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文学をめぐって

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何者でもない日…

何者でもない日…

 年度が始まって間もない日、長期、また短期の見通しと度段取りがついたところ
で有給休暇を1日取った。

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 数年前、父が亡くなった時、戸籍の抹消、遺影選びやそれにまつわる写真、身の回りの品の整理などをした。初めての家族の家族の死を前に、悲しみとは別に、このように、人は社会から消え去るものな

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俵万智「サラダ記念日」と現代口語短歌の可能性について

俵万智「サラダ記念日」と現代口語短歌の可能性について

取り上げるのは、俵万智の第一歌集「サラダ記念日」で1987年5月8日河出書房新社より初出発行。翌年に現代歌人協会賞受賞。作者はこの時二十四歳。

85年「野球ゲーム」で角川短歌賞二席、翌86年「八月の朝」で角川短歌賞を受賞、「サラダ記念日」にその作品が収録されている。マスコミは20代の女性が受賞したことを取り上げ、マイクを持ち、壇上にワンピース姿で初々しい笑顔を見せる作者がフラッシュを浴びる表彰式

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小さな水先案内人

 私が小学校五年生の時、日曜日の市で、父がグローブを買ってくれた。新しいグローブにマジックで「国分」と名前を書いてくれた。うれしくて、何度も右手にはめたりはずしたりしていた。そのグローブは、手元にあるが、今はほとんど使うことがない。

 私は小学生の頃「小児喘息」という病気にかかっていて、病院通いをすることが多かった。母に手をひかれて息苦しさをがまんしながら、泣きたい気持ちで病院へ通ったことをおぼ

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きつねの窓

きつねの窓

本稿は安房直子「きつねの窓」の児童文学としてのプロットと描写の魅力について論じる。

まず、あらすじに触れる。主人公「僕」は猟師で、狩りをするために山へ入り、道に迷ってしまう。そこで子狐を見つけ、追っていくと、突然、いちめんのききょう畑が開け、一見の染め屋が現れる。程なく店からは子どもの店員が出てきて話しかけ、主人公に指を染めることを勧める。そして自分の染めた指で窓を作って見せる。すると、そこにゆ

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