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夢のような魔法の恋をした第10話

『初めての水着と2人の涙』

海に行く日。
この日の為に、彼女は奮発してスカート付きの
ビキニを買っていた。

幼年時代の習慣で、現地に着いたら
直ぐに海に入れるように、
水着は洋服の下にスカート以外、既に着ている。

待ち合わせをして、電車に乗る。
「この音楽、一緒に聴かない?」
彼が、カセットテープの
ヘッドフォンの片耳を彼女に差し出した。

初めて2人で聴く音楽。

流れてきたのはドラムの音、ベースが付いてくる。
それは
福山雅治さんの「you」という曲だった。

こんなに心震えるから あなたのそばにいるだけで
こんなに心焦がれるから あなたがそばにいるだけで
雨が 止む前に その前に むかえにいくよ

夏でも、心暖かい楽曲に自然と涙が流れた。
気まずいと、涙を拭いながら彼を見ると
彼も目を閉じて、涙を流していた。
それを見た彼女は、うれしくてまた泣いた。


福山雅治さんは、
ルックスだけでなく
本当に素晴らしい楽曲を作る方です。

先に言ってしまいます。
いま思えば

彼女のこの初恋は まるで
福山雅治さんの
「Hello」 で始まり

「you」

「squall」

「最愛」

「桜坂」

で終わったかのようでした。

そして、現在は

「milk tea」。


2人は、泣きながら微笑み合った。
言葉はなかったが、気持ちは同じだった。

鎌倉に着いた。

夏の鎌倉の大仏さまは
皆を見透かしているかのように、たたずんでいる。
過去の津波では屋根だけが流されたという。
大仏さまには、みえないチカラがあると彼女は思う。

「ねえ、Rちゃん!写真とろう!」
彼が、インスタントカメラをこちらに向けている。
照れながらも、彼女はコギャルポーズで笑顔。
「私も撮るー!」

彼は澄まして、カメラにからだの側面を見せて立ち、
大仏さまに寄り掛かって、片足をだして、
タバコを吸う謎のポーズ。
「なにそれー!(笑)」カシャッ。

タバコを吸わない彼は、
真面目なことをいうとき、
あえて、タバコを吸うポーズをしながら
笑顔で話していた。
照れ隠しだ。

「どこから、海にいけるかなー?」
彼女は、結構行き当たりばったりな彼に
驚きながら、ナビを任せた。

はじめて、江ノ電に乗った。
稲村ヶ崎というところに降りた。
「海が見えるよー!」
「よーし!入るかー!?」
「エッ。入るの?」
「えっ。水着もってきてないの?」
「、、、。着てきたよ。」

「海、入れるじゃん?」
「見られるのムリー(照)!とりあえず、シート敷こう?」
「シートね。それは、やらないとね。」
「日に焼けるなんて、久しぶり!」
「俺、もっと黒くなる(笑)」

「ガングロだね!(笑)」
「もう、そんな年じゃないよー!」
そんな話をしながら、2人は目を細め
夏の眩しい砂浜と海岸線を眺めながら
日焼け止めを塗り始める。

「Mくん、背中に塗ってくれる?」
「おー、わかった。俺もよろしくね。」
男らしい返事のわりに、
彼女への日焼け止めの塗り方は控えめだった。

彼女の番だ。
細くて広い、大きな背中。
ドキドキしながら、すでに熱い背中にクリームを塗る。
(お父さんの背中って、こんな感じなのかな?)
彼女には父親の記憶がない。
それゆえ、彼に父親像を投影してしまうようだった。

館山の内海をみなれた 彼女から見る
稲村ヶ崎のその日の波打ち際や海は
少し荒れているようだった。
これがふだんの稲村ヶ崎かもしれないが。

家族連れと、カップルが歓声を上げて
遊んでいる。幼き日のいつもの彼女なら、
すでに声を上げながら海へダイブしている。

大人に近い彼女は
その日、海に入らなかった。
理由は単純。
自分の身体への
コンプレックスが強かったからだ。

テレビでみる華原朋美さんや
安室奈美恵さんはスタイル抜群だ!
彼女は胸が小さく、どちらかというと
お尻は大きめの安産型だった。

憧れるスタイルと、
現実の自分のスタイルとの違いは
痛いほどわかっていた。
それを誰かさんに比べられたくなかったのだ。
ただ、それだけだった。

彼は残念がった。
海辺が暗くなった頃、
「次回に期待するかなー。」
そういって、眠そうに寝転んでいる。

時間は18時はすぎただろうか?
こんな時間まで海にいるのは初めてだった。
砂浜のシート越しの丁度よい暖かさと、
波打ち際の繰り返す波の音で眠くなってくる。

そろそろ、帰らないと。
帰り道はさみしかった。
彼は、改札まで送ってくれた。
繋いだ手が
なかなか離れない。

彼が決意した顔つきで言う。
「次は、お台場にいってみない?」
彼女の顔がパッと微笑んだ。
「うん!初めてだね!楽しみにしてるね!」
「おう!またね!」
「またね!」

彼女が電車に向かう。
彼が帰途につく。

彼女が振り向いて、彼を探す。
彼が彼女を見つけて、手を振る。

手を振り返す。

2人は自分の道に戻る。

彼女が振り返る。
彼は向こうに歩いていくのを見つめる。

彼女は笑顔で、電車に向かう。

彼が振り向いて、彼女を探す。
彼女が電車に歩いていくのを見つめる。

彼は、たぶん
笑顔でホームに向かう。

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