アメリカでは大統領の記者会見報道をテレビ局が途中で打ち切る件

▼アメリカの大統領選では、現在の日本社会では絶対に起こらないであろう出来事が複数起こっている。

それらはたくさん起こっているのだが、そのうちの一つに、「現職の最高権力者の記者会見の中継を、テレビ局が途中で打ち切る」というものがある。2020年11月6日配信のNHKニュースから。適宜改行と太字。

トランプ大統領 不正の主張 SNS上で急速に広まる〉2020年11月6日 21時51分

〈トランプ大統領が票の集計などをめぐって不正が行われていると主張していることを受けて、ソーシャルメディア上ではこうした言説が急速に広まっています。

このうち、4日に立ち上げられた「ストップ・ザ・スティール」、「選挙を盗むのはやめろ」というフェイスブックのページでは、中西部ミシガン州デトロイトの開票所に市民が詰めかけ、「開票作業をやめろ」と声をあげる映像が投稿され、「バイデン氏は票を盗もうとしている」とか「公正なやり方ではない」などと書き込まれました。

この投稿は2000回以上シェアされたほか、ページへの参加者が一時は10秒ごとに100人ずつ増えるなど急速に拡散したことから、フェイスブック側がページを削除する事態に発展しました。

▼簡単に言うと、大統領自身がフェイクニュースを拡散していて、その影響を受けたフェイスブックのページが大盛り上がりになり、フェイスブックがそのページを削除したわけだ。

▼それだけではなく、さらに驚きの展開が待っていた。

〈一方、アメリカの主要テレビネットワークは5日、トランプ大統領が「選挙で不正が行われている」と主張した会見の中継を途中で打ち切るという異例の対応に乗り出しました。

このうちNBCテレビの司会者は番組の中で、「トランプ大統領が不正な投票が行われているなどと誤った主張をしているためです。こうした主張を裏付ける証拠はありません」と説明しました。

ソーシャルメディアでは、真偽が確認できない情報の拡散を防ぐためにアカウントの凍結や投稿の削除が行われていますが、テレビ局がこうした対応をとるのはあまり例がなく、メディアの間では誤った情報が拡散することへの警戒感が広がっています。〉

▼これは、マスメディアの役割について考えるうえで、じつに面白い現象である。

日本社会との比較で、2つ考えるべきことがある。

1つは、フェイクニュースに対する危機感が全く違う、ということだ。

もう1つは、マスメディアと権力者との距離だ。

言うまでもないが、この2つは深く関係している。

▼1つめは、「日本語の壁」が大きい。英語圏での大荒れの様子は、日本では知られていないし、実感もない。これから日本社会で大きな選挙戦があって、フェイクニュースの大嵐が吹き荒れれば、それから対応を考える人も増えるだろう。

もどかしいが、致し方ない。体験しないものはわからない。知識として知っていることでも、体験してみると、深刻さがまるでわかっていなかった、ということも多い。

しかし、それは事前に対策をしなくていい、という理由にはならない。

▼2つめは、日本語の壁とは関係ない。総理大臣の重要な記者会見を、NHKであれ民放であれ、あまりにひどい内容だからという理由で打ち切ることはありえない。

それは、そんなにひどい会見をする総理大臣がこれまでいなかったから、なのだが、たとえそういう総理大臣が登場したとして、今回のアメリカのテレビ局のような気骨ある態度と行動を、日本のテレビ局がとれるどうか。

▼朝日新聞社の「ジャーナリズム」誌あたりで、「アメリカ大統領選の100日」とか題して、アメリカのマスメディア、ソーシャルメディアの当事者たちのロングインタビュー大特集を組んでほしいところだ。そこから見えてくる日本社会の特徴、傾向と対策があるだろう。

▼極端な例が現れると、いろいろと比べることで見えるものがある。たとえば中国では、トランプのようなリーダーが選ばれることは絶対にないが、NBCのようなメディアが現れることも絶対にない。

民主主義の強さと弱さと。独裁の強さと弱さと。日本だけでなく、アメリカと中国だけでなく、世界中で、この2つの大国が次々に繰り出す極端な事例に振り回されながら、人々の幸福のために、必死に考え続けている人々がいる。

(2020年11月7日)

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