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本来ならば至極当然の政治:映画『ボストン市庁舎』レビュー

鑑賞にあたり

ご存知、274分という長丁場ということもあり、シートの座り心地が良さそう?な「新宿シネマカリテ」をチョイスし初訪問(※座席についてはあくまで個人判断です)。
こじんまりしているが、清潔でとてもお洒落だ。また行きたい!
そして本作の休憩時間は10分とかなり短いので、おやつ等集中力を保つモノが必携だ。新宿の映画館には自販機ならあった。

ちなみに「ヒューマントラストシネマ有楽町」の記事のスクラップ展示の量は圧倒的であった。映画館の熱意を感じる。
また「新宿シネマカリテ」は有楽町と一部重複はあるものの、また異なった視点の記事を集め展示しているように感じ取られた。ううむ、センスが光っている。
どちらも素晴らしい。是非ご覧いただきたい!(関係者ではありません笑)


感想
※こちらの作品はドキュメンタリーということもありネタバレなるものはない気がしますが、気になる方はご鑑賞後にお読みください。

早速だが本作をゆるっと説明すると、市役所の様々な部署の仕事っぷりを淡々と4時間超流していく感じである。

あまりにもトピックが多岐に渡るため、私は脳を切り替えるのに一苦労。
だがきっと、ご自身が関心のあるテーマがいくつか出てくるはずだ。個人的には、保健所や人前式(同姓婚)、ネズミ退治等々「え、これも!?」と驚くものばかりであった。

だがここに白状しよう。「よっしゃ観るぞ~!」と鼻息荒く乗り込んだくせに、建築材か何かのくだりで少し魂が抜けてしまっていたようだ…。
言い訳をすると、ちょうど生理的に眠くなる午後の時間帯であって…なんかこう…30分ごととかに区切ってもらって…もう一度見返したいかな…どうしても人間の集中力って限界があるからさぁ…。
自分の集中力の無さを呪った。

とにかく、ボストン市庁業務の幅広さには、ただただ舌を巻くばかりだった。
日本のお役所もある程度はそうだと思うが…そういったドキュメンタリーを見たことがないので、残念ながら内情がよくわからない。

あと、アメリカ式?ごみ収集の方法がヤバい。日本は粗大ごみは別だが、分厚いベッドマットや金属製のバーベキュー用コンロも、丸ごと収集車がバッキバキに取り込んでゆく…。「あれ簡単に人殺せるやん…」と心底恐ろしくなった。あのごみ達はどこへ行くのであろうか。

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さて、この監督の生み出すドキュメンタリーには、字幕やテロップ、ナレーションを入れない等の特徴があるそうだ。なるべく観客の想像力をかき立てたいがためだ。
「これは何の話し合いなのだろう…」と注意深く話に耳を傾けていると、背景や人物相関図がうすらぼんやり見えてくる。

ちなみに、ボストンは監督の故郷ではあるが、いくつかの市に撮影許可のオファーをしたところ、唯一返事が戻ってきたのがボストンだったそうだ。
そして監督は、撮影を始めてから市長の敏腕ぶりに目を止め、結果かなり政治色の強いメッセージを残している。

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映画を観終わり、ボストンがいかほどに移民が多いところであるかがよくわかった。知らないコミュニティの名前もたくさん出てきたし、地域によっては有色人種の割合が70%を超えるところもある。そしてそういった場所は、だいたい貧民街で治安が悪い。

そして、銃規制の話や退役軍人の集会、大麻ビジネスのくだりは、アメリカ独特のトピックであるため、特に興味深く拝観した。

市長は「銃の乱射事件が起こるのは、世界でもアメリカだけ。これは、教育が足りていないからだ」と主張する。前半で、市の予算の4割を教育に割いている、と説明があった。リーマンショック時も赤字を出さず安定した収支だったと聞き、素晴らしいと思った。
担当者は「支出は収入を超えられない」と説明する。うん、当たり前過ぎるけど、これができていない日本…何よ?
なお撮影当時は共和党のトランプ政権であり、銃規制についての発言は、民主党支持者が多いボストン市民に向けた発言とも思えた。

また退役軍人の話は、とにかく心がざわざわした。
「戦場にいることより故郷に帰ることの方が怖い」とは…なんという悲しい状態であろうか。からだの一部を失ったり、トラウマにとりつかれたり、彼らの多くは、戻ってきてからが本当の地獄の始まりだったのでは、と想像する。
支援の手が、きちんと届いていない。
市長は「皆さんの勇気と犠牲のおかげで、我が国の民主主義が守られています」と演説する。
ん?戦争をしないと、民主主義を守れないの???
戦争で自由を勝ち取ってきた国と、自由を与えられた国とでは、そもそも考え方が違うのだろう。

そして最後に、大麻ショップ出店申請に関する意見交換会!
出店者側は「市の指示でこの会を開いている」と何度も主張し、アジア系出店者の一人は「これで地域の雇用が生まれる」と熱弁する。
が、大麻かよ…。
「僕らのように真面目に住民と向き合おうとする人たちの方が少ないんだ」と彼らは言うのだが、ちょっと上から目線じゃないか?
「アジア人がオーナーのビジネスには、黒人は参加させてもらえない」「コミュニティの代表はほとんど白人で、マイノリティの声が届かない」「通訳がいなくて興味があっても参加できない」
文字通り、侃々諤々のミーティングであった。

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そういったやり取りの合間に、差し込まれる風景たちも印象的であった。
最初はボストンの歴史ある街並み。
それから、秋冬の寒々しく殺風景な景色、寂れた民家や小さな店たち。
そして、街角に佇む低所得層の人々を映し始める。虚無、絶望を感じさせる。無表情で仕事をする人々も。それは決まって有色人種の方たちだ。

雨や霧、暴風雨などは、ボストン市が置かれている厳しい現状を反映しているかのようだった。
ワシントン(トランプ政権)からの圧力がかなりあったのだろうと推察される。
中でも教会の聖母像の後ろをパトカー?が大きな音を出して走り抜ける場面がシュール過ぎる。「平和」「平穏」の実現の難しさを物語っているようである。

だが最後に少しだけ、雪解けの様子や、夜の美しい街並み、晴れた空・海岸が映し出された。
確か「ボストンはまだまだこれからじゃ!」って言っていた市長スピーチの前後辺りかな?

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その終盤のスピーチで、市長は「(声を聴くための)扉を開くと、多くの市民がやって来て、夢や希望を語ってくれた。我々はそれを注意深く聞き、学んだ」と話した。
「文句」とか「クレーム」じゃなくて、そうやってポジティブに表現するのは素直に粋だと思う。

「市長が一番フォーカスしているのは、経済的差別の撤廃だ」という言及もあった。人種、LGBTQ、ジェンダー、それは多岐に渡る。ご自身も移民の家系だ。

市長は何度も「自分に話してくれ、電話してくれ、手紙をよこしてくれ」と市民に訴えかける。
そう、自分の思いを話さないと、相手には決して伝わらないのだ。
これはコミュニケーションのだいじなだいじな第一歩。

しかし残念ながら、日本ではその機会が限りなく少ない。
しかも、思い切って発言すると、自分が女性だからというのもあるだろうが、だいたい変な目で見られる。それはましなほうで、酷いと『出る杭は打たれる』状態になる。そして、周りから人がいなくなる。そのコミュニティで居場所がなくなる。

私が外部セミナーや講習などに参加すると、よく、発言をする最初の人間になることが多い。私が何か言うと、ぽつぽつと話す人が出てくる。
私を見て周りの人たちは「あっ、発言していいんだ」と、気づくのだろう。
残念ながらこの文化が、日本のグローバル化を妨げている。

私は、自らを「打たれる杭」だと思っている。「出る杭は打たれる」の「杭」。

場所や時期は言えないが、半年ほど英語圏にいたことがある身としては、ディベート文化が当たり前過ぎたので
「日本よ、これが民主主義だ」とか「これこそ本当の民主主義だ」とか、この映画をべた褒めしている人の気持ちが正直本当にわからない。至極普通のことをやっているだけなのに…。

「皆自分の意見をバリバリ言っていてすごい」「どんな立場の人でも、しっかり発言している」といった感想は、日本のように感情を表にあらわさない文化の人々独特の感想だと思う。

市長も言っていたが、あくまでボストンの民主主義は「これから」。映画でも様々な問題が提示されており、民主主義が完璧に成り立っているとは思えない。ただ、より公平な市政になるよう努力する姿勢が、国内外でも評価されているのだろう。

映画が終了して、後部座席の方で拍手が起きた。ん?サクラか?どっかの政治か宗教の団体か?
それとも日本にもまだ期待して良いのか?
うーん…。うーん…。

画像はこちらよりお借りしました。https://pixabay.com/images/id-4866338/

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