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大河内健志短編集

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記事一覧

連作短編小説「雪ふる京のうつろい」『白木の棺』

帰りが遅そうなるというてはりましたが、主人はまだ帰ってきはりません。 夕方から、雲行きが…

大河内健志
2か月前
8

短編小説『流氷の鳴き声』

彼女がさっき言った「自由」、どういうことなのだろう。 確かに、彼女は札幌に出てきて「自由…

31

私の投稿スタイルについて

2020年4月より、NOTEに投稿をはじめてから、2年余り経ちました。 現在までに340作品を投稿し…

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今すぐ、会いに行きます(小説『天国へ届け、この歌を』より)

「香田さん、ちょっと」 青山部長に呼ばれた。 別室に来るように言われた。いつもは柔和な表…

4

心は、あの頃のままなのに(小説『天国へ届け、この歌を』より)

香田美月が、このマンションに来たという痕跡を全て消し去った。 土曜日に、単身赴任をしてい…

7

私の生き様(小説『仮面の告白 第二章』より)

私は、皆があっと驚くような馬鹿げたことしてみたかっただけなのだ。 世間が、どんなに頭をひ…

6

はじめての音楽フェスでボーカルが急に歌えなくなる(小説『天国へ届け、この歌を』より)

ワタシたちは、現役高校生の青春パンクバンドとして、人気が出てきました。色々なライブにも、フェスにも少しずつですが、オファーが来るようになりました。 高校三年になっていたヤマギシ君ら三人は、進学を諦めて音楽の道に進みことに決めていました。でも、ワタシにとってその夏が、最後の思い出になりました。 新人バンドの登竜門と言われた「フラッシュゲート」と言うのが、関西で知る人ぞ知る音楽フェスなのですが、ワタシたちも何とかエントリーすることが出来ました。ここで、人気が出てメジャーデビュ

嵐のあとに(小説『天国へ届け、この歌を』より)

心地よい寝息が聞こえる。 このまま余韻に浸りたい。 眠っている美月に降り注ぐ月の光を眺め…

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武蔵の微笑み(時代小説『宮本武蔵はこう戦った』より)

武蔵は思い悩んでいたのだった。 小次郎に勝てるという自信がなかった。 今まで数々の試合を…

8

たそがれ(『天国へ届け、この歌を』より)

帰りの地下鉄は、混み合う。 特に淀屋橋から梅田方面に行こうとすると、京阪の乗り換え等で降…

2

短篇『光り輝く大切なもの』

「どうしても出来ないのやったら、せんでもかまへん。その代わり、この会社はもう終わりや。80…

16

あの人の思い出と現実 (『夕暮れ前のメヌエット』より)

ポケットの中に手を入れて携帯電話を取り出そうとした時、田中の家族は小津さんであることを改…

8

『饗宴』

突然、光を浴びせられた。 目の前に、顔を半分覆い隠す黒光りするマスクに、黒いゴーグル。 …

9

あのメロンパンをもう一度

焼きたてのクッキーの香りが、部屋中に漂う。 香ばしくて、鼻の奧が生クリームで満ち溢れるような甘い香り。 手作り感あふれる細かい格子もよう。 その模様の一つ一つが結晶みたいに盛り上がっている。 表面に振りかけられている砂糖の粒は、ガラスの粉をまき散らしたように細かい光をまき散らす。 においと美しさに負けた。 思わず一口。 クッキーの香りが鼻一杯に拡がる。 メロンパンが自分から私の口に入って行くような感じ。 クッキー生地のサクッとする歯触りの中から、バターの風味