運命という名のととに第5話
~妄想という名の短編小説~
第5話 『涙のわけ』
私と美咲は、休み時間と放課後になる度に会うまでの仲になっていた。この毎日のサイクルも心地いいひと時で、日が暮れるまでのあいだの…『青春』まさに、その言葉が似合う、そんな時間を過ごしていた。
『ねぇ、美咲ちゃん!今度、放課後…どっか行かない???』
『おぉ!いいね。・・・うん。』
『何かさ?美咲ちゃんとカラオケとか行ったら!めっちゃ楽しそう。私……音痴だから、歌えないんだけど💦』
『ぇえ?別にあたしも…上手くはないよ……。』
一瞬の間だった。ほんの…一瞬に過ぎなかった。声のトーンとは裏腹に、美咲の瞳が一瞬……、切ないようなそんな瞳に感じた。
『ごめん……。』
『?……なんで、謝るの?』
『いや……、何となく。・・・美咲ちゃんは美咲ちゃんの予定とかあるよね?!とか思っただけ!暇な時とかあったら、言ってね!』
『うん。』
『・・・。』
再びの沈黙……。
『ソラ~。あたしね?実は、バイトしててさ。いっつも、18:00から空いてないんだぁ。だから、この……放課後と帰り道までの時間がさ、私の自由時間なんだよぉ。』
あの時……、美咲の遠くを見つめるような切ない瞳を見たのは、この日が初めてだった。いつものまんべんな笑顔を他所に……、その物思いに更けるような瞳は、とても切なくて、今にも本当は泣き出しそうな、そんな瞳をしてた。頭に過ぎるあの聡子の言葉を……、必死に消そうとする自分がそこに居た。そんな自分が嫌で嫌でたまらなかった。なのに、聴けない自分が居る。「何のバイト?」ただ……、そのひと言を。胸に閉まってしまった自分自身をまた責めた。
それでも、美咲が醸し出す雰囲気だけは…いつもと変わることなく、ただ……ただ、遠くの空を見つめていた。微かに優しく少し上がった口角が微笑みながら……夕陽と共に沈んでいった。
そして……、その日の帰り道。いつもより静かな帰り道。どちらからともなく、話す言葉は数少なかった。それでも尚、肩を寄せあって歩いた帰り道に、何となく感じた気持ちたちと何となく感じて欲しいという気持ち。そんな気持ちたちが入り混じった蒼混じりの空色の下…いつものように、時間だけが過ぎていった。その静かな時間の中で、美咲が言葉をひらいた。
『ソラちゃん…。私ね?今、一人暮らしなんだ。そっ、親と暮らしてない。与えられた家でひとりで暮らしてる。アイツらが言ってた通りなんだよね。理由は違うけど……。』
『・・・。な、何があったの?聞いても大丈夫?あ、でも、嫌なら……無理に言わなくてもいいから……。』
『ふふ、ありがと。』
少しの沈黙のあと…美咲は言った。
『自由奔放な親を持つとさ!子どもは困るもんだ。笑 ウチの親さ?正直言うと、現在所在地わからないの!きっと、多分だけど…今、ヨーロッパ周辺に居るんじゃないかな。私の自由と引き換えに、自分も楽しませて?とか言って……居なくなったんだ』
『えっ?』
『えっ?って、思うよね?だけど、この世の中にはあるんだなぁ。かろうじてさ?マンションはローンとかないんだけど、生活費が足りないって訳で。バイトしなきゃならんのだ。だから、遊べないの。生活費くらい、送れっつーの!とか、思わない?』
『美咲ちゃんは、自分のバイトだけで、生活してるの?寂しくない?大丈夫?』
美咲は……ソラがピンポイントとして捉えた所に、そこ来るかよと思いつつも、この何だか…純粋過ぎる心に……、何か動くものを感じていた。
『寂しいよぉー♡ソラちゃん!だけど、お金ないと生きていけないからね!ちっとばかり、稼げるバイトしてるんだ』
『な、なんの…バイトしてるの?』勇気を振り絞っての言葉だった。
『そこ……聴くか?もしかして、誰だったっけ?聡…子?アイツの言葉、気になってる?疑ってるなぁ?!』
『えっ、え?そ、そんなこと…な、ないよ!』
美咲はそんな慌てるソラに癒しという感情を抱きながら…言った。
『掛け持ちしてるんだよ!3つくらい。だから、なかなか毎日、ヘトヘト。だから、学校とか来ても……ダルいだけ。すぐ、寝ちゃうし、帰っちゃうの。笑 だけどさ?最近、偉くない?毎日、放課後までちゃんといるんだよ。この…あたしが!ま、日中は保健室で寝てるけどね。笑』
笑ってたけど……。その笑った美咲の心のずっと向こう側の心が、私には…何となく、何となく…泣いているようにみえた。寂しいよぉと言いつつ、「寂しくなんかない」その言葉を…グッと堪えている美咲の姿を見ている気がしてた。そして、この時の切ない美咲の瞳を私は忘れないと思った。私は……、この日はじめて、美咲の弱さを知った。そして、いつも美咲がしてくれるように、私が美咲の背中をさすりながら……言った。
『大丈夫。大丈夫。私が傍に居るからね』
美咲の頬に零れた一雫の涙が…落ちるのを感じながら、今、自分にできること…それを目いっぱいにしたいとあの時は、思っていた。
美咲が帰り際、言った言葉を今でも憶えている。
『またね!ソラちゃん♡私は、ソラちゃんに会えて本当によかったと思ってる。久しぶりだよ!こんなに、楽しい、嬉しいと思えることなんてさ。だから…"ありがとう"』
美咲は、はにかんだ笑顔で、やや恥ずかしそうに笑った。あまりにも綺麗なその笑顔に、空(ソラ)の心が、どんどん奪われていくのを感じていた。
いつもより、やや遅い時間の夕暮れ時。今日はやけに藍色に染まった空すら…いつもより、明るく見えた。そして、二人の距離がどんどんと近づいていくその瞬間を感じられるそんなひとときでもあったんだ。
詩を書いたり、色紙に直筆メッセージ書いたり、メッセージカードを作ったりすることが好きです♡ついつい、音楽の歌詞の意味について、黙々と考え込んで(笑)自分の世界に入り込んでしまうけど、そんな一時も大切な自分時間です。