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夢野久作 | 少女地獄


はじめに


 生成AIの技術進歩がめざましい。当初私は、文学においては、AIが書いた小説は人間の書いた小説には遠く及ばないだろうと思っていた。

 しかしnoteにおいて、AIアシスト機能を使って文学作品を翻訳させてみると、非常にレベルの高い訳文になることに驚いている。

 今まで英語を学習してきた私からすると、正直に言って悔しい。今までの学習が無駄だったような気がして、一時期切ない気持ちになり、少し英語学習に嫌気がさすこともあった。

 しかし、せっかくの技術を用いないのはもったいない。

 この記事では、夢野久作の名作「少女地獄」の1節を、note AI アシスト機能を用いて翻訳させてみた。
 日本語原文とAI翻訳の両方を読んでみてほしい。



夢野久作 | 「少女地獄」

角川文庫 pp.9--11 より


 相手の紳士はそうした私の顔を、その黒い、つめたい執念深い瞳付で十数秒間、凝視しておりましたが、やがてまた胴衣の内側から一つの白い封筒を探り出して、恭しく私の前に置きました。… …御覧下さい… …と言う風に薄笑いを含みながら… …。

 白い封筒の中味はありふれた便箋でしたが、文字は擬いもない姫草ユリ子のペン字で、処々汚なくにじんだり、奇妙に震えたりしているのが何となく無気味でした。



  白鷹先生
  臼杵先生

 妾は自殺いたします。お二人に御迷惑のかからないように、築地の婦人科病院、曼陀羅先生の病室で自殺いたします。子宮病で入院中にジフテリ性の心臓麻痺で死んだようにして処理して頂くよう曼陀羅先生にお願いして置きます。

 白鷹先生 臼杵先生

 お二人様の妾に賜りました御愛情と、その御愛情を受け入れました妾を、お憎しみにもならず、親身の妹同様に可愛がって頂きました、お二人の奥様方の御恩を、妾は死んでも忘れませぬでしょう。ですから、その奥様方の気高い、ありがたい御恩の万分の一でも報いたい気持から妾は、こんなにコッソリと自殺するのです。わたくしの小さい霊魂はこれから、お二人の御家庭の平和を永久に守るでしょう。

 妾が息を引き取りましたならば、眼を閉じて、口を塞ぎましたならば、今まで妾が見たり聞いたり致しました事実は皆、あとかたもないウソとなりまして、お二人の先生方は安心して貞淑な、お美しい奥様方と平和な御家庭を守ってお出でになれるだろうと思いますから。

 罪深い罪深いユリ子。
 姫草ユリ子はこの世に望みをなくしました。
 お二人の先生方のようなお立派な地位や名望のある方々にまでも妾の誠実が信じて頂けないこの世に何の望みが御座いましょう。社会的な地位と名誉のある方の御言葉は、たといウソでもホントになり、何も知らない純な少女の言葉は、たとい事実でもウソとなって行く世の中に、何の生甲斐がありましょう。

 さようなら。
 白鷹先生 臼杵先生
 可哀そうなユリ子は死んで行きます。
 どうぞ御安心下さいませ。

       昭和八年十二月三日
           姫草ユリ子

                 」


note AIアシスト機能による英訳


Kyusaku Yumeno | "Girl Hell"
From Kadokawa Bunko pp. 9-11

 The gentleman in front of me stared at my face with his black, cold, and deeply penetrating eyes for about ten seconds. Then, he reached into his jacket and carefully placed a white envelope in front of me. With a slight smile, he said, "Please take a look."

 The contents of the white envelope were just common stationery, but the handwriting was unmistakably Yuriko Himekusa's elegant penmanship. It was somewhat eerie to see the smudges and odd trembling in some places.

"Mr. Shirataka and Mr. Usuki,

 I have decided to end my life. To avoid causing any inconvenience to both of you, I will commit suicide in the room of Dr. Mandala at the women's hospital in Tsukiji. I kindly ask Dr. Mandala to handle it as if I died from cardiac arrest due to uterine disease during my hospitalization.

Mr. Shirataka and Mr. Usuki,

 I will never forget the love and affection that you both bestowed upon me, and the kindness with which you treated me, not with hatred but as a dear sister. Therefore, in order to repay even a fraction of the noble and precious kindness from your wives, I will secretly end my life in this manner. From now on, my small soul will forever protect the peace of your households.

 Once I have taken my last breath, closed my eyes, and sealed my lips, all the facts that I have seen or heard will become nothing but lies. I believe that both of you doctors can then be at ease and protect your virtuous, beautiful wives and maintain a peaceful home.

 Guilty, guilty Yuriko.
 Princess Yuriko has lost hope in this world. In a world where even esteemed individuals with noble status and fame like you doctors cannot trust my sincerity, what hope is there for me? The words of those with social standing and honor, even if they are lies, become the truth, while the words of an innocent girl who knows nothing, even if they are facts, become lies. What purpose is there in such a world?

Goodbye. Mr. Shirataka and Mr. Usuki, the pitiable Yuriko will depart. Please rest assured.

             December 3rd, 1933
          Yuriko Himekusa "


感想


 どのような感想を持っただろうか?
 大意を伝えるという意味では、十分な翻訳ではないだろうか?

 文学的に凝った文体にしたい、と思えばもっと工夫できる箇所はあるかもしれない。しかし、私がこれくらいの長さの文章を翻訳するとしたら、少なくとも1時間から数時間はかかる。AIは1分もかからなかった。
 
 しかも、主人公「姫草ユリ子」の名前を「Princess Yuriko」と「Yuriko Himekusa」と訳し分けるという「小技」(こわざ)まで使っている。
 昭和八年も、西暦1933年に訳されている。

 あなたはどのような感想を持っただろうか?






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