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村上春樹の「一人称単数」は我々ジェネレーションの心に刺さる?!!

こんにちは。
先日村上春樹さんの長編新作「街とその不確かな壁」についての書評と合わせて村上春樹さんの今までの歴史を振り返ってみました。
この「街とその不確かな壁」が発売されたのが2023年4月13日、実は今年に
出版された村上春樹さんの作品がもう一つありました。それが2月7日に発売
された
「一人称単数」(文庫)
です。こちらは長編ではなく、短編集となります。

なんだ、と思われる村上ファンもいらっしゃると思います。
実はこの「一人称単数」のハードカバーは、コロナ禍の2020年7月18日に
発売されていました。
私はその時には特に注目せずに、「街とその不確かな壁」を
読了した後に、この文庫本に気づき購入して先日読了いたしました。

この短編集は本当やばかったです(良い意味で)。
一つ一つの短編作品が全部とても面白かったです。
いや、面白かったという表現ではなく
「深く心に刺ささりました。」
なぜなのか?
その理由は次の3つだと思っています。

1. 村上さんの独白
2. 語られている記憶が同世代
3. 現実と非現実の境界

1. 村上さんの独白
その理由の一つは、この「一人称単数」は村上さんの個人的な独白のようなスタイルだから話に引き込まれやすいということもあると思います。
独白的な語り口だからこそ、本当に村上さんの身に実際にあったことでは
ないかと思わせるくらいリアルなんです。
しかし、村上さんがインタビューで語っていましたが、これは見せ方であるということです。

「この作品集は自伝的な要素が大きいように見えるかもしれないが、それは
一つの小説的「仕掛け」であって、書かれている内容がそのまま自伝的で
あるわけでもありません。自伝的に見せて、それらしいフィクションを自由にこしらえていくというのが僕のそもそものプランでした。」
(クーリエジャポンのインタビュー内容より)

2. 語られている記憶が同世代
理由の2つ目はほとんどの短編集が、壮年になった主人公の過去の記憶を語る物語であることです。
つまり私たちのような「壮年から老年ジェネレーション」が最も共感しやすいということなのです。

主人公が語る記憶の全てが、同じ世代の読者の心にとてもリアルな波風を
もたらします。
例えばこんな独白に我々はドキッとさせられます。

「歳をとって奇妙に感じるのは、自分が歳をとったということではない。(中略)
驚かされるのはむしろ、自分と同年代であった人々が、もうすっかり老人に
なってしまっている…… とりわけ僕の周りにいた美しくはつらつとした女の子たちが、今ではおそらく孫の2,3人もいるであろう年齢になっているという
事実だ。」

確かに自分が歳をとったというのはあまり感じませんが、やはり同年代の友人を見た時にそれなりに歳をとっていることで、若い時に感じていたこれから何がおきるかわからない「期待」のようなものがもうなくなってしまったことに気付かされるのです。

そして村上さんが語る独白には、うまい具合に自分とも共通する、そんな過去の夢を共有する音楽モチーフが使われています。
今回使われているそんな小道具は
チャーリーパーカー
ビートルズ
シューマン
といったジャズ、ロック、クラッシックと多彩なジャンルのアーティストと曲たちです。

3. 現実と非現実の境界
そして何より村上作品独特の、現実のすぐそばにある現実ではない不思議な世界も物語に独特の深みを与えてくれます。この記憶は現実なのか果たして妄想なのか、という非常に紙一重の世界観です。

「クリーム」という作品の中に登場する「中心がいくつもあって外周を
もたない円」とはいったい何なのか。
言葉を話す「品川猿」なるものは本当に実在したのか
チャーリーパーカーの新作の実在を裏付ける後日談は本当にあったことなのか

どうですか?これ以上書くとネタバレになるので書きませんが、我々の
ジェネレーションでまだ「一人称単数」を読んでいな人は今すぐ読んでみて
ください。
すでに読んでしまった方ももう一度読み返してみたくなります。
そのくらい我々ジェネレーションの心に深く突き刺さる「我々自身の物語」
だからなのです。

それでは。

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