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【旅気分】おうちで旅する世界(2) ―カザフ刺繍などエスニック布雑貨編―

日本にいながらにして異文化に親しむ

世界中がコロナ禍に見舞われて2年目に突入、あっという間に“ステイホームな黄金週間”も過ぎて……。もちろん、補償ゼロにもかかわらず行政に不当に敵視された飲食店などが痛手を負ったり、コロナによる雇い止めなどで経済的に困窮したりする方々もいるという現実を看過してはなりませんが、こと「自粛生活」という点に絞っていえば、もともとインドア派な人間なら十分に楽しめる、という側面もなきにしもあらず。

趣味の形は十人十色ですが、自分の場合、ごく自然にEC(いわゆるインターネット通販、ネットショップ)を通して、モンゴルや中央アジアなどを中心としたエスニック雑貨店を見つけては、気に入った品々を集めるようになりました。コロナ以前からECを取り入れていたお店もあったようですが、やはりここ1~2年で特に拍車が掛かったようで、さまざまなジャンルの店舗が工夫を凝らして、ECにも対応できるように頑張っておられますね。

ちょっと前置きが長くなりましたが、ここからはマイコレクションの中から掘り出し物を、いくつかご紹介します。

美しきカザフ刺繍の世界

たまに知人から「どうやってそんな(素敵な)物を見つけるの!?」と驚かれますが、何のことはない、気が向いたらインターネットで調べものをしていて、その最中に偶然目に入ったとか、趣味用のTwitterアカウントなどで流れてくる関連情報をチェックするとか……。あくまで、情報のアンテナの貼り方は“自由気まま”が基本です。

毎年秋には、「シルクロードバザール」というイベントが東京の片隅で開かれています。ウズベキスタン・カザフスタン・タジキスタン・キルギスタン・トルクメニスタンの中央アジア5カ国をはじめ、中国(新疆ウイグル自治区、チベット自治区、内モンゴル自治区、西安、敦煌など)、モンゴル、イラン、トルコ、東欧、ロシア、ジョージア(旧グルジア)・アルメニア・アゼルバイジャンなどのコーカサス諸国――つまり、シルクロード沿いの国々なら全部集まれ!! という一大フェス。

雑貨や書籍、食べ物などの露店(屋内ですが)がひしめき、時には民族舞踊・音楽などのエンターテインメントも楽しめるという、日本にいながらシルクロード文化を満喫できるという、知る人ぞ知る異文化体験の祭典なのです。乙嫁女子(=森薫の漫画『乙嫁語り』を愛読する女性読者)集まれ~~!!(笑)

ところが昨年の「シルクロードバザール vol.6」はコロナの影響で、なんと初のオンラインイベント開催となりました。わたしもご多分に漏れずInstagramやYouTubeにかじりついて、トルコの料理教室や織物・雑貨のオンライン即売会を覗いたり、またペルシャの羊飼いのおじさんや中国・西安などを紹介する動画を観たりして、2日間心ゆくまで楽しんだものです。おそらく、今年もやるのでは……(リアルにしろオンラインにしろ、期待大!)

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伝統的なカザフ文様の刺繍をあしらったポーチ

冒頭にある写真とともに、これらの2つのポーチは、遊牧民カザフ族の伝統的な紋様をあしらったもの。購入先の「Tuiinchek(トゥインチェク)」というお店は、なんと『中央アジア・遊牧民の手仕事 カザフ刺繍』(誠文堂新光社)を共著した、カザフ文化研究家の廣田千恵子氏ご自身が運営しているオンラインショップです。もちろん、どちらも一点もの!

さて、次の品にまいりましょう。「中央アジア」関連情報のツイートでふと出合った「Nomadic Soul(ノマディック ソウル)」というお店があります。ここは、モンゴルをはじめとする世界中の遊牧民の雑貨を専門に取り扱っている企業で、やはりコロナにより国際物流が滞る中、昨年5月に晴れてオンラインでの雑貨販売が開始されました。

ツイートでは色違いの写真が載っていましたが、サイトを巡っているうちに、わたしはこの深い臙脂(えんじ)色のリュックサックに一目惚れ。ここにも美しいカザフ刺繍が全面に施されています。

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筆者が購入したカザフ紋様のリュックサック

商品の説明文を読んでなおさら感動したのは、「モンゴルに住むカザフ族の女性達が、一つ一つハンドメイド/セミハンドメイドで丁寧に製作したフェアトレード商品です」というくだり。

ITが思わぬ形で、日本の狭っこい自室にいる自分と、世界各地で慎ましく生活を送っている人々をつなげてくれるなんて、感無量。今は大変だけれど、なんだか良い時代になったなぁ……という気がしないでもありません。

横浜に出現した本格的アラビアン・ワールド

コロナで軒並み閉店ラッシュが起きているにもかかわらず、横浜髙島屋店の地下1階に突如現れたのが、地中海・アラビア料理のテイクアウト専門店「CARVAAN Delicatessen(カールヴァーン・デリカテッセン)」です。

百貨店も売れずに不景気な世の中になったなぁ……と陰気な面持ちで一瞬通り過ぎるも、思わず振り返って二度見してしまった、アラビア文字が掲げられたお店の看板。「何これっ!?」と驚喜したことは言うまでもありません(笑)

このデリカテッセンを運営しているのは、「株式会社FAR EAST」というマイナーな国々を中心とした、食品や酒類などの輸入貿易会社のようです。何それ、就職したい!(笑)でも、本社が埼玉県飯能市って遠いし……。どうやら飯能市や渋谷では、レストランなども展開していますね。コロナが明けたら、友人たちとぜひ足を運びたいものです。それまでに、どうか生き残っていてほしい(合掌)。

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「カールヴァーン・デリカテッセン」の店頭で購入したトートバッグ

さて、横浜に話を戻すと、デリカテッセンでは色とりどりの惣菜がずらりと並んでいます(メニューはこちら)。わたしは弁当パックを選んで、ファラフェル(ひよこ豆のコロッケ)とアラビアン・サラダ、そして古代小麦のアラビアン・ブレッドを詰めてもらいました。

余談ながら、ロンドンに住んでいた頃、ファラフェル(Falafel)というとユダヤ系移民のコミュニティーにある飲食店でよく売られていたのを見掛けたので、てっきりユダヤ民族特有の食べ物かと思っていました。ところがどっこい、中東の広域で食べられているのですね。

レジの隣りを見やると、なんと光り輝くデザインの布製品が目に入りました。思わず店員さんに「そ、それもいただけますでしょうか?」と呟いたわたし。海外旅行に行けば、土産物屋で売られている布織物系の品々にはめっぽう弱いのです(=めっちゃ買うタイプ)。

その光り輝く物体とは、トートバックでした。布面の中央にはアラビア文字で「世界には みんなが知らない 素晴らしいものが まだまだ沢山ある」と書かれている(と店員さんに聞いただけで、わたしが読めるわけではない)そうです。よくシンガポールのアラブ・ストリートなどで、クルアーン(コーラン)の一節をアラビア書道で装飾した美術品が所狭しと置かれていましたが、あの感覚!? もうデザインがあまりに秀逸なので、わざわざアート用のパネルを取り寄せて絵画のように自宅に飾ってあります。プリントされた言葉の意味も素晴らしく、心を打たれます。

30年越しの夢:ナウシカの「風の伝説」タペストリー

そして最後に。4月15日から、東京・松屋銀座の8階で一時開催されていた「アニメージュとジブリ展」が、4都府県で再発令されたコロナの緊急事態宣言により、とうとうGW前に幻のイベントとなってしまいました。わたしは幸いにも、都内で健康診断を受けた後、初日開催に駆け込むことができたのですが、25日にあえなく中止。再訪するつもりで二度目のチケットを入手していましたが、払い戻しの憂き目に遭いました。

今後は宮城県をはじめ、日本全国を巡回するようですが、東京会場もぜひリベンジ開催してほしいものです(10歳の頃からジブリ信者ですが、別にイベントの回し者ではありませんよ)。

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夢にまで見たナウシカの「風の伝説」タペストリーが現実の物に!

いや、それでも初日に行けた幸運はありがたかった。展示内容もさることながら、アニメーション映画『風の谷のナウシカ』のオープニングに登場するあの背景画、つまり「風の伝説」のタペストリーが、グッズ売り場で入手できたのですから!!(感涙)

ちなみに、上の画像はランチョンマットです。この他、同じ絵柄のバスタオルと、別の絵柄(鳥の人/トルメキアの紋章)が描かれたタペストリーが商品化されていました。

長らく、宮崎駿監督は原作の漫画を執筆中、「ナウシカのような作品で金儲けしたくない。だからグッズは一切売らない」という姿勢をある時期から貫いていました。そのため、アニメイトなどでそれまで売られていたテレフォンカードや文具類(下敷き、缶ペンケース、ノートなど)がことごとく姿を消し、ナウシカ信者(=ファン)は絶望の淵へと追いやられたという暗黒時代が続いたのです。

今でも、スタジオジブリ公認のキャラクターグッズ店「どんぐり共和国」で見られる商品の中で、ナウシカをモチーフとしたものはせいぜい、パズルやアクセサリー、プラモデル、書籍、CD・LP、DVD・Blu-ray、ポーチやトートバッグくらいにとどめられています。

ナウシカは中央アジア人だった!?

さて、エスニック布織物を紹介してきたこの記事で、突然なぜ「ナウシカ」が登場するのでしょうか? その理由は、そもそもナウシカや風の谷が生まれた背景と原作の舞台設定にあります。

風の谷は、かつて巨大王国として栄えていたエフタルの辺境諸国の一つであり、ナウシカはその「エフタルの民」の末裔であることが原作でも描かれています。

もともと史実でいうところの「エフタル族(Ephthalite/Hephthalite)」は、別名「White Hun(白い匈奴)」とも呼ばれ、5世紀から6世紀にかけて中央アジアに存在した遊牧国家です。中央アジアから北インドにかけて、1世紀から3世紀頃まで栄えたイラン系の王朝「クシャーナ朝(Kushan)」からも、ナウシカの世界がいかに中央アジア史からインスピレーションを得ているかを想像することができますね。

もっとも「ナウシカ」という名前の由来は、古代ギリシャの詩人ホメロスが伝承した叙事詩『オデュッセイア』に登場する「ナウシカアー(Ναυσικάα/Nausicaä)」という、真っ裸で漂着した英雄オデュッセウスを救ったパイアキアの王女がモデル。ついでながら、虫好きという変態ぶり(苦笑)は、平安時代の短編小説集『堤中納言物語』で描かれた「虫愛づる姫君」に触発されたモチーフであり、「私の中で、ナウシカと虫愛づる姫君はいつしか同一人物になってしまっていた」と宮崎監督は述懐しています[『風の谷のナウシカ』1巻より抜粋]。

このエフタルという謎めいたキーワードを手掛かりに、放課後に図書館で片っ端から『Britannica』などの百科事典を引き、普及し始めていたインターネットで検索しまくっていたのが、当時高校生だったわたしの青春時代でした(遠い目)。

では、結論。ナウシカは中央アジア人(エフタル人)であった。ゆえに、エフタルの民によって受け継がれた「風の伝説」のタペストリーも、(例えば腐海の植物を描いた絵柄が、なんとなくカザフ文様の一部に見えないこともない……嘘)中央アジア風の布雑貨として、後世まで愛でられるであろう。めでたしめでたし。

以上、今回はエスニック布雑貨で旅する世界でした。気分だけでも、ささやかな異文化の旅をお楽しみいただけましたでしょうか?

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