品だったり、自分の過去の体験だったり必ず何かしらから影響を受けていると思う。
:それでいうと今作における影響元は何があるの?
 「私のいない世界」には意識していた作品が多くて、まずは人間失格。あの作品は、幼少期から大人になるまでを入念に描いていて、主人公は徐々にアイデンティティーをなくしていく。だから「私のいない世界」でも段階的に主人公からアイデンティーを奪っていったんだ。
   あとは夏目漱石のこゝろ。こゝろは大学時代に友人に勧めらて読んだんだけど、度肝を抜かれたね。学生の主人公がある日鎌倉の海辺でどこか謎めいた先生に出会うんだけど、先生は自分には知り得ない罪意識を抱えていたんだよね。主人公は最終的に先生の人生最後の手紙を読むことになるんだけど、完全にこれには影響されたよね。作中でいう師匠との師弟関係と手紙のやりとりがまさにそう。


:なるほどこれはまた大ネタを使ったね。でも人間失格も、こゝろも読んだのが昔過ぎて忘れちゃった(笑)
:そっか(笑)どっちも物語が淡々と進んでいって退屈する人もいるけどぜひ頑張って読み返してほしいな。両作品とも、人がダメになってしまう瞬間だったり、それまでの過程だったりを忠実に書いていて人間の本質にすごく迫っているものがあると思う。


〜結び〜

:インタビューは以上です。この2作には何より「生み出すことの責任」というテーマや、問題意識があったということがよくわかったよ。次もできれば今回みたく、作家性の強く表れた作品のインタビューをしたいな。
:そうだなー。この前書いた「ベイエリア・トライアングル」は実体験をもとにしているからそれでいこうよ。
:いいねいいね。楽しみだな。


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