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僕と後輩とスポットライト

――セリフを言い間違えても、俯いても、変わらず舞台を照らしてくれるスポットライトのように、どんな場面でも陰に日向に支えてくれた存在があったんです。それが、彼女だったんです。


人生は物語。
どうも横山黎です。

毎月最終日には、誰の目も気にせず、自分の過去についてつらつらと綴っています。今日は8月31日。早いもので、今月ももう終わりです。

今回は「僕と後輩とスポットライト」というテーマで話していこうと思います。




📚中学3年の文化祭公演

僕が中学時代に所属していたのは、演劇部。脚本を書くこと、演じることに興味が芽生え始めていたので、入学当初から入部しようと決めていたんです。そこでは脚本をつくる楽しさもさることながら、演じることの楽しさ、みんなでひとつのものをつくる楽しさを知ることができました。

中学3年の文化祭公演、僕らは僕の親友が書いたオリジナル脚本『高橋が居ない』という演目をやることになりました。

この物語は、勉強もスポーツもできて、見た目もいいし性格もいい、そんなスーパーマンみたいな高橋という男子高校生が学校をやめるところから始まります。高橋がいなくなったことで、高橋の周りにいた人たちの感情や秘密が露になっていき、ぶつかり合ってしまうんです。

僕が演じたのは、大地というバスケ好きの男子高校生でした。高橋ともよくバスケをしていました。しかし、この大地という男、本当は暴言と嫌みを言いまくるクズ男の一面があるんです。
#ダーク大地

それがよく分かるのが、絵里香という女子高校生とのやりとりのなかです。彼女はいなくなった高橋のことが好き。しかし、高橋は別の花音という女子のことが好きで、絵里香はそれを知っているから自分の思いが届かないことを分かっています。で、これらの関係性を、僕の演じた大地は全部知っているという状態です。

そんな絵里香と大地がふたりで話すシーンがあるんですが、ダーク大地が絵里香に向かって、「あいつは花音のことが好きだから!」というセリフを吐くんです。つまり、「高橋は花音のことが好きなんだから、おまえには振り向かないよ!」という残酷な現実を突きつけたわけです。

だいぶえぐいことを言いますが、大地という役のおいしいところはそこで、「あいつは花音のことが好きだから!」というセリフがハイライトともいえるわけです。

で、本番当日、僕はそのセリフを盛大に間違えました(笑)



「あいつは花音のことが好きだから!」というセリフを、「あいつは高橋のことが好きだから!」と言い間違えてしまった。「あいつ」とは高橋のことを指しますから、高橋は高橋のことが好きという謎の状況が生まれてしまった。何故か高橋の自己愛の強い一面をカミングアウトする展開になってしまったのです(笑)

セリフを吐いて1秒後、水を打ったように静かになった舞台の上、僕は自分の失態に気付きました。「あ、やったわ……」心の中で呟きました。どうしよう……どうしよう……と静かにテンパっていたとき、視界の隅にひとりの姿を捉えました。

僕を慕ってくれていた、後輩の姿です。


📚後輩というスポットライト

客席の隅で舞台を見守っていた彼女の姿を見たとき、僕の脳裏によぎったのは、公演が始まる前のことでした。

彼女は今回の公演、キャストとしてではなく演出家として関わっていました。よりよい舞台をつくるために方向性を示し、キャストや他の裏方を導く役割です。

演出家としての意識があったからか、本番当日、みんなが緊張しているなか、控室で部員全員に手紙を渡していたんです。

もちろん僕も受け取りました。そこに記された彼女の思いに、僕は思わず泣きそうになったことを覚えています。

……という出来事を思い出したんです。セリフを大間違いしたあと、彼女の姿を見かけてフラッシュバックしたんです。


前向いて。

あきらめないで。


そんな言葉が聴こえた気がしました。彼女からのメッセージを受け取った僕は、顔を上げました。そこには、光がありました。スポットライトの眩い光が、セリフを言い間違えて俯いていた僕を照らしていたんです。

文化祭公演当日までいろんなことがありました。僕と親友が喧嘩して練習が一旦中断したこともありました。あのときは本当に冷や冷やしたなあ。別の後輩が涙したこともあったっけ。どんなときでも、彼女は演出家として見守ってくれていたし、陰で動いてくれた。

セリフを言い間違えても、俯いても、変わらず舞台を照らしてくれるスポットライトのように、どんな場面でも陰に日向に支えてくれた存在があったんです。それが、彼女だったんです。

そんなこんなで、僕はここで終わりにしてはいけないと思い、逆に何も間違っていないかのようにごり押しでシーンを進めました。

ちなみに、今振り返っているからこれだけのことを書いていますが、当時はそんなことありませんでした。ここまでのことを5秒の間に考えて、というより、感じて、判断しました(笑)


このときの経験を忘れたくないと思い、僕は一連の出来事を詩にすることにしたんです。あのときとても印象的だった「スポットライト」を題に据えて、詩をつくったんです。

自己満足ではあるけれど、僕なりの感謝の気持ちを伝えようと、彼女にその詩を贈ることにしました。そしたら想像以上に喜んでくれて、なんと「曲にします!」と切り出してくれたんです。まさかの反応に驚きを隠せなかったんですが、それに勝る喜びが胸いっぱいに広がりました。

こうして、「スポットライト」が産声を上げたのです。


📚「先輩がいたから……」

文化祭公演が過ぎれば、中3に残された公演は卒業公演のみ。卒業公演は僕が脚本を担当しました。中3は僕含めて5人いたんですが、5人全員当て書きという形で脚本をつくりました。つまり、それぞれが一番やりやすいだろう役を割り当てたんです。その頃、僕はドラマの逃げ恥にはまっていたから、どたばたラブコメディをつくりたくて、卒業式の日に地味な女の子が男女含めて4人から告白されるという物語を書いたんです。

ちゃんと無事に成功できるかなあと少なからず不安を抱いていたんですが、それともう一つ気になっていたことがあります。後輩たちが先輩方に花束を贈る儀式のことです。

毎年卒業公演の後には、先輩ひとりに後輩ひとりが花束を手渡すんです。僕は誰から渡されるんだろうなあ、彼女がいいなあ、と密かに思っていました。しかし、彼女は演劇部の副部長。きまりはないけれど、副部長が部長に手渡すという流れがあったので、僕を担当してくれないだろうなあとあきらめかけていたんです。

卒業公演本番当日、演目自体はこれでもかってくらい笑いを取れたし、無事に成功しました。演目が終わって、最後に花束の儀式がありました。

ドキドキしながら待っていた僕の前に立ったのは、まさかの彼女だったんです。彼女から、花束を受け取ることができたんです。あのときは声を上げて喜んだなあ。

後で聞いたら、自分から言い出したらしくて、本当にステキな後輩に恵まれたなあと嬉しくなりました。



演劇部最後の思い出は、送別会でした。3月の下旬に東京都王子のレンタルスペースのような場所で開催されたんです。ゲームをやったり、クレープをつくったり、楽しい時間を過ごすことができたんですが、何よりも印象的だったことが、彼女から手紙をもらったことでした。

「先輩がいなかったら、今の私はいません」

そんな書き出しから始まる手紙には、僕に対する思いや感謝の言葉が並んでいました。僕がいたから演劇部に入ったこと。僕がいたからやめないで続けられたこと。僕がいたから僕を超えようと思ったこと……僕にとって彼女がスポットライトであったように、彼女にとって僕はスポットライトだったみたいです。

そして、文面の最後には「約束」について触れていました。そう、「スポットライト」に音楽をつけるという約束のことです。

送別会の日まで、「スポットライト」に音楽がついたのかどうか、僕は把握していませんでした。僕から聞くのも何か違うなと思い、そっとしていたんですが、ついに彼女の方から切り出してくれたんです。

生憎まだ約束は果たせそうにないとの記述がありました。しかし、僕はいつまででも待とうと思いました。これまでに彼女からもらったものを考えれば、安いものです。それに、こんな一文がありましたから。

「いつかちゃんと叶えるので、もう少し待っていてください」


📚約束が果たされる瞬間

僕たちは中高一貫校の中学、高校に通っていたので、中学卒業とはいえ会おうと思えば会える距離にいました。実際、僕が高校1年生のとき、後輩たちの卒業公演に少しだけ関わったこともあります。

ただ、高校3年間、「スポットライト」の話題は一度も出てきませんでした。もう忘れてしまったのかななんて不安になって考えないようにしようと思うようになっていました。

高校の卒業式はコロナで簡易化されましたし、後輩と会う熱い展開も全くありませんでした。実はちょっぴり期待していたんですけどね(笑)


その3カ月後のこと。僕は大学に進学し、6月に19歳の誕生日を迎えました。コロナだったし、僕はひとりピザを頼んで、中学以来の親友と電話をしながら過ごしていました。

そのときでした。

後輩からLINEでメッセージが送られてきたんです。ひとつの音声データと共に。

瞬間的に、僕は全ての記憶が蘇りました。彼女が、あのときの約束を果たしにきてくれたのです。メッセージを読んで、「スポットライト」を聴きました。驚くことに、アカペラでした。しかし、僕はアカペラで良かったと思いました。

彼女が歌詞を大切にしながら歌っていることが分かったからです。彼女の純粋で瑞々しい歌声の魅力を十分に味わえたからです。

これ以上ない誕生日プレゼントでした。



また彼女と会って、いろんな話をしたいなと思うようになったんですが、僕と彼女とでは活動拠点が茨城と東京で違うし、なかなかタイミングが合いませんでした。しかし、年賀状のやりとりは続いていたし、「また会いたいですね」という思いだけは共有していました。

彼女との再会を果たしたのは、なんと今月でした。偶然も偶然、運命の風に背中を押されて彼女と再会することができたのです。

詳しくは以下の記事をご覧になって欲しいんですが、とにかく最高の1日でした。思い出話に耽り、答え合わせと伏線回収をしたステキな時間でした。



全部語ろうとしたらかなり長くなってしまいましたが、今だからこそここまで熱く語れる話を綴ってみました。

きっと僕と後輩の物語はまだまだ途中で、いつになるか分からないけれど、また面白い未来が訪れると予感しています。それまでは、前を向いて、あきらめないで、スポットライトを確かに感じながら生きていこうと思います。最後まで読んで下さりありがとうございました。



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