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マイクロノベル集

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140字以内で書いた短い短いお話です。
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記事一覧

  【創作】誕生【8連マイクロノベル】

  【創作】誕生【8連マイクロノベル】

1.
 ある日あなたは川で洗濯をしていた。いや、今時そんなことをする人はいないって?でも今はそういうことにしておいてくれ。でだ、しばらくすると、川上からどんぶらこっこどんぶらこと音がした。そこであなたはすぐに察する。ああ、例のアレが流れてきたんだなと。やがてソレの正体が明らかになった。

2.
 普通はここで大きな桃が流れてくる。が、今回は違った。なんとパイナップルだったのだ。なぜ川にこんなものが

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【マイクロノベル】こちら側

【マイクロノベル】こちら側

 部屋の明かりをつけると私が鏡に映った。向こうもこちらを見ている。たとえ同じ姿形をしていても、鏡面が隔てる世界は別のもの。どちらが本物かなんて考えたこともないでしょ?確かめてみるといいわ。動きが支配できていればあなたは本物。うん、大丈夫みたいね。部屋の明かりを消すと、私が消えた。

【マイクロノベル】ミニトマト

【マイクロノベル】ミニトマト

 一人暮らしをしている母のマンションに行った。可愛がっていた猫のミーちゃんが年明けに死んだ。一時はだいぶ落ち込んでいたが今は元気みたいだ。プランターで育てているミニトマトには猫と同じ名前をつけている。名前を呼びながら水をあげて、一粒取って食べた。「ミーちゃんはやっぱり美味しいわ。」

【マイクロノベル】好きだから

【マイクロノベル】好きだから

 彼は帰宅すると届いた郵便物を確認していた。DMに混じって白い封筒がある。差出人は上野瞳。知らない女だ。彼は中の便箋を確認し訝しそうにテーブルに置いた。……女は胸に手を当て大きくひとつ呼吸をした。「いつも見ています」と初めて彼に思いを届けたのだ。ソファの上、彼の頭上から、いつも。
(ショートショート部 お題:郵便)

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2023年8月31日 改稿しました。

【マイクロノベル】罪人見学

【マイクロノベル】罪人見学

 カンダタが血の池から天井を見上げると蜘蛛の糸が垂れています。彼は気合いを入れてよじ登ろうとしましたが一瞬でちぎれました。カンダタは上を見て舌打ちしました。その頃極楽では蓮池に新人たちが集まっていました。地獄の罪人を一目見ようと、試しに側にいた蜘蛛を捕まえて糸を垂らしたのでした。
(ショートショート部 お題:見学)

【マイクロノベル】極楽エレベーター

【マイクロノベル】極楽エレベーター

 ある日蓮池を覗いたお釈迦様は、血の池で蠢くカンダタの姿を見つけ、今度こそ助けてやろうと、極楽エレベーターを作ってやりました。カンダタは真っ先に乗りこみましたが、背負った罪が重すぎてエレベーターは動きません。地獄の底には乗れる者がおらず、一度も使われることなく壊れてしまいました。

(ショートショート部 お題:エレベーター)

※当初「天国エレベーター」というタイトルでしたが、「極楽」の方が適切だ

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【マイクロノベル】歩く

【マイクロノベル】歩く

 目の前に伸びる道をただひたすら歩いてきた。誰かと星を目指していたような気もするが今は独り。振り返ると乾いた道に残る私の足跡はもう消えかかっていた。冷たい風に吹かれ身震いして目を閉じる。すると彼方からの光が私を一瞬で赤く染めた。やっと目を開けて見上げた空にはもう星が見えなかった。

【マイクロノベル】めぐる

【マイクロノベル】めぐる

 樹海に来て随分と時間がたった。今の私を見ても誰だかわかるまい。もはや人としての原型は留めておらず、醜く汚く朽ちた姿に慄くだろう。だがこれも命の繋がりの過程に過ぎない。私は獣や虫たちの餌となり、やがて分子になる。いつかここに小さな花が咲いた時、私は自分が無であることに気づくのだ。

【マイクロノベル】まねっこ

【マイクロノベル】まねっこ

 動物の形に型抜かれたビスケット。平面のままでいることに飽きた彼らは、表面を凸凹させて立体的になった。次第に体を動かすことを覚えて、自由というものを知った。やがて音を出せることに気づき、言語のようなものが生まれた。そして仲間という意識が芽生えていった。文明が誕生するまであと一歩。

(ショートショート部 お題:ものまね)

【マイクロノベル】野望

【マイクロノベル】野望

 エコバッグは仲間を集め、おしゃれ生活を発信しインフルエンサーになった。皆彼らの意識の高い生活を真似てキャッチーな発言に酔いしれた。やがてそれは民意となりレジ袋の撲滅に成功。エコバッグこそが正義となった。人々は溢れんばかりのエコバッグに囲まれ幸せだった。エコバッグはほくそ笑んだ。

(ショートショート部 お題:スーパーの袋)

【マイクロノベル】希望

【マイクロノベル】希望

 小窓から見える闇の中に一点の明かりがあった。月ではなく星よりは大きく灯台ほど明るくない。それは時折瞬き私に話しかけてくるようだった。彼処に何があるのだろう。誰も海の向こうのことは知らなかった。今夜も切り取られた闇の中に明かりを見つける。いつか行くからと語りかけたとき光が瞬いた。

(ショートショート部お題:灯台)

【マイクロノベル】始動

【マイクロノベル】始動

 私は棒人間。ある日、作者がつまらない授業を聞いているときに教科書の端に生まれた。少しだけ違う私がページ毎に増殖する。しばらくして作者が本を持ち親指でページの角を弾いた瞬間、我々は一体になった。そして残像だけを残して別の余白を求め旅立った。今日もまた動き出す時をじっと待っている。

(ショートショート部 お題:余白)

【マイクロノベル】座敷鶏

【マイクロノベル】座敷鶏

 家の奥座敷に住みつき数年に一度純金の卵を産んでいく座敷鶏という精霊がいる。我が家も祭壇を作り穀物を捧げ座敷鶏が来るのを待った。ある日の朝四時、祭壇で鶏の声がした。それから毎朝四時になると雄叫びをし、穀物を食い散らかしていった。が、何年経っても金の卵は置いていかない。雄鶏だった。

(ショートショート部お題:鶏)

【マイクロノベル】通りゃんせ

【マイクロノベル】通りゃんせ

 お隣に住む松田さんちのおじいちゃんに、天神スーパーに行く近道を教えてもらった。この街に住み始めて三ヶ月、こんな道知らなかったな。いつも十五分かかるのに七分で着いた。これはいい!帰り道、路地から出ようとしら松田さんが現れた。「ここはうちの私道でね。通行料は百円だよ」と手を出した。

(ショートショート部 お題:有料道路)