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『おうむの夢と操り人形 (年刊日本SF傑作選)』大森望、日下三蔵(編)

2018年の日本SF短編の精華を収録。今年度版には円城塔、斉藤直子、坂永雄一、三方行成、柴田勝家、高野史緒、田中啓文、飛浩隆、西崎憲、長谷敏司、藤井太洋、古橋秀之、日高トモキチ、水見稜、宮内悠介、宮部みゆきの短編作品のほか、肋骨凹介、道満晴明による漫画も収録。巻末には第10回創元SF短編賞の受賞作と選評を掲載。編者二人による各作品解説や年間日本SF概況、短編推薦作リストなど解説記事も充実した、2018年の日本SFが一望できる年刊ベスト・アンソロジー。

短編19篇の超ボリューム。お腹いっぱいの一冊。

ラスト、アマサワトキオのサンギータが一番好み。ネパール人に読ませたいし、是非アニメで見たい。

その他も色々ユニーク。
田中啓文の三蔵法師殺人事件は、一人称でもないのに地の文が歌いだして夜中に声出して笑った。自由にも程がある。
円城塔は初読みで、あまりのメタさに驚愕。
他にも、長谷敏司や肋骨凹介を知れたのが収穫かな。

オムニバス本は未知の作家を知れて好きだが、このシリーズはこれで終了とのこと。ご苦労さまでした。

以下個別感想。

#宮部みゆき 「わたしとワタシ」

タイムスリップモノ。ユニークなのは、自分ではなく、青春時代の自分(超生意気)が未来にきてし、老いた自分と出会う、という普通と逆の展開。この目の付け所はさすがと言わざるを得ない。若い頃の自分なんて恥ずかしくて目も当てられないよと悶絶。
しかしお話としてはそれだけなのが残念。

#斉藤直子 「リヴァイアさん」

初読み作家。スカイフィッシュと遭遇のお話。なによりも特徴的なのは砕けに砕けた文章。ギャグ&テンションが最高。こんな女近くに居たらイライラするだろうな(笑)

#日高トモキチ 「レオノーラの卵」

初読み作家。不思議ワールドファンタジー。動物や生首がしゃべる、ほのぼのした雰囲気の醸成がお見事。ちょっと切ないところも素晴らしい。長編が是非読んでみたい。

#肋骨凹介 「永世中立棋星」

初読み作家。SFかつ平凡な日常を淡々と、それでいて面白おかしく描いているところがドストライク。野村亮馬や庄司創、山田胡瓜ファンにはぜひ読んでもらいたい。
本作を含む連載中の「宙に参る」はトーチで全話無料で読める。ありがたや。

#柴田勝家 「検疫官」

初読み作家。物語が病気として扱われるディストピアモノ。もうちょっと説得力が欲しかった。

#藤井太洋 「おうむの夢と操り人形」

ペッパーくんのお話。あいつはロボットではなく、人型の対話インターフェイスだ、という定義に目からうろこ。ではなぜ可愛く作らないんだろう? と不思議だが。
AIと人間の会話も、内容を理解した本当の会話でなくても、オウム返しに相手に喋らせればよいじゃん、という発想も楽しい。キャバ嬢と喋っているとき、この話を思いついたのでは? と笑える。
ただ、作中の会話だと、オウム返し丸わかりで、ストレスしかないだろと思ったので、改善の余地あり。

#西崎憲 「東京の鈴木」

初読み作家。未知の生命体モノ。しかしドイツの意味も鈴木の意味もわからず。ナンセンス気味。

#水見稜 「アルモニカ」

初読み作家。歴史モノ。実在のフランツ・アントン・メスメルがえがかれる。アルモニカという楽器を初めて知った。Youtubeで音色を聴いてみたら神秘的で美しい。シンセサイザーのない時代だったらなおさらだろう。あまりに神秘的すぎて神経を病む人が続出して廃れたそうな。
しかし、その効能と、主人公の持つ能力が混同してたり、描写がわかりづらかったりとなんとも残念。

#古橋秀之 「四つのリング」

初読み作家。童話SF。「百万光年のちょっと先、今よりほんの三秒むかし。」という出だしだけで、他の本も読まねばなるまいと決意。お話は日本昔ばなしをSFにした感じ。パンチは無いがほのぼのしていて良い。

#田中啓文 「三蔵法師殺人事件」

初読み作家。ギャグ西遊記。地の文でこんなことして良いんだ!と衝撃を受けた。まさか歌い出すとは。お話にもきれいにオチている。他も読んでみよう。

#三方行成 「スノーホワイト/ホワイトアウト」

ギャグではなくホラーSF。なかなかの地獄が読める。ディストピアのなかでもかなり悲惨な部類。未来でも金かよ、という切なさがたまらない。

#道満晴明 「応為」

タイムスリップモノ。葛飾北斎の娘、応為にゲッサンやウルジャンを与え、エロ漫画を江戸に広める罰当たり漫画。もう笑いしか無い。道満晴明はヴォイニッチホテル以後読めてないので、早々に買わねば。

#宮内悠介 「クローム再襲撃」

超動く家にて で読んだので割愛。

#坂永雄一 「大熊座」

初読み作家。人類が火を扱えてない世界。そのわりに描写に無理があるので、のめり込めず。

#飛浩隆 「「方霊船」始末」

零號琴番外編。脚本家と鳥女の出会いのお話。零號琴未読の人は何も楽しめないのでは? と危惧しつつ、零號琴が読み返したくなった。

#円城塔 「幻字」

初読み作家。メタすぎる上に、阿呆すぎて呆然となった。デビュー作から順に読む計画だったけど、他もこんな感じだろうか。読むか悩む。。

#長谷敏司 「1カップの世界」

初読み作家。BEATLESS前日譚。AIが人間の遥か先に行っているが、人間が世界を動かしているように見える世界。なかなか嫌なディストピア。世界観は好きなのだけど、小説としては説明セリフばかりでやや残念。

#高野史緒 「グラーフ・ツェッペリン 夏の飛行」

初読み作家。過去の幻想に飛び込むような描写は結構好き。しかし量子コンピュータとヘッドマウントディスプレイでは無理があるので、もう一捻り欲しかった。ツェッペリン号が見える理論も今ひとつ解らず。

#アマサワトキオ 「サンギータ」(第10回創元SF短編賞受賞作)

初読み作家。未来のネパールで、クマリ(生き神少女)が神聖を取り戻すため、人体改造するお話。ネパールの描写が素晴らしく、かつて見たクマリのドキュメンタリーが思い出され、余計のめり込めた。その上でのSF展開、しかもどう考えてもタブーな展開に興奮を禁じ得ず。なにより、人体改造の根拠が「三十二相八十種好」という所がもう最高である。それを達成してからの展開も神がかっている傑作。この人の単行本が待ち遠しい。


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