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遺影と遺書を準備する

 年末になってバタバタと訃報が入って来た。直系の親族の死はないが、同世代の元同僚がここ数週間で相次いで亡くなり、今日は小松政夫さんの逝去にショックを受けている。金キドク監督も亡くなった。渡哲也さんといい、ひとつひとつの死の距離が近づき、その衝撃は日に日に大きくなっていている。間違いなく遠雷は徐々にこちらに近づいている。

 そういう年齢になったのだ。これから締める礼服のネクタイは白から黒。

 先日、昼の仕事の関係で一枚写真を撮ってもらった。レフ版を当て一眼レフで。セミプロの友人が撮ったぼくの写真は、そのまま遺影に使えそうだった。講師を務めている団体のプロフィール写真を差し替えてもらった。

 今年、コロナが大流行する前の話だ。大手通信社の記者と都内で会食した。「次に訪朝する時は、予め遺書と遺影をお渡ししますよ」とぼくは話した。万が一の時は、通信社が独自入手したコンテンツとして流してもらうためだ。別に北朝鮮に拘束されて死刑にされるようなことはしない。怪しい存在は北朝鮮はそもそも入国させないし、万が一入ってしまったら早々に出国させるのが北朝鮮という国だ。まさにウイルスと同じ扱いだ。

 ただし今回のコロナの厳正な処置を見るに、衛生上の理由から北朝鮮から突然出国できなくなる可能性はある。あるいはぼくの年齢なら、早逝した元同僚たちのようにかの地で客死する可能性も十分ある。

 マスコミはまるで腹上死した人のように面白おかしく書くだろう。北朝鮮に旅行して現地で死んだ日本人。帰国出来なくなった日本人。格好のネタだ。自己責任論が枯草に着いた火のようにぼうぼうと燃えあがるのだろう。

 だから予め、通信社勤めの記者に遺書と遺影を渡しておく。遺影はとっておきの写真を選ぶ。遺書もしっかりと書いておく。自死ではあったが、三島由紀夫の年齢にぼくはもうすぐ追いつく。いつ何があってもおかしくない。

 ―――なぜ北朝鮮に対して我々はここまで無関心なのか。かの国の姿を見て観察し情報を収集し、多面的に分析し対応を検討することはこれ即ち国益に他ならないではないか。他の国なら「インテリジェンス」の名のもとに普通にやっていることではないか。

 奇矯なる隣人として、面白おかしい存在、あるいは恐怖の対象としてのみ消費せず、早晩なくなる国と判断して一人前の国として扱わず既に20年以上の時間が過ぎた。それはまさに時間の浪費でしかなかった。やっかいで政治的な問題からは目を逸らし、鼻をつまんで先送りし、対話を拒否し、時間だけがいたずらに過ぎ、地道に作り上げて来た人間関係を消滅、空費させて来たのがまさに今この状態ではないか。拉致問題などこのまま時間切れを狙っているのではないかとさえ感じる。

 わかり得ぬものものこそ接近し、敵となり得る可能性が高いからこそより親しくなりその深意を探るべきではないか。

 私は日朝間に空いた大きな穴を埋めるために、自らの眼でかの国を見て観察し、かの国の人と交流したことを伝え、また同時にかの国においても透明化する日本のイメージを焼き付けるために訪朝したものである。

 私の写真とこの遺書が公開される時は、私は何らかのかたちで亡くなったか、不本意なかたちで出国出来なくなったときだろう。

 家族もいるし、帰国はもちろんしたいが日本に不利な政治交渉の材料として扱われることはぼくの本意ではない。最悪、この地で亡くなることも甘受する。取り得る限りの自己責任を取る。遺骨が日本の地に埋められなくても構わない。

 一部の在日コリアンの友人の中には「万が一の時には助けに行く」と言ってくれた方もいるが、深い感謝と共にことばだけで十分であることをお伝えしたい。このことばだけでも私が重ねて作って来た日朝間の友情は間違いはなかったのだと言える。

 重ねて言うが私の訪朝は軽挙妄動、物見遊山故ではない。日本の国益のために訪朝したことを強調したい。また家族への格別の配慮を切に希望する。特に民族派関係の方にはお願いしたい。万一の際は烈士として扱わないまでも、微かなれど日本の国益のために貢献したひとりとして、静かに見送ってほしい。

 天皇陛下万歳。

■ 北のHow to その106
 これまでも友人に何度か冗談で、遺書を書いて行けよとは言われましたが、本当に遺書が必要だと思います。不当な拘束はないにせよ、報道される時は面白おかしく、自己責任論と共に伝えられるのでしょう。
 それを防ぐためにも。また、万が一のためにも遺影も準備しておくのが大事と感じます。死を他人に譲り渡してはいけないのです。

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