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2021年に観て印象深かった映画を振り返る⑦ 五月編 その1


 今回振り返るのは、五月に鑑賞して特に印象に残った映画三本。説明は抜きにして、早速本編をどうぞ。



「華氏451」(2018年)


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 書物を読むことが禁じられた近未来の世界。幼い頃に両親を失ったモンターグは、自分を育ててくれたベイティ隊長のもと、書物を燃やすファイヤーマンとして日々を送っていた。
 ある日、これまでに見たこともないほどの本が隠されている家を発見してしまう。全ての本を燃やせと隊長から命令が下った直後、家と本の所有者である老婆が“オムニス(OMNIS)”という謎の言葉を残して、本と共に焼身自殺を遂げる…。

Amazonより引用。



 思想統制が進み、“ファイヤーマン=消防士”が焚書を生業とする“昇火士”となってしまった世界を描く有名ディストピアSF小説。本作はその二度目の映画化作品(正確には劇場公開されていないTV映画)である。




 魅力的なキャストと人物描写のおかげで、本作は小粒ながらも魅力的な映画となっていたように思われる。「クリード」シリーズや「ブラックパンサー」等で活躍したマイケル・B・ジョーダン氏は勿論、「シェイプ・オブ・ウォーター」で“悩める中間管理職”に扮したマイケル・シャノン氏が、再び人間味のある中間管理職を好演。職務への葛藤に苛まれる様子が非常に良かった。本を焼却して回る体制側の人間であるクセに、登場人物中の誰よりも語彙力豊富でポエミーな台詞回しをしていたのが印象深い。任務への疑念を抱きながらも誰よりも任務に忠実という複雑な背景・分裂した内面を想起させてくれる。




 一方、数年前にフランソワ・トリュフォー監督版(1966年)を鑑賞した際に感じた「現代的リメイクをしたらありがちなSF映画になってしまいそう」という危惧も当たっていた。“いいね文化”の氾濫やWEB上の検閲といった現代的要素を無理なく取り入れているが、さほど新鮮味は感じない。個人蔵の書籍スキャンデータまできっちり焚書(削除)出来ているのか?といった今日ならではの疑問も湧く。


 なお、映画一作目では登場しなかった原作要素“悪いAIBO”こと犬型ロボットは本作でもオミット。リメイクしたら絶対入れてくるだろうなと思っていたが、恐らく出さなくて正解だった。絵面が強烈に安っぽくなったであろうから。



「パペット大騒査線 追憶の紫影(パープルシャドー)」(2018年)


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 人間とパペットが共存する世界。ロス市警初のパペット刑事フィル・フィリップスはある人質事件で失態を犯し、刑事を首になり、いまは私立探偵として過ごしている。
 ある日、サンドラ・ホワイトと名乗るセクシーなパペットから脅迫状が届いたので調べて欲しいと依頼を受ける。フィルは脅迫状の書体にエロ本の一部が使われていることに気づき、パペットが経営するアダルトショップに向かう。店の裏手で捜査をしていると、表で銃声がする。フィルが慌てて戻ると店主を含め、全てのパペットが殺害されていた。
 通報を受けたロス市警からフィルのかつての相棒でおばさん刑事コニーが捜査に乗り出し、二人で事件の捜査に挑むことになるが……この事件にはある陰謀が隠されていた!

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 本作は第39回ゴールデンラズベリー賞※の最低作品賞・最低脚本賞等で五部門ノミネート・最低主演女優賞を受賞し話題となった、悪趣味上等・下ネタ満載のブラックコメディである。
 なお、原題は「The Happytime Murders」。無論「踊る大捜査線」も「名探偵コナン」も無関係である。普通だったら“余計なことしやがって…”と感じてしまうが、本作の場合は映画のアホ臭さと邦題の脱力感が絶妙にマッチしており好印象。
サブタイトル“パープルシャドー”の謎が明かされた際のガッカリ感(褒め言葉)も良い。邦題付けた人に乾杯。




 本作はいわゆる“おバカ映画”であるが、CGに頼らず実物のパペットと人間が入り乱れる視覚効果については文句無しに素晴らしい。エンドロールでしっかりとメイキング映像を見せてくれるのも嬉しい。
肝心のブラックジョークは意外と控えめだったので、もっと下劣さがエスカレートしていても良かった気がする。人形(こちらはCGだが)と人間が共存するお下劣コメディといえば「TED」が真っ先に連想されるが、そのインパクトを超えることは出来なかったように思える。具体的な言及は避けたいが、作中最大のドン引きポイント:超大量に発射されるアレ並みのインパクトがあるシーンが他にも欲しかった。




 それにしても、誰だよこれ撮った“ブライアン・ヘンソン”って人...と思って調べたら、世界の歴史に残る超大御所人形師一族(お馴染み「セサミストリート」や、先日の記事“四月編”で紹介した「ラビリンス/魔王の迷宮」の製作者:ジム・ヘンソン氏を父に持つ)だったそうで。道理で素晴らしい技術を持っているわけだ!




 ※その年度で最低の映画を決めるジョーク賞。なお本作で“最低主演女優賞”を受賞したメリッサ・マッカーシー氏は、「パペット〜」と同年に公開された伝記映画「ある女流作家の罪と罰」の演技が評価されたことにより“名誉挽回賞”を受賞している。つまり“最低主演女優賞”と“名誉挽回賞”を同時受賞するという快挙(?)を成し遂げたことになるそうだ。


「I AM YOUR FATHER アイ・アム・ユア・ファーザー」(2015年)


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 SF映画史上の世界的大ヒット作「スター・ウォーズ」シリーズのエピソード4-6で名悪役ダース・ベイダーを演じた俳優“デヴィッド・プラウズ”。しかし、彼と監督:ジョージ・ルーカスとの間にはトラブルが重なり、ある事件をきっかけに「スター・ウォーズ」公式ファンイベントへの出入りを禁じられてしまう。
 その真実を探るべく、ダース・ベイダーを深くリスペクトする映像クリエイター達が立ち上がり、世界一有名な悪役を演じた、マスクの下の男の人生の光と影を描き出していく。そして、最後にもう一度だけ、史上最も有名な悪役になって、あの“名シーン"を演じて欲しいと、デヴィッド・プラウズへの説得を試みる──。

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 本作は、昨年亡くなったダース・ベイダーのスーツアクター:デヴィッド・プラウズ氏の半生を追ったドキュメンタリー映画である。「スター・ウォーズ」のドキュメンタリー映画といえば「ピープルVSジョージ・ルーカス」(2010)が有名だが、本作もそれに並ぶ良質なドキュメンタリー作品であった。




 映画ファンとして地味に勉強になったのは、ダース・ベイダーのキャラクター造型に“ガタイの良さ”が重視されていたという事実(プラウズ氏は約2mで、元ボディビルダー・ウェイトリフティング選手)。今や迷シーンとして名高い「エピソード6:ジェダイの帰還」ラスト、“パルパティーン投げ落とし”に関する裏話も興味深い。干されていたプラウズ氏の代役となったスタントマンは体力不足でパルパティーンを上手く担ぐことができず、結局は強靭な肉体を持っていたプラウズ氏が再度起用され“投げ落とし”を撮ることになったそうだ。
 つまり裏を返せば、あのシーンは絶対に“投げ落とす“行為でなければならなかった訳だ。大男が老人を投げ飛ばす…。「スター・ウォーズ」生みの親:ジョージ・ルーカス氏はその絵面がどうしても欲しかったことになる。フォースの電撃でブッ飛ばす、といった代案も可能な筈だったのに。
 しかし、結局善の心を取り戻したベイダーがマスクを脱いで姿を見せるシーンで映ったのはセバスチャン・ショウ氏。プラウズ氏の努力は報われず、「スター・ウォーズ」の世界から存在を抹消されることになってしまった。




 一方、本作ではプラウズ氏のダース・ベイダー以外のキャリアについても触れている。自身が主演を望むも叶わなかった「スーパーマン」(1978)の裏方として主演:クリストファー・リーヴ氏の肉体改造をコーチする、演じた交通安全啓蒙CMキャラクターが子ども達の間で人気になり、年間交通事故死者数を万単位で減らす(その功績により2000年に大英帝国勲章を貰う)など。このようにベイダーと無関係な部分だけで人生が濃いため、描かれる彼の人生には悲壮感が無い。“大役を降ろされた悲劇の人物”という見方だけで描いていないのは好印象だった。




 なお、本作はルーカスフィルム側から見ればトラブルの火種となったプラウズ氏を好意的に撮っていた構成なので、ベイダー役を降ろされた件の真相等の真偽については何とも言えない。本作を観た限りでは、(主にルーカス側が)社会人としての“ほうれんそう”を怠った結果様々な問題が発生しているように感じた。社会人として俺も気を付けよう。




●五月編 その2に続きます!
なお、写真は全てAmazonより引用しました。

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