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浪漫の箱

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浪漫の箱【第9話】

浪漫の箱【第9話】

↓第8話

「そうね。学校行くのね。」

祖母が朝食を咀嚼しながら話しかけた。

「はい。だいぶリラックスできたのでいったん家に帰っていろいろ準備します。」

「ほー。何か貴ちゃん逞しくなった気がする。ここに始めて来た頃と比べたら表情が全然違うがよー。」

「いえ、これもおばあちゃんのおかげです。ありがとうございました。」

「んもーっ。ずっとここにおってんよかとよ!今夜帰るなんて…。」

「はは

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浪漫の箱【第8話】

浪漫の箱【第8話】

↓第7話

平成3年12月1日。

不倫が発覚してからは怒涛の展開だった。

当事者同士を踏まえた話し合いは祖母宅で行われ、その場には日高夫妻もいた。

なぜならば同時期におっちゃんの不倫もバレたからだ。

アキおばちゃんの同級生より

『三郎くんと初美ちゃんがインター近くのモーテルの道(そこから先は民家はなくホテルのみ)に入ったんやけど!』

という密告があり、その人と共に尾行していたところ父と

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浪漫の箱【第7話】

浪漫の箱【第7話】

↓第6話

…と、おっちゃんと初美さんの卑しい怪談話はこんなものだ。

話し終えたおっちゃんの額には汗が滲んでいるようだ。何の汗かは分からないが一気に話をして疲れたのだろう。

それから一通り畑仕事を手伝って、日が暮れる頃に夕食を作って待っている祖母の家へ戻った。

「どうやった貴ちゃん?久しぶりに体を動かしてみて。」

「…キツかったです。」

色々な意味で。

「そうかいそうかい。」

「……

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浪漫の箱【第6話】

浪漫の箱【第6話】

↓第5話

あれから夕方までには祖母の家に帰り着いた。

おっちゃんには「畑仕事を頑張ったふりをしろ」と言われたが、言われなくても精神を揺さぶられ過ぎて疲れた。

夕食と風呂を済ませ、布団の上に寝そべる。疲れているはずなのに眠れない。

隣の布団では登場人物の1人である祖母が大イビキをかいている。

今日のおっちゃんの話を振り返るうちに内容が映像化され頭の中で流れ始めた。

――

―昭和49年、

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浪漫の箱【第5話】

浪漫の箱【第5話】

↓第4話

※今回の話は卑猥かつグロテスクな描写が含まれています。なるべくソフトに表現してますが、苦手な方やお食事中の方は読むのを控えてください。

「何か!気づいとったんか!」

「はい。ひと声かけてくださいよ。」

「…手紙は?」

「見ました。初美さん、謝罪文的なもんを祖母に送っていたんですね。」

宛先不明で返ってきていた手紙はまるで初美さんの死を受け入れられていないような文章だった。

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浪漫の箱【第4話】

浪漫の箱【第4話】

↓第3話

「よく来たね~。ささっ上がっくいやん。」

突然のお願いにも関わらず、祖母は快く迎え入れてくれた。

「しばらくの間よろしくお願いします。」

「そんなにかしこまらんと。これ貴ちゃん好きやろ?なた豆の漬け物!」

「あー!ありがとうございます。」

「ちゃんと漬かっちょっか分からんけど。固かったらティッシュにペッしっくいやい。」

「いや、美味しいですよ。」

「あ、ジュース飲む?あと

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浪漫の箱【第3話】

浪漫の箱【第3話】

↓第2話

写真のお姉さんを指差した瞬間、両親の顔が固まった気がした。

ほんの数秒の沈黙の後、母が口を開いた。

「…初美さんだわ。あんたが2歳の時に亡くなったの。この写真はあんたが生まれてからおばあちゃん家に遊びに来ていた時だね。」

「え、何歳で?」

「35歳よ。」

全然お姉さんじゃなかった。だが見た目は年齢よりも断然若々しい。

今生きていれば50歳。今の父より少し上くらいか。

ちな

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浪漫の箱【第2話】

浪漫の箱【第2話】

↓第1話

「…えっ!奥さんと仲良さそうだったのに…。」

2006年9月19日の午後。

まだ残暑が残るが風が吹くとほんのり秋を感じるど田舎の林の中。

目の前にいるいきなり現れたおっちゃんは「愛人からラブレターを貰った」と、僕にとっては心底どうでもいいことをカミングアウトした。

しかし貰ったラブレターと言うものは、無理矢理真っ白にされたただの紙である。

「今は繋がっとらんが30年前くらいに

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浪漫の箱【第1話】

浪漫の箱【第1話】

高校2年生の2学期、これから体育祭に文化祭、修学旅行とイベントが目白押し。

クラス全体が浮ついている雰囲気の中、僕は教室から逃げた。

特別嫌がらせをされたわけでもない。

何だか箱に閉じ込められているみたいで窮屈に感じていた。

毎日毎日同じことの繰り返し。

規則に縛られ、浮いているやつは吊し上げられる。

僕はとにかく人から注目されたくなかった。

ひっそり過ごしてさっさと卒業したかったの

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