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ショートショート

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心をこめて書かせていただいた、愛に溢れるショートショート(小説…あるいは詩…もどき…)たちです。あなたの愛が大きく育ちますように。
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記事一覧

#098 推し消費の現在地

#098 推し消費の現在地

「最低でも収入の3分の1くらいは、推しに使っていますね」

そう語る彼は、たばこに火をつけこう言った。

「このたばこも、推し活の一環ですよ」

彼を見ていると、得たモノや体験の価値以上に、推しに使った金額が重要かのように見える。

「当然ですよ、自分が出せるぎりぎりまで使って、応援したいですからね」

なぜ、そこまでするのか?

「推しが人生の全てですから」

自分の将来よりも?

「推しが元気

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#090 私事で大変恐縮ではございますが、この度も結婚していない事をご報告いたします。

#090 私事で大変恐縮ではございますが、この度も結婚していない事をご報告いたします。

このたび、わたしは2023年11月24日になっても結婚に至らず、お相手どころか友達すらいないため絶望の極みに達しております。

お知らせが遅くなりましたが 今年も残すところあと一ヶ月しかなく、クリスマスめがけて出会いを求めることも癪なので、今年はここいらで諦めることを、謹んでご報告申し上げます。

いくつになっても未熟でございますので、仕事と家庭の両立どころか、自分の世話すらできないため、今後も暗

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#085 面接官のひとりごと

#085 面接官のひとりごと

面接というのは退屈だ。

同じ年齢の、同じ髪型の、同じ服装の学生が次から次へとやってきては、変わり映えのしない問答を繰り返す。

これを一日中やるというのだからたまらない。

だが、それに折れることなく応募者の資質を見抜くというのが、面接官の仕事である。

当社に脂肪をいただきありがとうございます。
早速ですが、あなたの塩麹を効かせてください。

定番の質問だ。
皆だいたい、漬けるとか和えるとかし

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#077 ムラムラしてるんです。

#077 ムラムラしてるんです。

幅の狭い歩道を歩いていると思うんですよ。
ちょっと私がふらついたら、アレしちゃうなって。
もう想像するだけで、逝っちゃいそうになります。

はぁ…(恍惚)

あのプリウス、ブレーキとアクセル踏み間違えてくれませんかね…

電車がホームに入るときにも思うんですよ。
殺戮マシーンがきたぞって。

私を轢いても、そのまま「扉閉まりまーす」とか「発車しまーす」とか言って、定時運行してくれたら、めちゃくちゃ

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#074 私の頭の中の立てこもり犯

#074 私の頭の中の立てこもり犯

人類にとっての朝とは本来、健やかなる一日の始まりであるはずだ。
しかし私の体は、ひとり違う星の重力を受けているかのように、重たい。

メンタル「働くな!殺すぞ!」

いま目覚めたばかりなのだが、仕事をしたら死ぬことになるらしい。

メンタル「いいか、動くんじゃねぇぞ!」

この布団から、うかつには出られない。

メンタル「年休を出せ!上司に電話して休暇をとれ!」

たしかに年休はある。
しかし、言

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#070 レクサス念力師

#070 レクサス念力師

とある山奥に、日がな一日レクサスオーナーの集まる場所がある。

念力師と呼ばれるその男は、作務衣に白足袋といういでたちで、長い顎鬚を撫で付けながら、行列をなすオーナー達の陳情に頷いている。

「はじめます」

念力師がそう言うと、辺りは水をうったように静まりかえった。
いつしか風も止み、神聖か、はたまた邪悪かといった、えもいわれぬ空気が流れる。

「ふむ…むむむ…」

念力師は目を瞑り、血管の浮き

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#067 お客様は神様です

#067 お客様は神様です

インカムからノイズ混じりの声が聞こえる。

「オープンします。お客様ご来店です」

自動ドアの電源が入り、ガラスの扉が左右に開く。
午前の太陽が逆光となり、お客様には後光がさしている。

「おお!神よ…」

副店長はぬかづき、涙している。

「神は偉大なり!」「我らが主よ!」

スタッフは口々に神を讃える、声さえ出せずに嗚咽を漏らす者もいる。
新人スタッフは、一瞬のうちに失禁していた。

神がわた

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#066 伝説のチャンピオン

#066 伝説のチャンピオン

華々しい入場の演出が終わり、会場全体が息をのむ。
チャンピオンとチャレンジャー、二人の存在感はとてつもなく大きい。
見慣れたリングが、その時ばかりは小さく見えた。

チャンピオン「そんなこともできないの?」

チャレンジャー「その程度のことも教えられないの?」

ゴングの直後から、素早いジャブの交換が行われる。
圧倒的なテクニックを持つチャンピオン、強烈なカウンターを持つチャレンジャー。

チャレ

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#056 この小さな命に責任をもって、最後まで一緒にいようと思います。

#056 この小さな命に責任をもって、最後まで一緒にいようと思います。

雨降りの下校中、駐車場のベンツの下で泣いているインテリを見つけて、連れ帰ってしまった。

母はインテリを飼うことの大変さを説いたあと「捨ててらっしゃい」と切り捨てたが、動物好きの父が「かわいいじゃないか、飼ってあげよう」と言うから救われた。

以来、家族の一員である。

しかし、実際に飼ってみると、母の忠告が身に染みた。

インテリは歯車が好きだというので、ハムスター用の回し車を買い与えてみたが、

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#049 暴走族がきこえる

#049 暴走族がきこえる

あごが壊れて頭が上を向いたままのバッタみたいなバイクを先頭に、長い背もたれつきのシートで二人乗りが快適なバイクが何台かと、「魅羅狂婦麟(みらくるぷりん)」のノボリを立てたスクーターがまた何台か。

合計何台なのか、何人いるかも定かでないが、走るうちに仲間がだんだん増えていく感じがする。
日の丸がいっぱいあるし、木刀を担いでいるし、ホーンがパラリロ鳴っている。

私は徒歩より遅い蛇行運転のバイク達を

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#048 9回裏、最後の夏。

#048 9回裏、最後の夏。

キャッチャーが示した場所にボールを投げればいいだけなのに、毎度のことだがめんどくさい。
あれはたぶんフォークを投げろと言いたいらしく、股の間でしきりにパーを出している。

一塁の走者が走るぞ、走るぞ、とやっているのが視界に入るのもストレスだ。
もう、2回も牽制しているし、正直関わりたくない。
走ればいいじゃんとしか思えない。

様子がおかしいのに気がついたか、バッターがこちらに向かって何かを言って

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