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人間と人生を味わい尽くす~神山典士作品集

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音楽、スポーツ、演劇、芸能、ビジネス、料理等、あらゆるジャンルの人間ドラマを描くノンフィクション作家神山典士作品集
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#青春

TheBazaarExpress100、ソフトバンク、光通信のあとはオレに任せろ~孫正義の子孫たち

「株式公開延期」

 案の定、証券会社の動きは早かった。ちょうど東京の桜が綻び始めた三月三十一日、光通信が中間決算で営業赤字を出したと発表した翌日に、都内にある新興企業A社の経理担当部長、吉田正彦(仮名)のもとに担当証券会社からアポイントが入った。

 やってきたのは、ふだんはめったに顔を見せることのない公開引き受け部の部長を含む数名の証券マンだった。

「御社の八月上場予定というスケジュールを見

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TheBazaarExpress99、世界の日常を変えてやる、緻密なる暴君・ソニー・コンピュータエンタテインメント社長・久多良木健

規格外れの男が

常識破りの

商品を生んだ

 その現場でいちばんはしゃいでいたのはこの男だったのかもしれない。三月四日早朝の渋谷。この日発売となったプレイステーション2を求める徹夜の行列の前に、その「生みの親」、久多良木健(四九歳)は小型のカメラを持って突然現れた。午前七時の発売開始の模様を嬉々としてカメラに収めると、集まった報道陣を尻目にスタスタと歩き出す。はたしてこの男、どこから歩いてきて

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TheBazaarExpress81、孤高のアニメ監督・杉井ギサブロー編

『鉄腕アトム』テレビアニメ、1963年~。

『どろろ』テレビアニメ、1969年~。

『まんが日本昔ばなし』テレビアニメ、1974年~。

『銀河鉄道の夜』劇場アニメ、1985年。

『タッチ』テレビアニメ、劇場アニメ、1985年~。

『ルパンⅢ世 トワイライトジェミニの秘密』テレビアニメ、1996年。

『キャプテン翼』テレビアニメ、2001年~。『あらしのよるに』劇場アニメ、2005年。

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TheBazaarExpress80、美食を真の文化に、二代目の葛藤~辻芳樹編

 大阪城公園の蕾が膨らみ、ホールのアリーナに辻調理師専門学校のグループ4校総計約2000人の卒業生が集まる季節になると、同校校長、辻芳樹(49歳)の胸にはあるシーンが去来する。20年前、先代校長の父・静雄が急逝し(享年60歳)、約2週間後に初めて校長として卒業式の演壇に立った時のことだ。

「校長挨拶で父が用意していたものをメモを見ながら読み上げたら、後に義父に叱責された。なぜメッセージを暗記しな

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TheBazaarExpress72、神に選ばれし子~指揮者・佐渡裕編

 その時、真っ二つに折れた指揮棒が宙を舞った。

 座間市民合唱団約三五〇名と読売日本交響楽団約八〇名の演奏が大団円を迎えた時、私には、折れた指揮棒の先端が放物線を描いてステージと客席の中間に弾むのがはっきりと見えた。

 ベートーベン作曲「交響曲第九番」。お馴染みの合唱の最後の音がホールに吸い込まれると、客席からは嵐のような拍手が鳴り響いた。佐藤しのぶ、吉田浩之ら四人のソリストは、四度もステージ

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TheBazaarExpress71、夢を叶え、叶え続ける~ベルリンにて、佐渡裕編

 ショスタコービッチの「交響曲第五番」。軽快なメロディーの最後に重厚なティンパニの音がホールに吸い込まれた瞬間。万雷の拍手が指揮台で祈りのポーズをとる佐渡裕(50歳)に注がれた。5度目のカーテンコールを終え、楽団員全員が引き上げても拍手は鳴りやまず、手拍子すら起きた。独りぼっちのカーテンコール。めったにない光景だ。

 5月20日から3日間開かれたベルリン・フィルハーモニー管弦楽団の定期演奏会での

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TheBazaarExpress69、伝承する「無敗伝説」~桜井章一と雀鬼会編

 その時、師から高弟へと行われたその「伝承」は、のちにどんな意味を持ってくるのだろうか。1月28日日曜日、町田道場でのこと。雀鬼会選抜リーグ戦決勝戦が始まる約2時間前。雀鬼・桜井章一が目の前の卓でウォーミングアップをしていた四天王の一人、金村尚紀を見ながら周囲の一人に声をかけた。「おい××、金村の代走しておけ。金村、こい」

 金村がやってくると、雀鬼は立ち上がってその耳元で何か囁いた。その間わず

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TheBazaarExpress68、レストラン成長物語~エビスmori編

 恵比寿駅前の喧騒を逃れ、線路沿いの小道を登って5~8分。「まだ着かないかな」と少し心配になるころに、この店は現れる。小さな居酒屋やレストランが入った5階建てのビルの3階。

―――また今日も来ちゃった。

 そう呟きながら、週に複数回やってくる客が少なくないのがこの店の特徴だ。「ラ・ベル・ブラッスリー・モリ」。店内は約6メートルのブビンガの一枚板のカウンター8席とテーブル8席。季節と天候がよけれ

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TheBazaarExpress63、明治の青春群像、その3~不屈の魂でアマゾン開拓移民を励まし続けた前田光世の「ライオンの夢」

前田光世の「ライオンの夢」

 西欧社会への日本の本格的なデビューとなった明治30年代後半の日露戦争期。西欧各国では大国ロシアを破った小国日本のことが大きな話題となり、当時世界へ出ていた講道館柔道家たちも各国で人気を博していた。

 だが、この時代、世界的な日本ブームとは裏腹に日本の農村は戦費調達のための重税に喘ぎ疲弊しきっていた。世界で2000試合無敗の伝説を作ることになる柔道家・前田光世も明治

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TheBazaarExpress62、明治の青春群像その2~若き格闘家たちを「国士」に変えた講道館創始者、嘉納治五郎の情熱

 日本が外圧によって世界に門戸を開いた明治という時代は、鹿鳴館に代表される欧化一辺倒=“情報吸収型異文化交流”の時代として語られている。

 ところが日清戦争以後、西欧列強からの干渉を受けるようになると、日本および日本人は、列強と肩を並べるためには、情報発信型の異文化交流が必要だと気づく。そんな時、背中に国と民族を負って世界に出ていったのが、前号で紹介した講道館柔道家のような若者たちだった。明治の

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TheBazaarExpress61、明治の青春群像、その1~T.ルーズベルト大統領を魅了した明治の柔道家たち

21世紀国際ノンフィクション大賞優秀作受賞の気鋭のジャーナリスト神山典士氏は、いま日本が誇れるものと言えば、まず明治時代の柔道家たちの生き方があげられる、と指摘する。開国から約40年の極東の小国から、独自の文化を世界に広めるために旅立った明治の若者たちに学ぶべき点も多い、というのだ。それは単に格闘家の物語ではなく、誇り高き明治の日本人の物語である。そして、そこには平成の日本人が忘れてしまった大切な

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TheBazaarExpress54、天才レーサー福沢幸雄とその時代~福沢幸雄編

1章・

 64年開催の東京五輪を成功させた日本が、経済の高度成長期を経て大きく変化していった60年代から70年代にかけて―――。人はこの時代を、「日本の黄金時代」と呼ぶ。

首都東京には東海道新幹線や首都高速道路等が建設され、「戦後」の残滓はコンクリートやアスファルトで上塗りされた。民間人の海外旅行自由化も64年。人々は堰を切って海を渡りだす。雑誌の創刊ブームは59年に始まり(朝日ジャーナル、少

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TheBazaarExpress56、誰も見たことのない青空を求めて~ピアニスト辻井伸行編

世界のクラシック・シーンの厳しさを改めて垣間見たのは、ピアニスト・辻井伸行のアメリカ合衆国コロラド州・アスペン音楽祭での演奏会に同行取材した時のことだった。

 辻井の到着は予定より1日遅れ、演奏会のわずか23時間前のこと。同行して来た母・いつ子に聞くと、「出発直前までビザが降りなかったので、演奏会はキャンセルかもしれないとすら思ったんです」と言う。

 しかも主催者から渡された飛行機のチケ

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TheBazaarExpress43、「人生で大切なことは全て雀鬼に学んだ」第一章~桜井章一編

1章、雀鬼と部族

「オレはどこかに学びに行ったことがない。

どこぞに成功した人がいる、あそこに素晴らしい人がいると聞いても、出かけて行って学ぼうとは思わない。

むしろ下の子から学んでいる。子供や孫から学んでいる。

どうして人は上からばかり学ぼうとするんだろう。どうして学校の先生は、教育委員会や文部省ばかりみているんだろう。もっと子供から学べばいいのに。子供からこそ、学ぶべきものがたくさんあ

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